ビットコイン先物のBakkt(バックト)が世界中で注目される理由とは

2019/08/20・

Yuya

ビットコイン先物のBakkt(バックト)が世界中で注目される理由とは

インターコンチネンタル取引所(ICE)傘下の暗号資産取引業者「Bakkt (バックト)」が、待望の「現物引渡しビットコイン先物」を今年9月23日にローンチすることを発表しました。

BTC価格はこの発表後に5%ほど上昇しており、Bakktへの期待が市場にも表れているとも捉えられます。加えて、BakktのBTC先物商品は登場後もビットコイン市場に好影響を与えるとする予測が多く立てられています。

大型取引所の暗号資産市場参入であれば、シカゴマーカンタイル取引所(CME)がすでにビットコイン先物をリリースしているわけですが、なぜBakktだけがここまで特別に注目されているのでしょうか?

本記事では、Bakktの成り立ちと、ローンチを控える現物引渡しBTC先物の仕組みをわかりやすく徹底的に解説し、これらが大きな注目を浴びている本当の理由を考察していきます。

スターバックスやマイクロソフトとも提携するBakktとは一体何者なのか

Bakkt(バックト)は暗号資産カストディ業務への参入と現物引渡し型のビットコイン先物の開発に取り組む企業で、昨年10月にプロジェクトを正式発表しました。

同社は「デジタル資産に透明性と信頼性をもたらす」ことをミッションに掲げています。

暗号資産市場は、価格形成メカニズムの不安定さ(取引所間の価格乖離や市場のボラティリティ)や、セキュリティの弱さ・規制遵守の曖昧さなどといったカウンターパーティーリスクの高さから、機関投資家が未だ手をつけにくいものとなっています。

そこでBakktは、先物商品に基いてデジタル資産の価格形成を達成し、法規制に遵守したカストディ業務とAML・KYC(対資金洗浄策・本人確認)を徹底することで、機関投資家の参入促進を目指しています。

BakktのBTCウェアハウジングは、比較的少額を管理するホットウォレットと、残額を管理するコールドウォレットに分けられています。

ホットウォレットはFIPS 140–2 level 3と呼ばれる秘密鍵生成・管理モジュールを採用しており、秘密鍵にアクセスするには複数人の認証が必ず要るようになっています。

コールドウォレットは銀行グレードの金庫に保管され、ホットウォレット同様、アクセスには複数の鍵を同時に使用する必要がある設計になっています。

また、両ウォレットとも保管地には24時間体制の警備まで付いています。暗号資産取引所のハッキングが日々騒がれる中、Bakktはセキュリティを徹底することで機関投資家の不信感を払拭しようとしています。

Bakktに関連する企業はとにかくネームバリューがある

同社の親会社であるインターコンチネンタル取引所・通称「ICE」は、世界最大の証券取引所「ニューヨーク証券取引所(NYSE)」を運営する大企業です。

これだけに止まらず、Bakktはスターバックスとマイクロソフトというメガ企業2社とも提携を結んでおり、そのネームバリューだけでも大きな注目を集めることとなりました。

スターバックス社のプレスリリースによると、マイクロソフトはBakktへクラウドサービスの提供を行うことになっています。

一方スターバックス社自体は、「消費者がデジタル資産を米ドルに両替してスターバックスで使用できる」アプリケーションの開発に重要な役割を担っていくとしています。

また、マイクロソフトがベンチャーキャピタル部門からBakktへ出資を行うことも明らかになっています。

その他にも、Fortress Investment Group,  Eagle Seven,  Galaxy Digital,  Horizons Ventures,  Alan Howard,  Pantera Capital,  Protocol Ventures,  Susquehanna International GroupなどのファンドがBakktに出資していることもわかっています。

世界中から注目が集まる「現物引渡しビットコイン先物」

Bakktが9月23日にローンチを予定しているプロダクトは機関投資家向け「現物引渡しビットコイン先物」です。

まず、先物契約とは「将来の売買について現時点で約束をする」契約のことです。ビットコイン先物であれば、「10月1日に1BTCを10000ドルで買う」などといった例が挙げられます。また、売買する商品のことを「現物」と呼びます。

契約が満期に達すると、契約に基づいたクリアリング(代金と現物のやり取り)が行われますが、多くの先物契約は、現物を受け取る代わりに相当額の現金を受け取る「現金決済型 (Cash settled)」となっています。

例えば、投資利益目的で金属先物を取引するトレーダーは、実際に現物を入手することには興味がありません。したがって、こういう場合は現金決済型の方が便利なわけです。

冒頭で紹介したシカゴマーカンタイル取引所(CME)のBTC先物は、この現金決済型を採用しています。一方、Bakktがリリースするビットコイン先物は「現物引渡し型 (Physically delivered)」です。

なぜ、現物引渡しにこだわるのか?

現物引渡し型ということは、決められた日時にBTCを買う側も売る側も、契約に基づいて満期に取引する分のBTCを実際に受取り・引渡しをしなければならないということです。

言い換えれば、Bakktが展開するビットコイン先物市場に参加するには、機関投資家はBTCを購入する、あるいはすでに保有している必要があるということになります。

つまり、こういった機関投資家マネーが法規制を徹底遵守した市場に流入することで、価格操作の可能性を極限まで抑え、ビットコインの真の価格形成がもたらされると考えることができます。

またクリプト市場においては、この機関投資家マネー流入がビットコイン市場を安定・活性化し、米SECのビットコインETF承認に際する不安解消に繋がるのではないかという見方があります。

さらに、ビットコインを取り扱う各種業者は、価格変動のリスクを抑えることができる(=ヘッジができる)商品が登場することで、業務上BTCを取り扱いやすくなるというメリットも存在します。

例えば、顧客からBTCの支払いを受ける小売店や、取引所など業務上BTCを買い付ける必要のある業者は、この先物を利用することで、将来購入・売却するBTCのドル価格を前もって固定し、価格変動リスクを小さく抑えることができるようになります。

日本では過去に、暗号資産での決済を受け付ける飲食店なども存在しましたが、2017年末からの市場暴落とともに経営困難に陥りました。

こういったケースも、先物契約で数ヶ月先のBTC売却価格(BTCを日本円に変換するレート)を予め固定しておいたら、価格変動による損失をカバー(ショートヘッジ)できたかもしれません。

Bakktのビットコイン先物は2種類ある

Bakktが今回ローンチする先物契約はデイリー(日ごと)とマンスリー(月ごと)の2つがあります。

デイリー先物は満期1~70日でBTCを取引できる契約で、証拠金(マージン)を元にした取引が可能であるとされています。レバレッジ倍率などの詳しい情報は数週間以内にも発表されることになっています。

一方、Bakktのマンスリー先物は月ごとに満期が設定された契約で、最長12ヶ月までのポジションを取ることができるようになっています。

どちらの先物契約も、契約あたりで取引するビットコインの枚数(契約サイズ)は1BTCとなっており、最低10ロットから取引可能となっています。

チーム設立から約1年 BTC先物やカストディアンの競合も現る

Bakktは昨年10月にプロジェクトを発表し、何度か計画の延期や変更を行った後、今年7月から一部顧客を対象としたカストディ業務及び先物取引プラットフォームのテスティングを開始しました。

さらに同社は、9月23日にローンチ予定のビットコイン先物契約が米商品先物取引委員会(CFTC)から承認されたことを8月17日の発表で明らかにしました。

これに加え、BakktはすでにNY州金融サービス局(NYDFS)からカストディ業者(Bakkt Trust Company)としても登録されているため、先物契約に伴うBTCのウェアハウジングの準備がとうとう整ってきたことになります。

同社は規制当局からの認可取得を急いだ他にも、価格が大暴落した2018年初頭からビットコインを買い付けるなど、プロダクトローンチを早めるために様々な戦略を取っていたことがわかっています。

BTC先物市場の競合

計画通りに進めば、Bakktはおそらく現物受渡しビットコイン先物を米国で初めてローンチする企業となりますが、同様のプロダクトのローンチを控えている企業は他にもいくつか存在します。

大手ブローカーのTD Amritradeから投資を受けている米国の暗号資産取引事業者「ErisX」は、今年7月にCFTCからDCO認定を受けており、2019年後半に現物受渡しビットコイン先物のローンチを予定しています。

LedgerXは、7月下旬に現物受渡しビットコイン先物のローンチを間近に控えていることを発表し、Bakktの先を越すとして注目を集めましたが、以降CFTCからの通告を経て発表を撤回しました。同社が展開する先物契約は一般投資家も取引可能となる点が特に注目されています。

また、Bakktを含め、これらの先物契約は各取引所が標準を設定する「フューチャーズ契約」ですが、価格や満期を取引者間で決定して取引を行う「フォーワード契約」の提供に取り組むSeed CXやtrueDigitalなどといった企業も存在します。

カストディ業者の競合

ビットコイン先物契約で注目を集めるBakktですが、同社はペイメント事業の展開なども目論んでおり、そのコアとなるカストディ業務にも大きなリソースを割いているものと考えられます。

米国の有名な暗号資産カストディアンにはCoinbase CustodyやBitGo、Fidelity Digital Assetsなどが挙げられます。

8月中旬に香港のカストディアンを買収したCoinbaseは、最大でビットコイン流通量の4%をAUM(管理資産下)に置くことができるとみられています。BitGoも、約20億ドル相当のビットコインを管理していると報道されています。

Fidelity Digital Assetsは今年5月にサービスを開始したばかりですが、親会社のフィデリティ・インベスメンツは世界で5番目に大きいアセットマネージャーです。

先物契約をいち早くローンチし先行者利益を獲得していきたいBakktですが、ペイメントなどの事業にも参入していく上で、同社はこういった大手カストディアンとも対抗していかなければなりません。

カストディ業務の開始

2019/08/29追記:

Bakktは、カストディ業務(ウェアハウジング)を2019年9月6日から開始することを発表しました。

BTC先物ローンチ控えるBakkt 9月6日からカストディ業務開始へ – CRYPTO TIMES

まとめ − Bakktの今後の展望とは?

Bakktは「カストディ」「先物契約」「コンプライアンス」の他に、「ペイメント」にもフォーカスしています。

スターバックスが提携時に発表した「消費者がデジタル資産を米ドルに両替してスターバックスで使用できる」アプリケーションはBakktのペイメントプロダクトの第一弾となる可能性もあります。

Bakktの究極の目標は、年金機関などが暗号資産に投資したり、消費者が暗号資産で商品を購入したりしやすくなるエコシステムを構築することだといいます。

これに伴い同社CEOのKelly Loeffler氏は、2020年までにも一般向けのデジタル資産ペイメントインフラとしての立ち位置確立を目指すと述べています。

6月には、Bakktがペイメントアプリ「Bakkt Pay」の開発に際し、元グーグルのコンサルタントを引き入れたという報道もあります。

以上を踏まえ、現時点では現物受渡しビットコイン先物が予定通りの9月23日にローンチされるかに注目しつつ、ペイメント分野での進展などもチェックしていくべきと考えられます。

現物引渡し型先物の正式ローンチ

2019/09/23追記:

Bakktは、現物引渡し型先物を予定通り9月23日にローンチしました。

Bakkt(バックト)が現物引渡し型ビットコイン先物を正式ローンチ

出来高最高値の更新

2019/10/25追記:

界隈の期待とは裏腹に出来高が付いていなかった現物引渡し型先物でしたが、10月23日に過去最高出来高の480万ドル(前日比7倍)を記録しました。

オプション契約ローンチの発表

2019/10/25追記:

Bakktは2019年10月24日に、ビットコインのオプション契約を同年12月9日にローンチすると発表しました。

ローンチ予定のマンスリーオプション契約はヨーロピアンスタイル(満期日まで執行不可)で、セトルメントは現金でポジションを閉じるか、または現物(ビットコイン)を受け取るか選ぶことができるようになっています。

NY州金融サービス局の認可を受け、全期間投資家向けのカストディサービスの開始

2019/11/12追記:

BakktはBakktが提供するBakkt WarehouseのカストディサービスがNY州金融サービス局の認可を受けたことを発表しました。

今後、世界中の機関投資家がBakktのエンタープライズグレードのサービスを使用して資産を保護することができるようになります。

現金決済によるBitcoin先物事業の承認に向けて、シンガポールの金融庁と協議中

2019/11/13追記:

CoinDeskが主催するカンファレンス NY:Investmentにて、Bakktがシンガポール金融庁と現金決済によるBTC先物事業の承認を協議中であることを明かしました。

参考情報:

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