ブロックチェーンのスケーラビリティーの問題を解決する技術「Plasma」とは?–Cryptoeconomics Lab 片岡拓

ブロックチェーンのスケーラビリティーの問題を解決する技術「Plasma」とは?–Cryptoeconomics Lab 片岡拓

1992年生まれ・現在26歳のCryptoeconomics Lab CEO 片岡拓。Cryptoeconomics Labは、ブロックチェーン技術とCryptoeconomics(行動暗号経済学)の普及に向け、プロトコル開発エンジニアの育成やコミュニティの醸成に取り組む研究チーム。

現在は「Plasma」という技術に注力する。この技術のメリットとは?現在の研究状況、ブロックチェーンを通した未来の社会像などについて聞いた。

※ 今回のインタビュー記事は、CRYPTO TIMES の新井が協力の下、GRASSHOPPER編集部とインタビューを実施し、株式会社電通様が運営するWEBメディアGRASSHOPPERに掲載されたインタビューの転載となります。

転載元記事 : ブロックチェーンのスケーラビリティーの問題を解決する技術「Plasma」とは?–Cryptoeconomics Lab 片岡拓 – GRASSHOPPER

不動産ビジネス、インドネシアでの飲食業を経てブロックチェーンへ

—まず、片岡さんがブロックチェーン・ビジネスを始めるまでの経緯を教えてください。

片岡:慶應義塾大学2年生の時に、農業系ベンチャーでインターンをしていました。その会社の社長に学生が参加できるビジネスコンテストの存在を教えていただき、水耕栽培ビジネスを考えて決勝まで残ったことが今の自分の原点です。その後、大学4年生の頃に不動産ビジネスを起こし、リブセンスに吸収してもらったあたりから、次のビジネスを探し始めるため、アジア諸国を旅する生活にシフトしました。

当初手がけた不動産ビジネスは、既存の不動産業へ少しはインパクトを起こせたとしても業界全体へのインパクトには至らず、「成長しているマーケットで勝負する」必要性を感じていました。それを考えたときに、そもそも日本という市場が伸びているかという疑問が出てきて、リブセンスを退社しインドネシアのジャカルタに移りました。

最初はジャカルタでのITビジネス起業も考えたのですが、リサーチを重ねた結果、IT領域でエンジニアの採用も資金調達も、現地の人に勝つのが難しいと考え、日本食しか勝てるものがないなと思い、WAKI Japanese BBQ Diningという焼肉屋を開きました。

その時に学んだことは、アジアでは日本人が得意な領域なら勝てるということです。そのまま飲食を続けても楽しい仕事だったとは思いますが、まだ挑戦できる歳…ならば、よりやりがいのあることに挑戦していけたらなと。そう考えていたところ、2017年当時Bitcoinについて日本でもみんな語っていて、凄いことになっているなと注目し始めました。

そんな折、インドネシアのVIP PLAZAという大手ファッションECサイトのCTOを務める落合渉悟さんに出会い、ブロックチェーンについて色々と教えてもらい、毎日のように議論をして現在のCryptoeconomics Labの創業に至りました。

初期に一番惹かれたプロトコルは、暗号通貨の流動性を上げられるような(Liquidity系)プロトコルであるBancor(バンコール:分散型取引所の一種)です。また、当時色々なチェーンが出てきて、そのチェーン間で暗号通貨を交換できる必要性があると考えインターオペラビリティ(相互運用性)にも注目しました。

ただインターオペラビリティーは、やればやるほど深く時間もかかり、僕らの見立てではしっかり利用できるまで5年ほどかかると考えています。もう少し、近い将来に起こせるビジネスはどこかと考えていた2017年8月頃、Vitalik ButerinとJoseph Poonが出した「Plasma」というホワイトペーパーを読んだ落合が「これだ」と言い、自分も賛同したのです。

ブロックチェーン技術「Plasma」とは

—Plasmaとはどういう技術なのでしょうか?

片岡:ブロックチェーンには“トリレンマ”があります。これは、decentralization(分散性)、security(安全性)、scalability(拡張性)の3つの要素を全部満たすことができないというものです。例えばコンソーシアムチェーン(複数の企業で形成)ならdecentralizationを抑えてscalabilityを上げているわけです。逆にBitcoinではdecentralizationが高すぎるので、どうしてもscalabilityが下がってしまいます。

しかし、decentralizationとsecurityを犠牲にすると、そもそもBitcoinやEthereumを使う理由がなくなってしまいます。なので、この2つを保ったまま、どうにかscalabilityを上げることができないかというのが、Plasmaを含むスケーラビリティソリューションの目指すところです。

今の実態としてEthereumがさばけるトランザクションは、1秒あたり15件です。対して決済ネットワークのVISAなどは諸説ありますが1秒あたり約10,000Txと考えていいでしょう。Ethereumの上にコードを置いて、いわゆるWebのようなことをしようとしたら、何十億トランザクションを毎秒さばけなきゃならないわけです。

これの解決法としてShardingやCasperという、いわゆるSerenity(Ethereum2.0)と言われているものがあります。ただ、これはあくまでEthereum Foundationが研究開発を先導し、Ethereumブロックチェーンそのものに内包されているため、企業として取り組むことが厳しいんです。

もう一つの解決方法は、BitcoinやEthereumなどのメインチェーンに独自のサイドチェーンを接続することです。サイドチェーンの中でも特にsecurityが守られているものがPlasmaです。サイドチェーンなので、自分たちが自由に扱え、サーバーも自分たちが管理できます。ですが、ちゃんとsecurityは守られている。企業の利用には向いています。

—Plasmaのどの点が面白いと思ったのでしょうか。

片岡:前提として、インターオペラビリティーとはいいながらインフラストラクチャーは分断されてはいけないというBlockstream創設者のアダム・バックの言葉があります。

これは例えていうとGoogle Play StoreやiTunes Storeのようなものが100個もある世界と、淘汰·収束されて選択肢が2、3個しかない世界の比較です。後者の方が使い勝手が良いですよね。歴史を見てもかつては様々なOSがありましたが結果Mac、Windows、Linuxのように限られたプラットフォームに収束しています。ブロックチェーンも同様で、今収束していきそうなプラットフォームは、決済としてのBitcoinと、Ethereum、あと第三の何か、という予測があります。それを踏まえBitcoinと、Ethereum以外のチェーンのことを考えるのは一旦やめました。

Bitcoinはとても魅力なのですが、ハードフォークやソフトフォークなどでアップデートできない問題があった為、Ethereumに目を付けました。ただ、decentralizationが高いため、どうしてもscalabilityが落ちてしまう。

このscalabilityをdecentralizationやsecurityを保ったまま上げる方法はあるのだろうかと研究した結果、Plasmaに行き着いたのです。

—Plasmaの開発は落合さんと二人で行っているのですか?それともコミュニティを巻き込んでやっているのでしょうか?

片岡:本当はコミュニティを巻き込んでやりたかったのですが、コミュニティは面白い提案をしないと動いてくれません。まずはキャッチアップしなければいけないんです。

なので、Ethereum Foundationや、OmiseGOのような企業、まず彼らの実装開発
をキャッチアップすることにしました。ありがたいことにオープンソースもあり勉強し放題なわけです。今では彼らがやっているPlasma Groupと、実装レベルで同じ段階まで来ており、かつ提案として彼らより進んでいる部分もいくつかあるところまで来たので、ようやく今コミュニティとしっかり会話ができているという感じになっています。構想から1年半ぐらいはかかってしまいました。

キャッチアップが終わってようやく、4月上旬にシドニーでEDCON 2019というEthereumのデベロッパー向けカンファレンスがあり、日本から弊社とLayerXさんの2社だけ出展し、そこでプレゼンさせていただいたところ、良い評判をいただきました。このおかげもありコミュニティを少しずつ巻き込むことができたというところです。

ブロックチェーンがインストールされた後の世界とは?

—片岡さんから見て、Plasma及びブロックチェーンが社会にインストールされると、どうなると思いますか?

片岡:もちろん未来を予想はできませんが、作る方向性は決まってます。iPhoneが生まれた時、みんな「これはなんだ?」となりましたが、そこに内蔵されたGPSやセンサーがあることでUberなどの多くのビジネスが生まれました。ブロックチェーンではトラストレス(信用の不要性)を軸としたものが色々と生まれると思います。

カードの発行会社がいてカードブランドがあって、と色々な人たちを挟んでいる今のカード決済がP2Pで出来るようになったり、P2Pで電力取引が出来るようになったりということが考えられます。今は中央の電力供給から買ったり売ったりしていますが、個人宅の太陽光発電で得た電力を個人に売れる世界が実現された場合、例えば電気を送ってもお金を払ってもらえないということも起こりえます。この場合スマートコントラクトを用いれば、電力を送ったら必ずお金が支払われるというようになります。

それを僕らはプログラマブルマネーと言っているのですが、ブロックチェーンによって、お金がついにデータと同じ領域に入ってきたと考えています。今までもお金をデータとして扱うことは出来ましたが、実際は現実で動いているものを仮想化してやっているだけでした。

データと同じ領域にお金が生まれたことで、スマートコントラクトなどによって即時的で一貫性ある執行が出来るようになったというのが僕らは非常に面白いと思っています。実際に現実のお金の動きとデータの動きが同じになったのが革命的だなと。

—Cryptoeconomics Labでは、電力取引のP2P実証実験なども行っていますね。

片岡:大手電力会社やベルリンのコンソーシアムと組んで共同で実験を行っています。ある地域で電力メーターを置いてやっていますが、まだ彼らも手探りなので、ブロックチェーンを本当に実装したほうがいいのかはわかりません。今は中央集権システムなので、ブロックチェーンじゃない選択肢も普通にありえると思います。

ただ、例えばアフリカのある地域で今から電力インフラを作る際に、電力会社はコストが掛かりすぎる、でも太陽光発電はできるーーとなった場合に、スマートコントラクトをつけて電力を取引するビジネスなどは可能性があります。経産省が構築した月末清算システムが存在しない地域で安全にインフラを作るなら、Plasmaを使えばリープ・フロッグが起こせるのではないかという読みはあります。

—最後に、片岡さんが見る世界は今後どういったものになっていくのでしょうか。

片岡:会社としては、果たしてうちは何屋なのかというのを最近ずっと考えています。今までは、例えるなら高速道路の設計図を描くような仕事をしていたのですが、オープンソース化してしまったほうがOSS開発チームが集まるEthereumコミュニティにフィットしますよね。反対にライセンス化するとコミュニティのパワーを使えない分、負けやすくなってしまいます。

いわば高速道路を大量に作れるソフトウェアハウスのような会社になるのか、それとも高速道路のETCのような、SDKをつくったりAPIを作ったりする会社になるのか、それとも高速道路のユーザーをつかむ車の会社になるのかなど、様々な可能性があると思います。参入障壁をどこで築いて、どこでコラボレーションするかというバランスを見極めつつ、進んでいきたいと考えています。

高速道路としてのPlasmaは、これまで税で賄うしかなかった各国の公共財を安価にしたり、運営主体を不要にする能力があります。パブリックブロックチェーンにしかできないマス・アダプションは、大規模で公共的な部分にこそあると考えます。そういう未来を見ています。

Interview & Text:西村真里子
協力:CRYPTO TIMES 新井進悟

転載元記事 : ブロックチェーンのスケーラビリティーの問題を解決する技術「Plasma」とは?–Cryptoeconomics Lab 片岡拓 – GRASSHOPPER

ニュース/解説記事

Enable Notifications OK No thanks