GoodFiパネルディスカッション「DeFiは2025年までにユーザー1億人を達成できるか?」【後編】
Yuya
GoodFiは、「2025年までにユーザー1億人」を目指してDeFiに関する様々な教育情報やイベントを提供している非営利団体です。
こちらの記事では、GoodFiが主催で業界の第一線で活躍する海外ゲスト5名を招き、DeFi普及への最初の一歩について議論してもらうパネルディスカッションイベントの内容を紹介します。
司会はMaker DAOのJocelyn Chang氏、パネルはRadixのCEO Piers Ridyard氏、Sushiのマーケティング担当Amanda氏、Terraform LabsのSJ Park氏、そしてBancorのMark Richardson氏の計5名となっています。
目次
「DeFiは2025年までにユーザー1億人を達成できるか?」ディスカッション後編
DeFi規制の盲点
―世界中の当局は本当にDeFiを規制することができると思いますか?そもそも規制するべきなのでしょうか?イノベーションが阻害されるという意見もありますが…
Richardson: 規制当局が「何十億ドルもの投資を集めるようなものは投資家保護のため最低限度の審査を行うべきだ」というのは非常にまともな意見だと思います。
それを理不尽だとか、政府が自分のコントロール外にあるシステムを引き込もうとしているなどとするのはナイーブな反論だと思います。
もしDeFiが何兆ドルものお金を動かすようになったら、それが悪用されると全世界が破綻する可能性だって現実味を帯びてきます。
また、同じプロトコルで取引をする相手が誤ってテロ組織であったりしないよう確認する必要もあります。
そういった点から、私は規制自体はよいものだと思っています。
しかし、DeFiを効率的に規制するにあたって、政府はそもそもDeFiの誕生自体が政府の能力欠如によるものだと認めるべきだと思います。
古い規制方法の失敗を徹底的に見直さなければ、DeFiを採択したところで新たな害になるほかありません。
Ridyard: また、規制をかけるにあたって警戒すべきは、乳母国家(Nanny state)的なシナリオです。
例えば、アメリカでは投資家に対する規制があります。一定額以上の資金を持っている人のみ購入できる商品が存在します。
非常にわかりやすい基準ですが、お金を持っているかどうかは相応する高度な知識を持っているかどうかとは全く関係ないのです。
持っているお金の額で「あなたは賢くないからこの商品を購入できません」と子供のように扱われることになるのです。
今は「自由度を探る時期」
―Amandaさんに質問です。Sushiには規制当局に対するコンプライアンス部門や法務部門はありますか?
Amanda: Sushiにはそのような部門はありません。DAOの持つ「止められない力」に対して規制当局がどのようなルールを作るのかには興味があります。
Richardson: Bancorのバージョン1は100%KYCのみ、資金洗浄対策にも完全準拠の形で運営していました。
これは、私たちは取引所で、よってほかの取引所と同じく法律に拘束されるという法的なアドバイスをもらったからです。
そのためもし当初流動性プールをやろうとしていたら、都度書類を作成してサインする必要があったことでしょう。
UniswapやSuhiSwapが大成功している今の時期は、規制当局がどれくらいまで自由にさせてくれるかを探っている時期なのではないかと思います。
「2025年までにユーザー1億人」に向けて
―私たちはDeFiの利用者を増やすために何ができるでしょうか?2025年までに1億人のユーザーを獲得するためには何が必要だと思いますか?
Ridyard: インターネットの黎明期には、まずインターネットを利用してもらうためにコンピューターを買うよう説得しなければなりませんでした。
次に必要なのはインターネットに接続するよう説得すること。これは場合によっては電話回線が使えなくなることを意味しました。
そして、Webブラウザというソフトウェアを使うよう説得すること。どれも全く当時の人々にとって直感的なものではありませんでした。
GoodFiがやろうとしていることは、人々がこのDeFiという新しい分野で最初の一歩を踏み出せるようサポートすることです。
いきなり1万ドル投入する必要はありません。TerraやRadixに数ドル入れて、ツールを学びましょう、というのです。
これは私が自分のチームでもいつもやっていることです。新人が来たら、500ドルを渡して「DeFiで遊んで来い」と言うんです。
こういった人たちが試行錯誤しているうちに「あっ」と気付く瞬間があり、それがムーブメントを生み出すのです。
DeFiに1億人を呼び込むにはただ「DeFiは素晴らしい」で終わる人ではなく、DeFiが楽しすぎてほかの人まで連れて来るような人を10000人集めるべきだと思います。
大切なのは「金融リテラシー」
Richardson: コンピューターを当初人々に使ってもらえなかったのは、コンピューターが高かったからではありません。80年代後半から90年代前半にかけて技術的なリテラシーが非常に低かったからです。
このタイムラグを埋めるには、そのテクノロジーが登場した世代に生まれた人々が必要になってきます。彼らが10代のときに普及させるわけです。デジタルネイティブと呼ばれる人たちですね。
このように私たちも、DeFiが登場した今生まれてきた子どもたちが今後いかに使いこなせるようになるかを求めるべきだと思います。
また、DeFiは技術リテラシーだけの問題ではなく、金融リテラシーの問題でもあります。
DeFiは、金融業界のプロに判断をお願いするような場所ではありません。個人が適切な金融的判断を行う場所です。これは教育上の大きな負担です。
インターネットが普及したころ「子供たちに学校でコンピューターの使い方を教えなければ」という話になったように、これからはスマートコントラクトを監査し、トークンエコノミーが正常なものかといった議論をするクラスが必要になってくるわけです。
実際、世界はこの方向に向かっていると思われます。そしてこれが、DeFiが地球上すべての人が利用するにまで至る過程のボトルネックだと思います。
DeFi 活躍の未来
―みなさんはDeFiとの融合という観点で、どの産業分野に注目していますか?
Richardson: 私は世界中でDeFiにGOサインが出た時、金融機関がどのようなことを始めるだろうか、という点に興味があります。
AaveでETHを貸し出したり、WBTCをChainlinkで取引したいとは思っていないはずです。
きっと、リスク移転、保険リンク証券(ILS)、銀行間のオーバーナイトレンディングなどの膨大なキャピタルを誇るものは、もっとDeFiがこれから目を付けていくべきものだと思います。
まだまだ現状とはかけ離れているように思えますが、こういった大口機関のマネーが入ってきてからではすでに遅いのです。
彼らが「カリフォルニア州で地震保険をかけたい」と言い出したときにすぐ使える商品がなければいけないわけです。
こういったプロダクトには膨大な作業が必要になりますし、プロトコルのTVLには政府の補助が必要になります。
私たちはこういったことにもっと注目すべきなのではないでしょうか。
Ridyard: DeFiはいまビットコインやイーサリアムをはじめとする内在的な資産を作ること、そして、ステーブルコインなどの貨幣を作るところまで来ました。
資産、そして決済の手段までできた次の層は無期限、合成資産、スワップなどのデリバティブです。これは決済手段とデータフィードがあればほかに何も必要ありません。
そしてその上には、現実世界の資産を決済する手段、これが必要になってくるでしょう。
そして、DeFiを従来の金融に統合したネオバンクやフィンテック企業が、インフレに負けない、またはそれ以上の成果を出すソリューションを提供できるようになれば、大口の金融機関が入る余裕を生み出すことにつながります。
そしてそれが何億人ものユーザーを呼び込むことになるのではないかと思います。
まとめ
以上が「DeFiは2025年までにユーザー1億人を達成できるか?」ディスカッション後編のダイジェストになります。
DeFiプロジェクトが激しい競争で切磋琢磨する中、各国政府は正しい投資家保護策を実施することが求められていることがよくわかりました。
また、DeFiが「2025年までにユーザー1億人」を達成するためには、コミュニティがユーザーの金融リテラシーの重要性を積極的に広め、さらに大型金融機関の参入に対してじゅうぶんに準備を整えておくことが大事とのことでした。