Bitcoinの思想に基づき、開発を行うNervos Networkが目指す世界とは? Nervos Networkインタビュー
Shota
CRYPTO TIMESでは先日、独自のスケーリング手法を持ち、かつビットコイン的な思想を受け継ぐブロックチェーンプロトコル『Nervos』のチームにインタビューを行いました。
今回実施したインタビューでは、ビットコインとイーサリアム両方にバックグラウンドを持つNervosチームならではのレイヤー1に対する熱い思想や、その他のブロックチェーンとは異なるセキュリティ担保のための経済的インセンティブなど、詳細に語っていただきました。
目次
Nervosチームにインタビュー
ブロックチェーン業界に足を踏み入れたキッカケとは
−−本日はインタビューに応じていただきありがとうございます。自己紹介、バックグラウンド、なぜブロックチェーン業界を選んだのかなどを教えてください。
Jan: Janです。Nervosではアーキテクト・リサーチャーとして活動しています。元々はエンジニアで、2012年にこのブロックチェーンの業界を選びました。この業界ではイーサリアムで働いていたこともありますし、許可型のブロックチェーン、マイニングプールなどにも携わっていた経験があります。
Kevin: Kevinです。Nervos共同創設者の一人です。バックグラウンドはエンジニアで、昔から開発者として様々なエンジニアリングをしてきました。この業界には2013~14年くらいに携わるようになり、当時はビットコインのみで、プロジェクトに正式に参加してやり始めたのは、昨年の頭になります。
−−JanさんはBitcoinとEthereumの両方にバックグラウンドを持っていますが、そこで何を学び、また、なぜ新たなプロジェクトに参加しようと決めたのですか?
Jan: Ethereumのリサーチチームでは多くのことを学びました。当時は、シャーディングやCasperのPoCなどを研究していました。
また、その前はビットコインの開発もしていたので、ビットコインやビットコインのスクリプトに関しても知識があります。
ビットコインとイーサリアム両方の問題や利点を知っていて、それを比較しながら客観的に判断することができる、というのがNervosに参加した理由の一つです。
(以下は、JanさんとKevinさんの発言を編集したものになります)
Nervosが目指すべきものとは
−−Nervosのプロジェクトについて、簡単な説明と実現したいことを教えていただけますか?
NervosのCommon Knowledge Base (CKB)はレイヤー1のプロトコルで、ビットコインからインスピレーションを受けています。
CKBはオープンネス、ボーダーレスネス、中立性、検閲耐性を兼ね備えた分散型レイヤー1プロトコルです。同時に、イーサリアムのようにスマートコントラクトも実装することも可能です。
Nervos CKBはStore of Value (SoV, 価値の保存)プラットフォームとしてデザインされています。そのため、CKBは複数の暗号資産のストレージのような役割を果たします。
したがってこのプロトコルは、TPS等を最大限に追求せず、代わりにこのようなセキュリティの部分を優先したものになっています。
レイヤー1で「誰もがノードになれるパブリックさ」を重視し、スケーリングに関してはビットコインのLightning Networkのように、レイヤー2を利用して実現していくというのが私たちの計画です。
−−レイヤー1と2にはどのような違いがありますか?
私たちは、レイヤーという言葉に独自の定義付けをしています。レイヤーの違いは、その合意形成に基づいています。
例えば、レイヤー1 のプロトコルはビットコインやイーサリアムですが、これらは最も広義での合意形成で、世界中の誰もが理論上このプロセスに参加することができます。
私たちの中では、レイヤー1はグローバルな合意形成を行うためのもので、誰もが参加・離脱できるネットワークとなる必要があると考えています。
「パーミッションレスでグローバルな合意形成」というのは最も重要な合意形成というわけです。
一方、レイヤー2プロトコルはこの合意形成のスコープを縮めることで高パフォーマンスを実現するものです。例えば、Plasmaのようなレイヤー2ブロックチェーンのバリデーターは10人ほどだったり、あるいは1人しか存在しない場合もあります。
これには、ブロックチェーン自体が高いスループットを実現できる利点があります。数千~数百万のTPSも理論上実現可能ではありますが、これはトランザクションが少数の人々による承認しか必要としないためです。
私たちは、仮にレイヤー1と呼ばれるものでも、分散性を妥協しているものはレイヤー2プロトコルと呼んでいます。
−−NervosはStore of ValueブロックチェーンでもあるとWhitepaperなどにも書かれていますが、これはどういう意味でしょうか?
ビットコインの話に戻りますが、ビットコインのUTXOの半分以上は1年以上動いていません。これは、人々がトランザクションを執行し、送金はせずに価値を保つ方法としてそのままにしておく(ホールドしておく)ということです。
ビットコインはP2Pの決済システムであるので、ビットコインのレジャーに保存される価値は必然的に金銭的な価値ということになります。
Nervosのデザインも方向性的には同じですが、Nervos CKBは複数の資産を発行することができます。
さらに、Nervosの経済的インセンティブが、発行されるこれらの資産に十分なセキュリティを担保できるような仕組みとなっています。NervosがStore of Valueブロックチェーンである、というのはこういった意味合いからです。
Nervosでは、ほぼすべてのトランザクションをレイヤー2で行う
−−独自の経済的インセンティブはNervosの大きな特徴の一つだと思いますが、これは具体的に他のブロックチェーンとどのように違うのでしょうか?
大半のスマートコントラクトプラットフォームでは、そのプラットフォームのネイティブ通貨を経済的なインセンティブとして利用しています。
ネイティブ通貨固有の価値は、そのプラットフォームでのトランザクション手数料を支払うことができる点にあります。この仕組みは、DoS攻撃やスパム攻撃などを防ぐ手段として必ず実装される必要があります。
しかし、ほとんどのプラットフォームはここで終わってしまっています。これは大きな問題です。ブロックチェーンの業界がこれからも成長を続け、ブロックチェーンのプラットフォーム上により多くの価値が蓄積されるようになればどうなるでしょうか。
基本的には、より多くの資産がブロックチェーン上に載ると同時に、セキュリティ、攻撃コストも比例して高くなっていく必要があります。ある都市により多くのお金が蓄積されていけば、都市の防御(攻撃コスト)もそれに比例して高めていく必要性が生まれますよね。
スマートコントラクトプラットフォームの中でこの特徴が再現されているものはありません。
短期間だけ資産を入れておいて、という形であれば問題ありませんが、長期間資産をチェーンに保管する場合を考えると、チェーンが守る価値の総額が上がるにつれ、自動的に防御(攻撃コスト)も高くなっていく必要があります。
−−防御という意味では、チェーンのセキュリティはPoSが注目されていますが、なぜPoWをレイヤー1のセキュリティに採用しているのですか? 「セキュリティを共有してあらゆるチェーンの資産をメインチェーンで管理する」という構造を聞いてPolkadotが頭に浮かびましたが、これとは何が違いますか?
Polkadotとはスケーラビリティ問題を解決するためのアプローチが大きく違います。PolkadotではParachainsがそれぞれ異なる役割を果たし、ネットワークを形成しています。
Nervosは基本的に、レイヤー1におけるスケーリングは諦めています。イーサリアムのシャーディングなどはレイヤー1のスケーリングアプローチの一つです。
レイヤー1におけるスケーリングは、高TPSを実現するために性能の高いコンピュータを要求するので、分散性を犠牲にしています。
Nervosでは代わりに、ほぼすべてのトランザクションをレイヤー2で行います。レイヤー2は計算をオフチェーンで行うことが可能で、必要に応じてトランザクションをレイヤー1と同期させていきます。
これを行うことで、一つのレイヤーだけでなくシステム全体のスケーリングを実現することができます。
Nervosが今後狙う市場、業務提携・パートナーシップとは
−−先日、DeFiに特化しているとされるHuobi Finance Chainのローンチが発表されましたが、Nervos CKBとはどのように使い分けていくのでしょうか? 全くの別物ですか?
Huobi Finance Chainは高TPSを実現するブロックチェーンですが、これは主にHuobiの資産をサポートします。
HuobiからHuobi Finance Chainにこれらの資産を送ることで、このチェーン上でDeFiの領域に属するサービスを享受することができます。これはBTCやXMRなどあらゆるアセットを利用したDeFiです。
DeFiといえば今はイーサリアムですが、イーサリアムのDeFiではイーサリアムに関連したアセットにしか対応していません。
そしてHuobi Finance ChainはNervos CKBと接続されていきます。これは、インターオペレーションのプロトコルを通じて直接的に接続されます。
Nervos CKBは資産の保存という役割を果たし、一方でHuobi Finance Chainはより規制を遵守するプラットフォームです。法定通貨とのゲートウェイも出来上がります。
将来的には、今回のケースのように、他の分野でソリューションを提供するチェーンとも連携し、より多くのユースケースを見つけていきます。
−−中国のCMBI(China Marchant Bank International / 招商銀行)との提携の話がありましたね。ブロックチェーンのプロジェクトがトラディショナルな銀行と提携を結ぶことは稀だと思います。この提携の裏にはどのような目的やビジョンがありますか?
私たちは、ブロックチェーンが持つ最も大きな価値というのは分散的なトラストにあると思っています。インターネットのような分散型のデータネットワークやメッセージネットワークではなく、分散型の価値のネットワークです。
金融アプリケーションというのは、ブロックチェーンのような種類のインフラにとっては非常に自然で適しています。安全で分散的に資産を送金する場合、ブロックチェーンが必然的に利用されます。
CMBIはトラディショナルな金融のバックグラウンドを持ち、パブリックチェーンやDeFiに足を踏み入れることでともに新たな可能性を探っていきます。
−−ブロックチェーンのファイナンスといえば、現在だとイーサリアムのDeFiが大きな注目を集めていると思います。仮にここにCMBIのような企業が参入してくる場合、どのようなインパクトがあると考えていますか?
DeFi自体は新しいコンセプトで、現在は実験的に様々なことが行われています。
なので、明確な答えは出せないのですが、私たちがやっていることもまた実験的で、とにかく異なるデザインの哲学から生まれたプラットフォームを提供していくことで、業界全体を導けたらと考えています。
こういった新たなユースケースを探すことは本当に面白いことだと思います。
日本のブロックチェーン市場に対して期待すること
−−今回、Devconで大阪に来られたと思うのですが、それ以外にも日本に対してどんな期待をしてきましたか?
おいしい食べ物ですね(笑) 日本の食べ物が好きなので、ここ何日かは日本の料理を食べることができて満足です。
もちろん日本のブロックチェーンのコミュニティからはぜひ支持をいただきたいと思っています。特に、パブリックブロックチェーンは局地的ではなく、グローバルに拡大していくために存在しています。
誰もが参加し、それを利用し、プロジェクトに対してコードを貢献することができます。日本のコミュニティメンバーにも、是非一緒にプロジェクトを育ててくれれば嬉しいです。
日本に来るのは今回が初めてですが、小さなところでもどこかから始めていかなければいけないのは事実なので、模索しながら頑張っていきたいと思っています。
−−日本のコミュニティに対して何か伝えたいことはありますか?
2013~14年にビットコインに関しての開発やリサーチを始めたとき、日本は市場に対するインパクトが大きいと言えましたが、現在は少しづつ状況も変化しています。
規制に関しても納得がいきますし、日本のコミュニティにはビットコインの思想などを理解している人々がたくさんいます。
今後、日本で何かニュースがあればと期待しています。ちなみに、Nervosという名前も日本で有名なあのアニメにインスパイアされたものなんです。どのアニメかは日本の読者なら是非当ててみてくださいね(笑)
インタビューを終えて
Nervosはビットコインの思想に基づき、その方向性を追求するプロジェクトということで、今回のインタビューでは非常に感銘を受けました。
プロジェクトもBitcoinの思想やEthereumの思想を受け継ぎながら新しいものを作ろうとしているということが伺えました。
また、ネットワークの価値が拡大した時に、そこに対する攻撃コスト(=防御)を高めるという点に着目しているのはとても理に適った考え方と言えるでしょう。
中国を中心に提携も拡充するNervosですが、今後日本でも少しずつ存在感を強めていくことに期待です。
現在、NervosはCoinlistを通じたPublic Saleなども実施しています。興味がある方はぜひとも見てみてはいかがでしょうか。