ブロックチェーンは「生活者をエンパワーメントする」技術 HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 後編
Crypto Times 編集部
積極的にブロックチェーン技術を取り入れたサービスの発表を行う博報堂のHAKUHODO Blockchain Initiativeの伊藤佑介さんへのインタビュー。後編である今回のインタビューは、伊藤さんがブロックチェーンを取り入れたサービスに対する思いと、試験放送を実際に成功させたTokenCastMediaについてお話をいただいた。
前編 : ブロックチェーンを活用する上で大切なことは「ゲーム性とインセンティブの2つ」HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 前編 – CRYPTO TIMES
ブロックチェーン技術を取り入れたサービスにかけた思い
CollectableADのように、広告にフォーカスしたブロックチェーンプロジェクトは世界にも複数ある。それらとの違いに関して、我々は伊藤さんに対して聞いた。
「海外の広告系のブロックチェーンプロジェクトは、マイナスを0に持っていくことを目標に取り組む課題解決型のものが多いように感じています。それに対して、CollectableADは、0を+にする価値創造型のサービスにしたいと思って作りました。そして、これからもブロックチェーンを活用しなければできない、ブロックチェーンファーストの発想でサービスを開発していきたいと考えています。」
新たな価値を創り上げるプロジェクトである一方で、ブロックチェーンベンチャーではなく、広告業界の中にいるからこそできることにもこだわったようだ。
「今のブロックチェーンの課題は、色々なところで話されていますが、私はさまざまな業界の中における社会実装にあると思っています。ですので、CollectableADで広告業界におけるブロックチェーンの社会実装を進める一助を担いたいです。さまざまな広告業界の関係者の皆さんが一度でもブロックチェーンのサービスに触れる機会があれば、よりブロックチェーンが広告業界に浸透するでしょう。」
ブロックチェーンの社会実装を目指していると伊藤さん。その思いはCollectableADにも込められている。
「そして、広告業界にブロックチェーンの社会実装をスムーズに受け入れてもらうためには、既存のデジタル広告の仕組みや仕事のやり方については一切変えることなく使えるサービスであることが必要だと考えています。そこで、なるべく広告業界の関係者の皆さんに使って頂き易いようにできるように配慮して、CollectableADの仕組みを設計しました。実際にCollectableADを導入する際、既存のデジタル広告の入稿ルールは一切変える必要はありません。この部分に関しては特にこだわりました。既存の仕事のやり方を変えるとなると、関係者の皆さんの作業が増えたり、配信するまでの業務フローが複雑になったりして、負担が大きくなります。そうならないよう、広告業界の既存のレギュレーションを変えることなくそのまま利用できるようにすることで、CollectableADを利用するにあたっての関係者の皆さんのエントリーバリアを下げることを意識しました。」
既存の広告業界の関係者のエントリーをスムーズにするだけでなく、利用する生活者や広告主にも簡単に利用できることが大事だとも語る伊藤さん。生活者の利用に際してのこだわりはこうだ。
「もしCollectableADのトレカを集めるために、これまでにやったことのない特別な操作が必要になったりすると、生活者の皆さんにとって使いづらいと思うんです。なので、これまでどおり広告をタップするだけでCollectableADのアプリに飛んで、トレカを集められるようにしました。」
一方で、広告主が利用しやすいサービスにするためにもこだわっている。
「また、もしCollecableADをキャンペーンで利用するために、広告出稿予算を別に用意することが必要になると、広告主さんにとっても導入しづらくなると考えました。そこで、既存のキャンペーンで出稿しているバナーの一部の領域だけで間借りして、そこにトレカのアイコンを追加するだけで出稿できるようにしました。既存バナーのトレカのアイコンの部分をクリックしたユーザーだけがCollectableADのアプリへ、それ以外の部分をクリックしたユーザーは、今までどおりのキャンペーンのランディングページへ遷移するようにして、もともとの予算で出稿している広告の中で、バナー領域を一部利用するのみで、利用できるようにしました。」
細部にも徹底的に考えられている本サービス。実現は思いもよらぬことから動き始めたという。
「昨年中ごろにYuanbenさんと出会って私のCollectableADに関する構想を話しました。するとすごい熱量でこのアイディアを歓迎してくれて、主にブロックチェーン基盤の構築で協力して、一緒にサービス開発をしていただくことになりました。また、アプリの開発では、博報堂ブロックチェーン・イニシアティブと昨年9月に「ブロックチェーン・イノベーション・ラボ」を発足し、かつUXの領域で知見と実績のあるユナイテッドさんの協力もいただけることになりました。こうして3社でサービスを共同で開発して、今年1月に発表することができたんです。今後はまずは、一部の広告主さんにご利用いただきながら、徐々に展開を拡大していきたいと思っています。」
TokenCastMediaについて
次に、2019年2月6日に発表したばかりのブロックチェーン技術を活用して、トークンとして実装されたデジタルアセットを、リアルタイムで番組を視聴している生活者に対して一斉配布できるサービス「TokenCastMedia」についても話を伺った。
TokenCastMediaに関しても、発案はCollectableADと同じく二年前に遡るという。
「TokenCastMediaも二年前から構想がありました。当時は周りにブロックチェーンに取り組んでいる人があまりいませんでした。そんな中で、たまたま前の会社の同期がブロックチェーン関連の本を出していて、連絡を取って、会ってみることになりました。せっかく会うのだから、広告業界ならではの案を持っていってディスカッションしようと考えたのがこのTokenCastMediaでした。オフラインのマスメディアがAudioWatermark技術を使って、視聴者のアプリに対してブロックチェーンで実装されたトークンをインセンティブとして配ることで、オンライン上の接点を視聴者と持つことができ、どんな生活者がTVやラジオの番組を視聴しているかが分かるサービスとして設計しました。特に、ブロックチェーンの特徴の一つであるマイクロペイメントを活かせば、番組を見ている視聴者全員にインセンティブとして低い手数料でトークンを送ることできる点に着目しました。」
TokenCastMediaの第1弾となったTokenCastRadioは、構想から二年後のある出会いをきっかけでとうとう実現することになったという。
「構想から二年後に、ブロックチェーンに興味があるマスメディアの方と知り合って、当時の構想を話してみると、非常に盛り上がり、是非実施しよう!ということに話が進みました。そこから、ラジオ局を持つ毎日放送さん、ブロックチェーンゲームの開発を行っているFramgia(現:株式会社Sun Asterisk)さん、そしてAudioWatermark技術を持つエヴィクサーさんとブラウザウォレットアプリのtokenPocketさんにも協力をいただき実現しました。一度話が進むと、その後は非常に早かったです(笑)。」
サービスの展望、そして博報堂ブロックチェーン・イニシアティブとしてのこれから
CollectableAD、TokenCastMediaというサービスについての思いを非常に熱く語ってくれた伊藤さん。サービスの今後・展望についてのビジョンを聞かせていただいた。
「TokenCastMediaで実現したいのは、今まで多くの生活者に情報を一斉に届けていたマスメディアが、トークンとして多くの生活者にリアルな価値も一斉に届けられるようになることです。いつかは広告主さんの商品やサービスといった価値もトークンとして実装されてブロックチェーン上で流通すると考えているので、そのときにTokenCastMediaがマーケティングを支援する一つのサービスとして広く活用されればうれしいです。
また、人が生活する時間の中心が情報の交換が活性化されているインターネットの世界に移り始めていますが、それでも、日々の生活の中でのコミュニケーションの中心は、まだ価値の交換が行われるリアルな世界にあると私は思っています。しかし、価値交換ができるリアルな世界で過ごす時間が減っている中で、私たちが過ごす時間が長くなっていくインターネットの世界の中でも価値交換を行えるように将来的にしてくれるのがブロックチェーンであると考えていて、それを体現する社会実装の一つとしてCollectableADを構想しました。現在の情報を届けるインターネットを、価値を届けるインターネットに変えること、これを実現したいと思っています。」
そして、伊藤さんは博報堂ブロックチェーン・イニシアティブとしてのブロックチェーンの捉え方について最後にこう語った。
「博報堂は生活者発想をフィロソフィーとしています。そして、その生活者が社会を主導する生活者主導社会がくると考えていますが、博報堂ブロックチェーン・イニシアティブはブロックチェーンを「生活者をエンパワーメントする」ものだと捉えていて、生活者主導社会を実現する手段としてブロックチェーンを使っていきたいと思っています。我々だからこそできることもあると思っています。」
前編 : ブロックチェーンを活用する上で大切なことは「ゲーム性とインセンティブの2つ」HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 前編 – CRYPTO TIMES
インタビュー & 編集 : CRYPTO TIMES 新井進悟
テキスト:フジオカ