仮想通貨取引所の財務情報を分析 | 見えてきた収益の”鍵”とは?
Henry
FTXの一件から「財務情報」や「内部統制」という言葉に対して、多くの方が関心を持つようになったのではないでしょうか。
また「そもそも取引所はどんなビジネスモデルで成り立っているのか」といった部分も、これからクリプトの世界に入ろうとしている方にとって興味深いところかと思います。
本記事では「財務諸表」を構成する要素の一つ「損益計算書」の「営業収益」の構成要素に焦点を当てながら、日本国内で暗号資産交換業に登録している企業の中から7社をピックアップし、公式に開示されている損益計算書の内訳の一部を解説します。
- – 分析対象の企業 –
- コインチェック株式会社
https://corporate.coincheck.com/disclosure - 株式会社bitFlyer
https://bitflyer.com/ja-jp/s/company - GMOコイン株式会社
https://coin.z.com/jp/corp/about/kaiji/ - 株式会社ビットポイントジャパン
https://www.bitpoint.co.jp/disclosure/ - ビットバンク株式会社
https://bitbank.cc/about/corporate/ - 株式会社DMM Bitcoin
https://bitcoin.dmm.com/overview/koukoku - 株式会社カイカエクスチェンジ (Zaif)
https://corp.zaif.jp/business-report/
- コインチェック株式会社
*今回の対象は、国内発であること、そして 一般的に認知が広く一定の売上規模の取引所を対象としています
目次
取引所の営業収益を構成している勘定科目一覧
各取引所の営業収益を構成している損益計算書上の勘定科目は主に以下の通りです。
- 【営業収益を構成する勘定科目】
- 受け入れ手数料
*委託手数料 / その他の受け入れ手数料 – bitFlyerのみ「受け入れ手数料」を細分化して表示。 - 暗号資産売買損益
- その他の営業収益
- トレーディング実現損失 – 「暗号資産売買損益」と同義
- トレーディング評価利益 – 「暗号資産売買損益」と同義
- レバレッジ決済損失
- 建玉手数料収入
- システム管理収入
- 役務収益
- 業務受託収入
- その他売上高
- 商品売上高
- 受け入れ手数料
一般的に取引所の収益として認知されているのは、「受け入れ手数料」ではないでしょうか。
その他の、収益部分に関しては収益を副次的に支える補助的な立ち位置と思われている方々が多いかもしれません。
*企業によっては、「暗号資産売買損益」を「トレーディング実現損失 / 利益」とも開示している場合もあり、同義ではあるものの勘定科目名が異なるケースもあります。
従来の金融業界における証券会社の収益構造
各取引所の収益構成に移る前に、従来の金融商品を取り扱っている証券会社の収益構成を確認しましょう。上記の図をご覧ください。
手数料収入に重きをおいていたのは昔の時代で、徐々にトレーディング収益の割合を広げていき、2020年度の時点では全体の25.9%を占めています。
*このトレーディング損益は、上述した勘定科目一覧の「2. 暗号資産売買損益」にあたります。
2022年3月期末における野村HDの要約連結損益計算書では、収益合計1兆5,940億円の約23%にあたる3,688億円がトレーディング損益に、株式会社SBI証券の2022年3月期連結損益計算書では、収益合計1,666億2千7百万円対して、約28%を占める 466億7千万円がトレーディング損益となっています。
そのため、従来の金融業界における証券会社の収益構造では、「トレーディング損益」を全体の営業収益に対して20~30%程の割合にとどめることが最適と現代では考えられているということがわかります。
もし、取引所が「暗号資産取引」をトレーディング損益と同義と考える際は、既存の金融商品よりもリスクが高いため、より一層保守的に、その割合を縮めても良いかもしれません。
参考
・https://www.nomuraholdings.com/jp/investor/summary/highlight/statement.html
・https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/home/irpress/tanshin_220527.pdf
各取引所の収益構成
それでは各取引所が開示している実際の収益構成を見ていきましょう。
Crypto Timesでは、国内の暗号資産交換業者が開示している財務諸表の分析を2018年まで遡っておこないました。
下記は、その入り口として2022年の対象企業の営業収益順に並べた一覧となります。(スマートフォンの方は拡大してご覧ください)
営業収益を構成している勘定科目は、先に記載したとおり12ありましたが、そこから重要性の高い「受け入れ手数料」と「暗号資産売買益」が全体の売上の何%を占めているのかを理解するため、上記のように一覧化しました。*「-」は、開示されていない情報 / 開示されていないため算出できない数値
暗号資産取引手数料の割合が大きい企業
暗号資産取引手数料の割合が大きい企業は、下記の2社でした。
- ビットバンク株式会社 – 全体収益の約74%が受け入れ手数料です。
- 株式会社カイカイエクスチェンジ – 全体収益の約73%が受け入れ手数料です。
これら2社は受け入れ手数料に重きをおいてビジネスを展開していると数字上は捉えられます。
暗号売買資産売買益の割合が大きい企業
暗号資産取引手数料が大きい企業は下記の4社となりました。
- コインチェック株式会社 – 全体収益の約91%が暗号資産のトレーディング損益
- 株式会社bitFlyer – 全体収益の約72%が暗号資産のトレーディング損益
- GMOコイン株式会社 – 全体収益の約83%が暗号資産のトレーディング損益
- 株式会社ビットポイントジャパン – 全体収益の約79%が暗号資産のトレーディング損益
上記4社については、トレーディング収益に重きをおいてビジネスを展開していると捉えられます。
まとめ
今回は、取引所の収益構成に焦点を当てた記事でした。
一見、収益の構造に偏りがあると思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、最適な収益構成というのは、各社が取れるリスク許容度によって異なるため、その最適解を一括りに出すのは難しいのが正直な所です。
例えばGMOコイン株式会社や株式会社DMM Bitcoinは、暗号資産取引所をグループ事業の一環として行っておりますので、全体の連結で見た場合、もっとリスクを取って良いと言えるかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。