「最新技術は消費者に使って欲しい」Kakaoのブロックチェーン「Klaytn」にインタビュー

2019/09/18・

Yuya

「最新技術は消費者に使って欲しい」Kakaoのブロックチェーン「Klaytn」にインタビュー

「Klaytn (クレイトン)」は、韓国の大手インターネットサービス企業「Kakao」の系列企業「Ground X」が開発を手がける今話題のブロックチェーンプラットフォームです。

今年6月にメインネットをリリースしたKlaytnは、韓国の大手取引所「Upbit」に上場することがすでに決定しており、9月18日にはダッチオークション方式でメインネットトークン「KLAY」が販売されます。

今回CRYPTO TIMESはKlaytn (Ground X)チームに直接インタビューできる機会をいただきました。そこでこちらの記事では、メンバーの想うKlaytnの魅力や開発状況、今後の展開などを紹介します。

要点チェック: Klaytnとは?

Klaytnは、エンタープライズによるサービス商品の展開に焦点を置いたブロックチェーンプラットフォームです。

コンセンサスアルゴリズムはBFT(ビザンチン障害耐性)をベースにしており、トランザクションの処理は運営評議会(コンソーシアム)による書き込みと、通常のノード(エンドポイントノードと呼ばれる)による読み取りの2つに分ける「ハイブリッド型」を採用しています。

この「集権性と分散性のバランス」の狙いは当インタビューを通して詳しく解説していただきました。

運営評議会は大手IT企業やゲーム企業を中心に構成されており、多数のプロジェクトがKlaytnエコシステム上でプロダクトを展開することもすでに決まっています。

(↓Klaytnの仕組みは、コイン相場のイ・ヨンソンさんがこちらの記事で解説しています↓)

韓国最大のメッセージングアプリ「カカオトーク」を提供するKAKAOのブロックチェーン戦略

Klaytn・Ground Xチームとのインタビュー

左からYG Kang氏、Young Kang氏、Soo Kim氏

今回、Kakao Games日本支部のワーキングスペースにて、Klaytn (Ground X)のメンバー3名にインタビューに応じていただきました。

  • Soo Kim氏: ブランドマーケティングチーム リーダー
  • Young Kang氏: 事業開発チーム リーダー
  • YG Kang氏: 企業開発部 ディレクター

Klaytn誕生の経緯

−− Klaytn (Ground X)は有名企業Kakao傘下のプロジェクトとして注目されていますが、どのような経緯で開発が決定したのでしょうか?

YG Kang氏: KakaoPayなどのサービスを抱えるKakaoでは、ペイメント系技術の研究を2016年ごろから行なっていました。以降、2017年中旬くらいからブロックチェーン技術の研究も開始されました。

当初は、イーサリアムなどの上でDApps(分散型アプリケーション)を開発することを考えていましたが、大規模なDAppsの展開には独自のブロックチェーンプラットフォームが必要だと言うことに気がつきました。

そこでJason Han(韓在善/ハン・ジェソン氏; Ground XのCEO)は、イーサリアムを元にして自分たちでプラットフォームを作ってしまおうと考えました。

イーサリアムからコンセンサスアルゴリズムやトランザクションタイムを変えることで大規模なDAppsも処理できるようにしたKlaytnは、クリプトに馴染みのない人でも使えるプラットフォームになりました。

集権性と分散性のバランス

Klaytnのガバナンス・カウンシル(運営評議会) | Klaytnウェブサイトより

−− Klaytnの合意形成はコンソーシアム制とオープンパブリック制を組み合わせた「ハイブリッド型」ですが、どちらか1つではなく両方を採ったのはなぜでしょうか?

YG Kang氏: 大半のプラットフォームは分散性(decentralisation)に焦点を当てていますが、こういったプラットフォームは処理速度が遅いのが現状です。

逆を言えば、分散性を少し犠牲にすれば、TPS(秒間トランザクション数)は改善されます。これが運営評議会とエンドポイントノードを設けた理由です。

これに加え、Klaytnは「サービスチェーン」と呼ばれるサイドチェーンソリューションを搭載しており、これでTPSは毎秒4000件くらいになります。

「最新技術はすぐ消費者に」

−− 最近は有向非巡回性グラフ(DAG)にフォーカスした、「トリレンマ問題」を解決するようなプロトコルも登場してきていますが、このようなプロトコルはなぜ採用しないのでしょうか?

YG Kang氏: これには2つの理由があります。

先ほど触れた通り、Klaytnはイーサリアムのコードをベースにしています。ここにこだわる理由は、すでに大きなユーザーベースを誇るイーサリアムとの互換性を保ちたいからです。

また、スループット・分散性共に優れたプロトコルは、まだ開発中ですぐには実用化できない、というのがもうひとつの理由です。

Soo Kim氏: KakaoやGround XはB2C(企業から消費者へ)に重点を置いた企業なんですよね。ですから、最新技術は消費者に今すぐ使って欲しいんです

運営評議会を設けたのも、新しいプロトコルを採用しないのもこのため(=スピード感)です。また、ゲーム系企業と多く提携しているのも、消費者が手軽にKlaytnに触れられるプロダクトを作りたいからです。

エコシステム構築について

−− KlaytnはISP(Initial Service Partners; 初期サービスパートナー)とKlay BApps Partnersという2つのカテゴリで多くの提携を結んでいますね。こういったエコシステム開発周りについて教えてください。

Young Kang氏: ISPというのは、「すでにプロジェクトがあって、それをKlaytn上で展開したい」というパートナーです。現在42社のプロジェクトとこのパートナーシップを締結しています。

一方、Klay BApp Partners*は現在9社ほどで、こちらはKlaytnと共同でプロダクトを展開していくパートナーになります。このうち多くはゲーム系のパートナーです。

*Klaytnでは、DApps (Decentralised Application)をBApps (Blockchain Application)と呼んでいます。

初期サービスパートナー(ISP)のリスト

−− みなさんが今個人的に期待しているISPは何ですか?

Soo Kim氏: ブロックチェーン技術のマスアダプションという観点から見て、Klaytnのパートナーはどこもチーム、ビジネスプラン、ユーザーベース全てが充実しています。

私の個人的なチョイスはPiction Networkですね。これは、ゲーム系のウェブトゥーン(韓国発のデジタルコミックの一種)プラットフォームで、トークンを使って優良なクリエイターに「投資」することができるというものです。

Piction Networkより

Young Kang氏: 私は「Whooo」というデートBAppに期待しています。ここは運営評議会にも加入しているプロジェクトです。
(Whoooはユーザーの位置情報や興味などに基づいたマッチングを提供するアプリで、Klaytnを活用したデータ管理技術やトークンエコノミーが実装されている)

Whoooより

YG Kang氏: 私が期待しているのはCarry Protocolです。

通常、大企業が運営するチェーン店では顧客情報が分析に利用され、その対価としてポイントシステムなどを設けています。Carry Protocolは、これを個人経営店レベルで展開できるようにすることで、消費者と経営者の間で新しいエコノミーを築き上げるプロジェクトです。

Carry Protocolより

DApps市場の現実・他チェーンとの比較

−− ゲーム系BAppsの展開を計画しているということですが、すでに存在するメジャーなネットワークでもアクティブユーザー数はあまりふるわないのが現状だと認識しています。Klaytnはどのようにシェアを伸ばしていく戦略ですか。

Soo Kim氏: プロジェクトが特定のブロックチェーン上でビジネスを展開する際、例えば直近3年とかで、そのプラットフォームの将来性というのが重要になってきます。こういった意味合いで、(資金力・規模共に大きな)ビジネスを他のプラットフォームで展開していくのは難しいのではないかと思います。

Klaytnはトークンエコノミーの構築計画も明確ですし、ガス代もかなり安くなっています(イーサリアムの10分の1)。ですから、ネットワークの安定性やガス代に付随する不確定要素も少なくなり、サービスプロバイダは事業計画やコスト見積もりがしやすいわけです。

(Klaytnが展開するネイティブトークンウォレット「KLIP」は、KakaoTalkアプリやSamsungの新しいスマートフォンに統合されている。KakaoTalkの月間アクティブユーザー数は、2017年のデータで5000万人を記録している。したがって、Klaytnはスタート時から莫大な潜在顧客を抱えられるアドバンテージがある)

−− EOSやTRONでは、ギャンブル関連のDAppsがアクセス数の大半を占めているのが問題視されていますね。

EOSのDAppsアクセス数ランキング | Dapp.comより

Soo Kim氏: そうですね。ですからKlaytnでは、ギャンブル系BAppのパートナーはあまり探していません。もちろんパブリックネットワークですから、ギャンブル系BAppsが作れないということはありませんが。

Samsung × Klaytnの「The KlaytnPhone」について

−− KlaytnはSamsungと共同で、BAppsをプレインストールした「The KlaytnPhone」をリリースしますね。これ、少し中身を見せていただけませんか?

Young Kang氏: ちゃんと持ってきましたよ。これがThe KlaytnPhoneです。

The KlaytnPhoneはSamsung Galaxy Note 10のスペシャルエディションとして販売される。

Young Kang氏: The KlaytnPhoneには、トークンウォレットのKLIPに加え、5つのDAppsがプレインストールされています。これも、ユーザーに「ブロックチェーンが使われているなんてわからない」と感じてもらうのが狙いです。

Soo Kim氏: 一般ユーザーの方には、便利なサービスやアプリに自然な形で触れてもらうのが一番です。こうすることで、ブロックチェーン技術もインターネットやスマートフォンなどの技術と同じようにマスアダプションされていくと考えています。

KlaytnPhoneのプロダクトイメージ

「ブロックチェーン技術普及は大企業としての宿題」

−− 韓国では暗号資産周りの規制が厳しくなってきていますが、この辺はやはり大変ですか?

YG Kang氏: 規制当局との話も進めていますが、やはり(KLAYトークンの価格の)スペキュレーションについては気をつけるように言われていますね。

しかし、彼らは私たちKlaytnにホンモノのユースケースを作って欲しいと考えているようです。

Soo Kim氏: ですから、このプロジェクトを広く普及させることは世界的に大きなIT企業としての「宿題」だと考えています。

加えて、韓国では釜山が「ブロックチェーン都市」として認定されるなど、厳しい規制状況とは裏腹に、この業界が成長するための良い環境づくりが進んでいます。

まとめ

Klaytnのサービスは基本的に日本でも利用可能となっており、チームは今後もアジア圏にフォーカスを置いた事業展開を行なっていくといいます。

Facebook(フェイスブック)のLibra(リブラ)やLINEのLINKと並び、Klaytnは大手インターネットサービス企業が開発するブロックチェーンプラットフォームとして今後も注目されていきます。

今回のインタビューでは、分散性とスループットの両立に力を置いたプロジェクトが多出する中、「最新技術は消費者に使ってもらう」モットーに即し、敢えて今あるものを使っていくというビジョンが大変面白いと感じました。

ニュース/解説記事

Enable Notifications OK No thanks