特集・コラム
2018/08/09「仮想通貨」という呼び名は本当に適切なのか?
現在日本ではビットコインやイーサリアムなどのことを「暗号通貨」または「仮想通貨」、英語ではCryptocurrency、またはVirtual Currencyと呼んでいます(暗号通貨と仮想通貨は正確には違いがあります)。 全て「通貨」と総称していますが、実は界隈で流通しているトークンの約9割は「ユーティリティトークン」というタイプに属していると言われています。 「仮想通貨」や「ユーティリティトークン」を含め、トークンには目的や仕組みによって異なるタイプというものが存在します。 こちらのページでは、トークンのタイプについて解説し、全てのトークンを「仮想通貨」と括ってしまうことの問題点を説明します。 はじめにー「トークン」という総称について トークンの種類について解説する前に、「コイン」と「トークン」の正確な違いについて解説しておきます。 一般的な定義では、「コイン」とは、ビットコインやイーサリアムなどの独自プラットフォームの基軸となるもののことを指します。 例えば、ビットコイン / BTC はビットコイン・ブロックチェーンで使われる「コイン」です。イーサリアム / ETH も同様に、イーサリアム・ブロックチェーンの「コイン」となります。 それでは、イーサリアム・ネットワーク上にDAppsとして作られているBinance Coin / BNBやOmiseGO / OMG はなんと呼ばれているのでしょうか? BNBやOMGのように、他プラットフォーム上に構築されているブロックチェーンの基軸となるものを一般的に「トークン」と呼びます。 CoinMarketCapより。同サイトでは、コインのみ、あるいはノンネイティブトークンのみの時価総額ランキングを見ることもできる。 しかし、あるプロジェクトが独自のブロックチェーンを使っているかを逐次調べるのは面倒なため、両者とも「仮想通貨」または「トークン」と呼ばれる傾向があります。 こちらのページでは、以降全て「トークン」と呼ぶことにします。 トークンは大まかに分けて7種類存在する それでは、トークンには実際にどのようなタイプのものが存在するのでしょうか。 正確な名称や定義は曖昧であることが多い上、中には複数のタイプに属するものもありますが、大まかに分けてトークンは次の7種類に分かれます。 仮想通貨 日本円やアメリカドルなどの法定通貨のように、価値の貯蔵や単位、また交換・取引の手段として使われる目的で創られたトークンを仮想通貨と呼びます。 ブロックチェーンや仮想通貨にあまり馴染みのない方々がイメージすることが多い、いわゆる「デジタル通貨」がこのカテゴリに当てはまります。 例を挙げると、ビットコイン / BTC やライトコイン / LTC、モネロ / XMRなどがこのタイプに当てはまるでしょう。 仮想通貨が法定通貨と異なる部分は、価値や発行量、取引履歴などが集権的に管理できない(法ではなくコードで成り立っている)という点にあります。 したがって、仮想通貨には非集権的な(政府にコントロールされない)経済圏の構築やマイクロペイメントの円滑化、国際送金の簡易化、匿名性の確保などを可能にするポテンシャルが存在します。 しかし、ブロックチェーン技術は複雑である上、高リスクな金融商品としてのイメージも根強いため、仮想通貨は世間の理解を得られにくい傾向にあります。 プラットフォームトークン イーサリアム / ETH やネオ / NEO 、オムニ / OMNI などといったプロジェクトは、分散型ネットワーク上にDAppsを構築できるようにデザインされたブロックチェーンを開発しています。 これらのようなプラットフォームで使用されるトークンをプラットフォームトークンと呼びます。 上記の仮想通貨と違い、これらのトークンは通貨(currency)として存在するわけではなく、分散型ネットワークを維持するための「燃料」となる役割を果たします。 例えば、「コインとトークンの違い」の項で紹介したOmiseGO / OMGは、イーサリアム上に構築されたDAppです。 プラットフォームトークンの歴史は、ビットコインの登場に遡ります。 ブロックチェーンやスマートコントラクト、分散型ネットワークなどといった技術はビットコインの登場を機に有名になりました。 これらの技術は上記の定義の「仮想通貨」以外にも、様々な産業分野で使えるのではないかと考えられ始めました。 そこで、通貨としての使い道だけでなく、トークンに様々な用途を付与することのできる万能なプラットフォームを開発したのがイーサリアムです。 ユーティリティトークン 冒頭で紹介した通り、現在市場に出回っているトークンの9割(定義が曖昧で重複もあるため、諸説あり)はユーティリティトークンであると言われています。 ユーティリティトークンとは、投票権やメンバーシップを表したり、特定のサービスを享受するために使われる単位です。 上記の「仮想通貨」との違いは、ユーテリティトークンは「特定のサービスにアクセスするための」手段であるということです。 例えば、Golem / GNT と呼ばれるプロジェクトでは、世界中のスマートフォンの計算能力の貸し借りを可能にするサービスが行われています。 このサービス上では、計算能力を提供・利用する場合にGNTトークンでやり取りが行われます。GNTトークンは、他サービスでのオンライン決済などには基本的には使用できません。 対して「仮想通貨」であるビットコインは、取引所でGNTトークンを購入することにも使えますし、BTC支払いを受け付けているお店で買い物をする際にも使用できます。言い換えれば、エコシステム外のサービスにも利用することができるということです。 このように、ユーテリティトークンというのは、そのトークンが基軸となるサービスが構築するエコシステム内での利用を目的としたトークンのことを意味します。 セキュリティトークン 金融業界でのセキュリティとは、株式や債券などの金融商品のことを指します。こういった金融商品をブロックチェーン上でトークンとして発行したものが、セキュリティトークンと呼ばれるものです。 近年では、これらのような金融商品をブロックチェーン上でトークンとして発行することで、より高い安全性や透明性を確保しようと考えているプロジェクトが出現してきています。 例えば、Polymathというプロジェクトでは、法人が規制に基づいたセキュリティ・トークンを発行できるプラットフォームを開発しています。 セキュリティトークンは他のトークンと特に性質が異なるため、法規制的な観点から各国でグレーゾーンに入っています。 STO(セキュリティ・トークン・オファリング)とは?ICOとの違いを徹底解説 - CRYPTO TIMES 資産担保型(アセットバックト)トークン 実在する資産で価値が裏付けられているトークンを資産担保型(アセットバックト)トークンと呼びます。 言い換えると、トークン一枚と一定単位の資産(不動産やコモデティ、法定通貨など)が理論上交換できるということです。 資産担保型トークンの中には、単純にトークンに紐づいている資産の所有権(ダイヤモンドや不動産など)を表すためのものもあれば、トークンの価値を裏付け資産で担保する(石油や金、法定通貨など)ものもあります。 特に、後者のようなトークンは、「価格を安定させることで日常的に使いやすい通貨を作る」という目的から「ステーブルコイン(安定型コイン)」と呼ばれることもあります。 アセット・バックト通貨とは?特徴・仕組みを徹底解説! - CRYPTO TIMES 法定通貨に連動!?仮想通貨におけるペグ通貨とは? - CRYPTO TIMES 非代替型(ノンファンジブル)トークン 非代替型トークン、またはノンファンジブルトークン(NFT)とは、一枚一枚が異なった価値を持つタイプのトークンです。 非代替型トークンの例として必ず挙がるのが、イーサリアムのERC-721規格を利用したCryptoKittiesです。このサービスでは、法定通貨や仮想通貨でデジタル上の猫を購入することができます。 Ethereum(イーサリアム)の”ERC”って何?メジャーな規格を徹底解説! - CRYPTO TIMES それぞれの猫には異なった見た目や特徴があり、こういったデータがトークン一枚一枚に紐付けられています。 Aさんの猫とBさんの猫は見た目が違うため、そのデータが入った二人のトークンの価値も異なるわけです。 非代替型トークンは、アート、猫、不動産などひとつひとつ違った性質を持つ資産を表すことに優れたトークンであると言えます。 法定仮想通貨 日本円やUSドルなど通常政府が発行する通貨は法定通貨またはフィアット通貨と呼ばれ、各国政府がその価値を保証しています。 「価値を保証する」というのは、「日本国内では、いかなるビジネスも必ず日本円を支払い方法として受け付けなければいけない」と決められているということです。 この法定通貨をブロックチェーンや分散型台帳の仕組みを利用して仮想通貨として発行したものが「法定仮想通貨」です。このタイプのトークンはとても特殊です。 例として最適なトークンは、ハイパーインフレーションに陥っているベネズエラの政府が発行する「ペトロ」です。 ペトロは、石油に裏付けられた資産担保型トークンでもあります。しかし、政治的観点から、このトークンの信頼性には否定的な意見が出回っています。 ペトロってどうなったの?ベネズエラの仮想通貨事情を時系列で全部解説! - CRYPTO TIMES 「仮想通貨」と総称することの何が悪いのか この記事の冒頭では「トークンの種類を区別せずに全てを仮想通貨と呼ぶのはいけない」と主張しました。 ですが、ここで紹介してきたトークンの種類などについてある程度の知識があるのであれば、ぶっちゃけ仮想通貨と総称してしまってもいいと個人的に考えています。 「コイン」と「トークン」をまとめて「トークン」としてしまうのと一緒で、トークンの種類を逐次確認して適切な名前で呼ぶというのは面倒なことだと思います。 ただ、専門知識のない世間一般からすると、「仮想通貨」という言葉には日本円やUSドルのような法定通貨のデジタル版といったイメージを強く彷彿させることがあります。 ブロックチェーンや分散型台帳について何も知らないまま、ただ「仮想通貨は全てデジタル版通貨だ」というイメージを持った人は必ず、「誰が価値を保証するんだ」「なんか詐欺くさい・危ない」といった誤解をしてしまいます。 これに加えて、取引所のハッキングやICO詐欺などのニュースが既存のネガティブなバイアスに拍車をかけるのです。 上記でも説明した通り、本当の意味での「仮想通貨」というのはビットコインやライトコイン、モネロのような一握りのものに限られています。 つまり、全てのトークンを仮想「通貨」と総称してしまうことで、本来通貨としての利用が意図されていないトークンがとばっちりを受けてしまう、ということです。 まとめ 本記事で解説したトークンのタイプの定義というのは常に変化を続けており、複数のタイプに重複するものもありますし、新たなタイプというのも出てくるかもしれません。 この「絶対に正しいものはない」というコンセプトがまた、世間の理解を得られにくい理由のひとつなのかもしれません。 しかし、本記事で説明した通り、「仮想通貨」という総称には誤解を招きやすい特徴があり、これを少しでも解消することはブロックチェーン技術普及への更なる一歩になるのではないかと考えられます。
技術
2018/04/21Ethereum(イーサリアム) ERC721の特徴は? ERC20やERC223との違いを徹底比較!
こんにちは!Shota(@shot4crypto)です。 多くのプロジェクトがイーサリアムのERC20と呼ばれる標準の規格でトークンを発行しますが、これに続き新たにERC223やERC721といった規格が開発されています。 今回は、このERC721という規格が他のERC20やERC223とどのような部分で異なるのか、ERC721の特徴などを解説していきたいと思います。 dAppsゲームなどでも利用されることが多い規格なので、是非頭に入れておいて下さい。 スマートコントラクトには規格がある Ethereum(イーサリアム)のスマートコントラクトにはERCと呼ばれる標準規格が存在します。 このERCとはEthereum RFC(Request for Comment)の略のことで、この後ろにつく番号は単純に規格の種類を表します。 数字が大きければ、必ずしもそれが過去の規格をアップデートして優れた性能を持つわけではないというわけではなく、数字によって異なる特徴を持つ点に注意してください。 現在では、大半のトークンが2014年に開発されたこのERC20を標準規格として採用しています。 その後2017年3月5日に、ERC20のいくつかの問題を解決したERC223が開発されました。 ERC223に関しては以下の記事を参照してください。 関連記事:Ethereum(イーサリアム)のERC20を解決したERC223とは何か? その後2017年9月に登場した新たな規格がERC721になります。 ERC721とは?用途や特徴を解説 このERC721という規格ですが、ERC223と違いERC20における問題を解決するために作られたものではありません。 以下に説明する非代替性などの特徴から、既存の規格における問題を解決するというよりは、別のベクトルでスマートコントラクトに新たな可能性をもたらす規格として作られたと考えるのが妥当です。 ERC721の特徴である非代替性とは ERC721はNFT(Non-Fungible Token)と呼ばれ、それぞれのトークンが固有の希少性や独自性などを持つことができるように設計されています。 『Fungible』とは『代替性を持つもの』のことを意味します。 例えば、友人から100円を借りたとして、それを返すとき100円を渡すことで貸し借りが成立するのは、通貨が持つ『価値の保存』、『価値の尺度』、『交換の手段』の3つがFungibility(=代替性)となり、借りた100円と返す100円が同じ価値を持つためです。 NFTという性質を持つERC721では、トークンがそれぞれが独自の価値(例:レア度、所有権など)を持つために、『AがBにトークンを渡し、3日後にBがAにトークンを返す』といった交換が成立しない可能性が出てきます。 次にこれがなぜ成立しないのかを具体的な用途を交えて解説します。 ERC721の用途 このNFTという性質のために、トークンは主にDappsゲームなどで利用されています。 例えば、CryptoKittiesやChain MonstersなどのDappsにおいて、プレイヤーは自身の猫の育成や交配、モンスターのレベルや世代が独自の価値を生み出すため、マーケットプレイスでは様々な特徴を持った猫やモンスターが売買されます。 上に述べた『AがBにトークンを渡し、3日後にBがAにトークンを返す』といった交換が成立しないのは、モンスターの性質(レベルなど)が変化することで、同等の価値を保つことができなくなるためです。 したがって、この規格は決済手段などとして使われる通貨を目指すマイクロペイメントなどのトークンというよりは、どちらかというとDappsの主にゲームにおいて、育成要素などを付与する際に使われることが多くなります。 ERC721の将来性 育成要素のあるDappsゲームにおけるこの規格の採用はこれからも増えていくと考えられますが、その他の場合だとどのように採用されていくのでしょうか? 僕個人としては、現実的なモノやサービスと連動するのではないか、と考えています。 ERC721の採用例を2つほど挙げさせていただきます。 音楽ライブでのチケット購入 音楽ライブにおいて、座席やライブまでの日付により価格が変動するチケットはERC721の採用により、マーケットプレイスにおいて相対的な価値で公正に主催者のプラットフォームのもとでチケットが売買される環境を構築することができます。 スマートコントラクトにより、主催側のプラットフォーム以外でこれが売買される(現在でいうダフ屋など)場合、このトランザクションを成立させないことも可能になります。 Webサービスにおけるイノベーション 例えば、自身の価値を形にできるWebサービス(タイムバンクやVALU)において、例えばXYZトークン(XYZ)に識別可能な3つの特徴(Aフォロワー数, B秘密鍵, C平均RT数, Dサービスプラットフォーム内での評価)を検出するスマートコントラクトが書いてあるとします。 このときERC721を使ったXYZを僕が発行(プラットフォームから購入)した場合、フォロワーは300人、秘密鍵、平均RT数、プラットフォーム内の評価などから相対的なトークンの価値が算出され、これはリアルタイムで変動します。 仮にきゃんた君がXYZを発行(プラットフォームから購入)した場合、フォロワーが6000人いるのでこのときのXYZトークンの価値は相対的に僕のXYZトークンより高くなります。 これはあくまでも簡単に考えた例でしかないので現実的ではないかもしれませんが、より洗練されたインプットデータを入力することで、正確に公正に価格を設定することが可能な、こういったサービスが登場するかもしれません。 まとめ この記事ではERC721を、ERC20やERC223との機能面や用途に関しての比較という形で紹介させていただきました。 Dappsゲームは、勝ち負けをこだわる際にこういった非代替性が必要不可欠になってくるので、これからはよりERC721を採用したトークンを目にする機会が増えると思います。 要注目です!