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2019/06/10大日方祐介が語る、ブロックチェーン領域における日本の特徴と「世界」へのチャンス
5月30日木曜日、都内で開かれたイベントにて本田圭佑氏が新たなプロジェクトとしてブロックチェーン領域に特化したベンチャーキャピタルを立ち上げることが発表された。このVCの仕掛け人・大日方(おびなた)祐介を取材した。“Obi”の愛称で世界のブロックチェーン・コミュニティに名が知れ渡る大日方に、後編ではブロックチェーン領域における日本の特徴と、「世界」を見据える今後の展開について聞いた。 前編 : ブロックチェーンは「世代として初めての世界的な波」–ファンド立ち上げで世界に挑戦する大日方祐介 - CRYPTO TIMES ※ 今回のインタビュー記事は、CRYPTO TIMES の新井が協力の下、GRASSHOPPER編集部とインタビューを実施し、株式会社電通様が運営するWEBメディアGRASSHOPPERに掲載されたインタビューの転載となります。 転載元記事 : 大日方祐介が語る、ブロックチェーン領域における日本の特徴と「世界」へのチャンス– GRASSHOPPER 海外に向けて「日本」を発信する必要性 —ブロックチェーン領域で日本の企業や開発者が戦っていくときに必要なことは何でしょうか。 大日方:グローバルで動いている業界なので、日本だけのコミュニティで動くのではなく、世界のコミュニティの中で存在感を出しながら何かしら開発や事業、投資をやっていくのが重要だと思っています。企業に限らず、この領域で取り組んでいるスタートアップやメディアなど、どのプレイヤーもそうです。 そうでなければ、世界のプレイヤーに取り残され日本だけで盛り上がって終わるのではないかということを危惧しています。例えば情報発信では、海外で議論されている英語の情報を日本語に翻訳して伝えてくれる人やコミュニティは多いですが、日本のことを英語や中国語にして海外に伝える人はほとんどいません。そのため、世界に対する日本の情報発信をやっていこうと思い去年ごろから海外のカンファレンスでの登壇を積極的にやり始めました。4月のEDCON(イーサリアム開発者会議の中でも世界最大規模の一つ)では、日本のコミュニティについてスピーチさせてもらったり、Vitalikとのパネルディスカッションに出させてもらって、日本の業界で盛り上がっていることを発信しました。 また、週1回ウィークリーニュースレターのような形で、日本でその週に起きたことを英語でまとめて発信することもやっています。これらをちゃんとやっていかなければ、世界のコミュニティの中で「日本って盛り上がってるっぽいけど、なんかよくわかんない」という感じでそのほか多くの業界のように終わってしまいますよね。 —やはり、海外からみると日本の情報は手に入りにくい。でも、何か盛り上がっているからこそ、状況を知りたいと思っている人は多いということでしょうか。 大日方:そうですね。とても多いと思います。韓国も日本と同じように世界からの関心が高い市場の一つですが、世界との関わりという意味では日本より進んでいますね。日本はブロックチェーンのことを取り上げてくださるメディアやイベントの機会は海外と比べても多いですが、言語の壁もあり、国内だけで盛り上がりがちな面もあると思います。 この領域は、シリコンバレーだけではなく世界中で色々な試行錯誤がものすごいスピードで行われています。その際の言語は英語ベースなので、その中でちゃんと情報発信をしたり、人間関係を作っていくのは非常に重要だと思います。 —ブロックチェーン領域に関して、日本はどういった点が強いのでしょうか。 大日方:ほかの国と比べても、日本はコア技術に本気で取り組もうとしている人たちが多いという印象です。LayerXの中村(龍矢)さんなどは世界の開発者コミュニティの中でも広く認知されてきていると言えるのではないでしょうか。 また、Plasma Groupという、Karl Floerschなどの有名な開発者が主宰するスケーラビリティ技術たちのオンライン会合があるのですが、これに先日初めてCryptoeconomics Labの落合(渉悟)君が参加していたりもして、世界のコミュニティで認識される開発者は日本からもちゃんと出てきつつあるなと思います。 一方、世界に比べても日本はクリプトへの理解度が高い人や触れたことのある人が多い市場なので、より何がマスに受け入れられるのかという社会実験思考で開発をするチームがもっといてもいいなとも思います。 世界に挑戦するため、スタートアップとしてベンチャーキャピタルを立ち上げる —大日方さんが思う、ブロックチェーン領域におけるトップクラスの起業家人材はどのような人材ですか? 大日方:よく投資家目線で聞かれることがあるのですが、僕は自分自身のスタートアップという感覚で、ベンチャーキャピタルという事業領域に挑戦しています。なので、むしろいち起業家目線で世界を目指しています。上から評価するという感じではなく、同じ目線を持った仲間を世界中で探しているような感覚です。そういう人たちとの冒険を一緒に共有しながら、切磋琢磨しながら世界に挑戦したいと考えています。 そして、ブロックチェーンは日本にとっても世界を目指せるまたとないチャンスだと思っています。インターネット黎明期だと今のようにTwitterなどの伝達手段が無かったので、アメリカのベイエリアに情報も資本も蓄積し、結果今の「シリコンバレー」が出来上がりました。ゆえにタイムマシンモデルのようなことが出来たわけですが、同時にシリコンバレーとはなかなか追いつくことのできない差が生まれてしまいました。しかし今のブロックチェーン業界ではほぼリアルタイムに世界で起きていることがわかり、世界中どこのメンバーともすぐにやり取りができます。まだ、全てがシリコンバレーだけに集中しているわけではありません。だからこそ、日本の情報をもっと発信していく必要、グローバルのコミュニティの中でちゃんと存在感を出していく必要があるなと感じています。 一度きりの人生、本気で世界を目指したい —今後の展望を教えてください。 大日方:僕がこの領域にかけて挑戦しようと思った理由でもあるのですが、日本人が世界と同じ標準を狙っていける領域がブロックチェーンだと思っています。なので、この領域を目指す人たちをどんどん増やしたいなと思っていますし、そういう人たちを今自分が立ち上げているベンチャーキャピタルを通して世界中で支援していきたいなと思います。 2019年5月末に発表したブロックチェーンファンドですが、僕とアメリカ人のパートナー、ギャレット・マクドナルドと共に立ち上げます。彼はビットコインのマイニングを13歳から始め、自身でもマイニングチップを開発する企業を運営していた技術者で、直近はベルリン拠点で東京電力や中部電力などと協業しているEnergy Web Foundationでトークン設計やブロックチェーンインフラ構築などをやっていました。そんな彼と、共同で立ち上げるのが本田圭佑さんらです。 彼らとやろうと思ったのも、初めから世界目線で挑戦したいというところがありました。本田さんはサッカー選手としても有名ですが、有名だからやりましょうというわけではなく、一人の日本人・人間・投資家として、彼ほど世界目線をもって、やるんだったら世界を目指そうよとピュアに思っている人はなかなかいないと思います。そこで最初に目線が合って、議論を重ねる中で一緒にやりましょうとなりました。 これまでのスタートアップの世界だと、アメリカをはじめとした世界中の優秀な起業家に日本の投資家が投資をできる理由はなかなか作るのが難しいものでした。でも世界の中でも日本に注目しているプレイヤーが多いブロックチェーン領域ではそのチャンスがある。だからこそ、僕は世界を思いっきり狙うことができると思っています。僕の野望は、この領域における世界トップクラスのベンチャーキャピタルを作り上げることです。 前編 : ブロックチェーンは「世代として初めての世界的な波」–ファンド立ち上げで世界に挑戦する大日方祐介 - CRYPTO TIMES Interview & Text:西村真里子 協力:CRYPTO TIMES 新井進悟 転載元記事 : 大日方祐介が語る、ブロックチェーン領域における日本の特徴と「世界」へのチャンス– GRASSHOPPER
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2019/06/07ブロックチェーンは「世代として初めての世界的な波」–ファンド立ち上げで世界に挑戦する大日方祐介
5月30日木曜日、都内で開かれたイベントにて本田圭佑氏が新たなプロジェクトとしてブロックチェーン領域に特化したベンチャーキャピタルファンドを立ち上げることが発表された。 このVCの仕掛け人・大日方(おびなた)祐介を取材した。“Obi”の愛称で世界のブロックチェーン・コミュニティに名が知れ渡る大日方に、前編では、プロックチェーン領域を手がけるに至ったこれまでの経歴について聞いた。 ブロックチェーン領域における日本の特徴や、「世界」に向けたチャンスについての「後編」は次週公開予定。 ※ 今回のインタビュー記事は、CRYPTO TIMES の新井が協力の下、GRASSHOPPER編集部とインタビューを実施し、株式会社電通様が運営するWEBメディアGRASSHOPPERに掲載されたインタビューの転載となります。 転載元記事 : ブロックチェーンは「世代として初めての世界的な波」–ファンド立ち上げで世界に挑戦する大日方祐介– GRASSHOPPER 2010年代前半〜今に至るまでのブロックチェーンとの関わり —若い世代・学生を中心にブロックチェーン・コミュニティを牽引する大日方さんの活動について教えてください。 大日方:2018年初頭から日本の若い世代を中心とした開発者向けのイベントなどを行うブロックチェーン・コミュニティ「CryptoAge」を主宰しておりました。去年11月には国際カンファレンス「NodeTokyo」を主催し、現在この領域の企業やトークンに集中し投資を行っていくベンチャーキャピタル(VC)を立ち上げたところです。 —まず、ご自身がスタートアップに関心を抱くようになったきっかけを教えてください。 大日方:中学校の英語の授業でザ・ビートルズを聴いたのをきっかけに、海外のロックバンドが好きになり、実際に高校時代にはバンドを組んでボーカルもしていました。1960年代からイギリスやアメリカで始まったバンドムーブメントって、若い人が集まって世界的に成功していくサクセス・ストーリーがありますよね。そういった夢を追って世界を目指す人たちが昔から好きで。大学に入るくらいからスタートアップの存在を知り、共通項を多く感じ興味を持つようになりました。大学2年生あたりで先輩たちがスタートアップを立ち上げはじめたこともありインターンとして働き始めたりしました。 スタートアップへの関心と並行して、18歳ごろから東南アジアを中心にバックパッカーをするようになり、日本以外の世界を見て、日本だけに留まるのではなく世界で挑戦するようなことをしたいと強く思い始め21歳のときに大学を1年休学しフィリピンに移住しました。ちょうどその頃の2012年は、東南アジアでもスタートアップ業界が盛り上がり始めていました。 現地で2か月ほど英語を特訓し、ある程度出来るようになった頃に「スタートアップウィークエンド」というハッカソン兼ビジネスコンテストに日本人一人で参加してみたり、滞在後半は現地で出会った開発者らとプロダクト開発に取り組んだりしていました。そういった中で、自分の中で東南アジアのスタートアップへの情熱がより高くなり海外メディアを読み込みリサーチをし、そのまとめを日本語でブログに書き始めたんです。するとイーストベンチャーズの松山太河さんから、いきなりFacebookでメッセージをもらい、急遽会うことになりました。 当時、日本の学生で東南アジアを含め海外のスタートアップを調べている人はほとんどいなかったそうで、すぐに意気投合させて頂き、その日からイーストベンチャーズに参画し始めました。入ってみたら丁度、国内や東南アジア、アメリカで投資をし始めるタイミングで自分の興味範囲とまさに合致していたのです。 —そこから、ブロックチェーンと出会った経緯について教えてください。 当時のイーストベンチャーズでは、同じフロアに創業間もないメルカリやBASEなどがひしめくオフィスで、太河さんとほぼ毎日一緒にいさせて頂いて学びながらベンチャーキャピタルの立ち上げ期を経験させてもらいました。個人的にもdely(クラシル)、Progate、タビナカ、シンガポールのGlintsなどのスタートアップへの投資支援をさせてもらっていました。そんな中で2014年の半ば、まだ加納(裕三)さんがbitFlyerを創業されたばかりのタイミングで、木村新司さんのご紹介から太河さんにご相談にいらした際に同席させていただいたんです。その時に加納さんから初めてビットコインについて教えてもらいました。僕は元々、旅をする中で外貨の両替が面倒だと感じていたり、フィリピンでは街中に出稼ぎ労働家庭向けの国際送金屋が沢山あるのを見ていたと言う背景もあり、すぐにビットコインに興味を持つようになりました。 bitFlyerには、イーストベンチャーズからも出資をさせていただけることになり、個人的にもビットコインのことをリサーチするブログを書き始めたり、当時コインチェックを始めたばかり和田(晃一良)さんらとビットコイン勉強会をするきっかけになりました。 ただ、2014年頃はまだブロックチェーンという言葉が出回り始めたくらいのタイミングで、立ち上がってきているものは取引所くらいしかありませんでした。領域としてまだ狭いかなと感じ、魅力を感じつつ関わるにはまだ時期尚早かなと感じ、個人的にも趣味程度でウォッチしている程度でした。 その後、バンコクに移住し旅行関連の事業などに取り組んでいた2017年頃から世界的にも界隈が再び盛り上がり始め、自分のような日本・アジアにバックグラウンドを持つ人間だからこそ世界で大いに挑戦できる可能性があると感じ、ブロックチェーン領域をまた深掘りし始めました。 —なぜブロックチェーンに特化したVCを立ち上げようとしたのでしょうか。 ブロックチェーン業界に興奮したのは、それまでのスタートアップ業界と違い、必ずしもシリコンバレーが一番の中心ではないという点です。ビットコインやイーサリアムも世界各地でコミュニティができ始めていて、アメリカだけでなくヨーロッパやアジアに開発者がいる状況でした。日本はといえば、2017年4月に世界で初めてビットコインを決済手段として認める法律が出来、世界的にも先駆的なポジションになりつつありました。2017年の後半ぐらいからは取引所がテレビCMをし始めたりという動きがあり、世界的に見ても仮想通貨・ブロックチェーンがここまで浸透し始めているのは日本ぐらいではないかと感じました。このタイミングであれば、アメリカのトッププレイヤーであっても日本に大きな関心を寄せてくれるのでは?という仮説が出来上がりつつありました。 その時、ちょうどいいタイミングでバンコクで初めての本格的なブロックチェーンカンファレンスがあったんです。当時ブロックチェーン関連企業で珍しくアメリカの有名アクセラレータYコンビネーター入りが決まっていたスタートアップ「Quantstamp」の創業者であるRichard (Ma)も、スピーカーとして来ていました。アフターパーティーに忍び込んで彼に話す機会を得て、出来上がったばかりの仮説を検証しようと思ったのです。 —アフターパーティーだけ忍び込んで、話しかけるとはすごいですね! 大日方:はい、彼らに、日本やアジアのことをピッチすれば、強く興味持ってくれるのではないかと思ったわけです。そうして話しかけに行って、自分が日本でしてきたことや、日本におけるブロックチェーンの現状などを話しました。すると、非常に興味を示してくれたんです。さらにその2、3週間後に日本に来てくれることがすぐに決まり、2018年の1月に日本で初めて彼らとともに開発者向けのイベントを開きました。これが今の自分につながる大きなきっかけになりました。 その時に、日本でブロックチェーンを取り組み始めているSBI、DMM、メルカリといった企業を一緒に回ったりしました。そのとき丁度、本田圭佑さんの投資チームの方も日本にいてご紹介できたんです。それがきっかけで、当時メキシコにいた本田さんに自宅へ招いてもらい、食事をさせてもらいながら4時間ほど熱くお話をさせてもらい、すぐに投資を決めて頂いたりということに繋がりました。 そういったこともあり、Quantstampチームは日本市場に大きな可能性を感じてくれ、アジア最初の拠点として東京にオフィスを作ることになりました。色々一緒に回ったりしたことでよく思ってくれたみたいで、そこからシリコンバレーの界隈や彼らが仲がいい人たちに「日本に行くのだったら、オビってやつに連絡したらブロックチェーンだけでなくテック業界にも精通していて、ローカルの美味しい飯屋や、カラオケも連れて行ってくれるぞ(笑)」などと言いふらしてくれるようになり、世界中のいろいろなトッププレイヤーから連絡を貰えるようになりました。 その後、宮口(礼子)さんがイーサリアム財団のエグゼクティブディレクターになるということもあって、Omiseの長谷川(潤)さんなどと一緒に、日本で初めてのイーサリアムオフィシャルイベントを開催するということにもつながりました。 イーサリアムの考案者であるヴィタリック・ブリテンをはじめとして世界のトップ開発者が東京大学の講堂に集結し、日本の開発者を中心に500名以上が集まりました。現在Polkadotを開発しているギャビン・ウッドと親交を持つようになったのもこのタイミングです。このイベントをきっかけに、日本でもイーサリアムなどのブロックチェーン技術サイドに目を付ける開発者や特に若い世代が一気に増えはじめたと、肌で感じ始めました。 これらがブロックチェーン・コミュニティ「CryptoAge」の生まれた背景です。ちなみに、「クリプトエイジ」の名前は1990年代のインターネット黎明期に多くの起業家を輩出した「ネットエイジ」に影響を受けた名前です。最初は僕が一人で主宰していたのですが、徐々に参加した学生たちが参画したいと言ってきてくれたり、早稲田大学や一橋大学などでは、自ら大学内でブロックチェーン研究開発サークルを作ったりという流れも出てきました。そういったメンバーでこの領域で今起業に挑戦していたり、引き続きブロックチェーン関連企業で頑張っている人たちも多くいるのは嬉しいですね。 [caption id="attachment_38289" align="aligncenter" width="800"] ©Advertising Week Asia 2019[/caption] ブロックチェーンは、同世代にとって「生まれて初めての世界的な大きい波」 —ブロックチェーンに興味のある学生や若い人がたくさんいると思いますが、なぜ若い層に刺さったり、燃え上がらせることができたと考えますか? 大日方:僕ら1990年代以降の世代は、これまで自分たちが主役と思えるような大きなテーマがほとんどなかったように思います。インターネット黎明期で何かに挑戦するには子供すぎたし、スマホやアプリみたいなところもちょっと若すぎたんです。 そんな中、僕らが主役の世代として挑戦できるタイミングで来た初めての世界的な大きい波が、ブロックチェーンだと思います。だからこそ、僕もすごくわくわくしてこの領域でチャレンジしようと思ったわけです。これと同じように思っている若い世代はとても多いと思います。 —この傾向というのは日本だけでなく世界的にも多いのでしょうか。 大日方:世界的にも多いと思います。世界のコミュニティを見ていても、中心になって取り組んでいるヴィタリック・ブリテンなどの開発者は20代までが中心だったりと、若い人が多いです。VCや投資家側も若い世代はとても多く、ブロックチェーン領域のファンドで世界トップクラスになってきているPolychain Capital創業者のオラフ・カールソン・ウィーなどはまだ30歳手前です。 このように、開発の領域でも、VCの領域でも、ブロックチェーンに関しては、若者が中心で世界的にも動いているなというのは分かっていたので、日本でもその動きを作っていきたいなと思ったことも大きいです。 Interview & Text:西村真里子 協力:CRYPTO TIMES 新井進悟 トップ画像:© Advertising Week Asia 2019 転載元記事 : ブロックチェーンは「世代として初めての世界的な波」–ファンド立ち上げで世界に挑戦する大日方祐介– GRASSHOPPER
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2019/05/24【Tokyo DOT DAY】PolkadotはWeb3.0が社会浸透するためのロジカルステップだ – Web3 Foundation Jack Platt氏インタビュー –
Web3.0の未来を実現させようとしているWeb3 Foundationが2019年4月に日本を訪れ、TOKYO DOT DAYと称したイベントを開催しました。 Web3 FoundationではPolkadotなど分散型のウェブにフォーカスした開発や、その他のプロジェクトへの出資を行っています。また、Polkadotは最近、日本の界隈でも注目を集めるプロジェクトの一つで、ブロックチェーン同士のインターオペラビリティを実現します。 今回の記事では、Web3 FoundationのコミュニケーションディレクターであるJack氏にインタビューを実施した内容になります。 本インタビューでは、Web3 FoundationとPolkadotに関して、そしてPolkadot開発のフレームワークであるSubstrate、今後、PolkadotやWeb3 Foundationが目指していくものに関して、彼らがどういうアプローチを取っていくかなどがわかるインタビューとなっています。 Web3 FoundationとPolkadotに関して Web3 Foundation Web3 FoundationはEthereum Foundationの共同創設者であるGavin Wood氏によって創設され、Web3.0の実現を目指しています。 最近はWeb3.0という言葉を聞く機会が増えてきたのではないでしょうか?日本ではALISなどのプロジェクトがWeb3.0の実現に向けて動いています。 Web3 Foundationのビジョンには、サーバーのないインターネット、分散型ウェブの実現が掲げられており、ブロックチェーンの開発や周辺のプロジェクトへの出資を行っています。 PolkadotはそんなWeb3 Foundationにより開発が進められるプロジェクトの一つです。 Polkadot PolkadotはWeb3 Foundationによって設立され、Substrateと呼ばれるオープンソースのフレームワークで開発された最初のプロジェクトです。 ブロックチェーン間のコミュニケーションに特化しており、これまで問題とされてきたインターオペラビリティを解決していきます。 メインネットのローンチも年内に控えており、Polkadotが持つ大きな可能性からコミュニティの注目を集めています。Polkadotに関しては近日中に記事をCRYPTO TIMESでも公開いたします。 Jack Platts氏 - Web3 Foundation Communication Director 今回のインタビューに応じてくれたのはWeb3 FoundationのコミュニケーションディレクターであるJack Platts氏です。 Jack氏はPolkadotプロトコルの立ち上げを行い、Web3 Techスタック内のすべてのプロトコルの調整を行っています。 Web3 Foundation Jack氏にインタビュー Polkadotの特徴とその魅力 -- 自己紹介とWeb 3 Foundationの紹介をお願いいたします。 Jack:私の名前はJack Plattsです。 Web3 FoundationのDirector of Communicationです。よろしくお願いします。 Web3 Foundationはユーザー全員が私たちのアイデンティティやお金をコントロールするというビジョンを持っており、それを届けるために設立されました。これを取り戻してこのビジョンを実現させるために私たちは 多くのステップを踏み、また多くの技術を開発していかなければなりません。そして、その中でも最も注目しているのがPolkadotになります。 Polkadotは非常にワクワクしますし、一方でとても重要な技術の一つです。これはすべての分散型のシステムを繋ぐネットワーキングプロトコルで、ブロックチェーンはもちろんその他の分散型のシステムをすべて繋ぐことを可能にしますが、セキュリティは一つのグローバルステートをシェアする形を取ります。 一つのグローバルステートでは、例えば誰が何を望むか、誰が誰であるか、このデータは誰のものかといったことに私たち全員が同意することができ、これはすべて数学的に検証可能な状態にあります。Polkadotは2017年10月に、クラウドセールを実施しましたが、全体の約20%のトークンはハッカソンやもしかしたらエアドロップ、別のパブリックセールなどの形で再び配布する予定になっています。 これはプロダクトがまだ出ていない状態で行われることになりますが、メインネットは今年の下旬、おそらく年末までにローンチされていきます。もちろんローンチにも大きく期待していますが、それ以上に私たちはWeb3 Foundationで多くの素晴らしい開発者やパートナーを抱えていることは非常に光栄だと思います。 これまで、Parity TechnologiesやChainSafe他2つのチームにGrantプログラムなどを通した出資を行っています。基本的にはPolkadotの開発に対して出資を行っていますが、その他にもEthereumの開発やメッセージングプロトコル、ネットワーキングプロトコルにも別の形で出資していたりします。 今年の8月にはWeb3 Summitを主催しますが、ここではTezosやDifinity, Ethereum, Zcash, Polkadot, Filecoinなどの多くのブロックチェーンが集まり、これが相互に繋がります。なぜかと言うと、PolkadotではEthereumよりEdgewareなどといったように他のブロックチェーンよりこのブロックチェーンを、といったことは一切気にする必要がないからです。 -- インターオペラビリティを実現するプロジェクトは直近でも多く出てきていますね。Cosmosもその一つだと思います。そんな中で、Polkadotの特徴はどういったところにあると思いますか?どちらが優れているかという文脈ではなく、Polkadotでは何を実現することができますか? Jack:最近のツイートでも少し話したのですが、Polkadotと競合といわれるCosmosの比較を行いました。その中でもやはりPolkadotは今最も魅力的な技術であると思っています。まず、他のプロジェクトが2021年や2022年に実現しようとしていることを今年の末までにプロダクトとしてローンチするという点は非常に大きいです。 その他にも、全員がセキュリティを共有する『Shared Global State(グローバルステート)』のコンセプト、そしてプロジェクトの背後にいつチームも非常に素晴らしいと考えています。Ethereum Virtual Machine (EVM)を開発し、Ethereum Foundationの最初のプロトコルエンジニア兼CTOであるGavin Wood氏や、その他の人々もこれまで予定通りにプロダクトをリリースしてきたという実績も評価することができます。 Parity technologiesやChainSafeは、Polkadotの開発を行う一方でETH 2.0 / Beacon Chainの開発も行っています。彼らはこの分散技術界隈でも多くの経験と実績を持ち、Polkadotが予定通りにリリースされることも十分に期待ができるでしょう。そして、これはコミュニティが急速に成長している理由の一つでもあると考えています。 -- Polkadotは一つのグローバルステート、セキュリティを共有するというコンセプトだと思いますが、異なる様々なタイプのブロックチェーンはどのようにつながっていくのでしょうか?DOTはどのように使われていくのでしょうか? Jack:基本的にはブリッジを通じて行っていきます。ブロックチェーンはそれぞれ異なるセキュリティを持っていますが、これらはParachain Bridgeを利用することで、すべて相互に接続することができます。例えばEthereum BridgeやBitcoin Bridgeなどはファイナリティというものがないため、いくつかのコンファメーションを待つ必要がありますね。100ブロックかもしれないですし50ブロックかもしれないですが、これもブリッジのAuthorityによって決定されます。 Bridge AuthorityというのはDOTトークンとBTCを両方保有している両チェーンの仲介人のような役割を果たし、そのあたりのルールも彼らによって決定されていきます。 Polkadotは当初Relay Chainとして、複数のParachainと共にローンチされますが、これは50、200と徐々にスケールしていきます。Parachainになるためには一定量DOTをステークしておく必要があります。これはリースのようなもので、ステークを行うことで例えば2年間、Parachainのスロットを利用することができるようになります。そして2年後にはステークが返却されるため、これはパーミッションレスなマーケットベースのシステムであると言えるでしょう。 Ethereumであれば例えば、スマートコントラクトはデプロイにお金がかかりますが、その後はずっと無料です。しかしこれが、Ethereumでフルノードを立てるのを必要以上に高価にしている理由の一つになっています。ブロックチェーンにおいて高価なのはデプロイではなく維持費用です。 すべてのサーバーが過去のすべてのデータを持つ構造、例えば国の例を挙げるのであれば、それぞれのParachainは一つの国の会社なようなものです。Ethereumでは会社を立てるのにお金がかかっていましたが、税金はかかりません。Polkadotでは、DOTのステーキングは必要ですが、共有インフラの利用料を税金のような形で徴収します。道路や水、飛行場を使うその代わりに税金を支払うのです。 急速に拡大するPolkadotのエコシステム -- 去年くらいからPolkadotの名前は日本でもだいぶ知られてきている用に感じています。今も話にでてきたように、最近多くの開発者がPolkadotに携わっていて、エコシステムが大きく拡大してきていると感じています。他の様々なプロジェクトの提携などで今後も拡大を続けていくと思いますが、今後どのような姿を予見していますか? Jack:その通りです。コミュニティは急速に拡大しており、Polkadot上に開発を行うプロジェクトの数も増え続けています。私は、まさにここで見ているコミュニティの動きそのものがPolkadotの重要性や開発が行われるプロジェクトの野心を顕著に表していると思っています。 プロジェクトも他のプラットフォームではなく、フォークが可能でスケーラブル・セキュアなアプリケーションを作り、相互にコミュニケーションを行うことができます。例えばウェブサイトを作る際、下位のレベルのネットワーキングなどの細かいことを設定するのは、開発者としてもユーザーとしても非常に面倒です。 Polkadotというプラットフォームを利用することで、これらの細かい部分を考えて開発を行う必要がなくなるため、プロジェクトは一つのユニークな部分に集中することができるようになります。個人的に、こういった特徴により多くのプロジェクトがPolkadotに移ってくるのではないかと思っています。 ブロックチェーン以外の分野における一般的なビジネスにおいても同じことで、80~90%の仕組みはすべて同じだと言えるでしょう。例えば法的な契約、銀行口座など、ビジネスにおける骨格はすべて同じです。 ブロックチェーンにおいても、ネットワーキングや合意形成、ユーザーインターフェースなどは通常同じ仕組みが採用されていることが多いですが、現状この仕組みはありません。Polkadotはこれを可能するという点で、大きく拡大していくと考えています。 PolkadotとSubstrate --PolkadotとSubstrateはどのように相互機能していくのか、Substrateの存在で何がどのように変わっていきますか? Jack:私たちは、今後より重要なブロックチェーンというものが増えていくだろう、将来的にこれまで以上に増えていくだろうと考えています。イノベーションというものは私たちの後ろではなく先にあります。ブロックチェーンの開発フレームワークであるSubstrateを開発したのはそれが理由で、Substrateがあれば分散型のシステムでブロックチェーンを開発することがこれまで以上に非常に容易なものとなります。 これまでブロックチェーンを開発するとなると数週間から一か月はかかっていたと思いますが、Gavin WoodはWeb3 Summitでブロックチェーンを30分でコードしました。これはモジュールがあることで可能となるのですが、モジュールでは好きな合意形成モデルやガバナンス、トークンの有無などをドラッグアンドドロップするように開発することができます。先ほども話した通り、ブロックチェーンのコードは大部分が同じ構造になっているので、Substrateは簡単にカスタマイズしていくことを可能にします。 Parity TechnologiesがSubstrateを開発したのですが、彼らはブロックチェーンに関しての豊富な知識や経験を持っています。例えばEthereumやBitcoin、Zcash、Filecoin、Polkadotのノードなどの開発は彼らがやってきました。 そこで多くのコードが余分であることに彼らは気付きました。そのときに、SDKやツールキットを準備して、ブロックチェーンを簡単に開発できるフレームワークを作ろうという話になりました。 PolkadotはSubstrateのフレームワークを利用して開発された最初のブロックチェーンで、Polkadotの開発で利用されたモジュールなどは誰もが利用することができる状態になっています。また、これはオープンソースのライブラリなので、誰もがモジュールを追加することができる上、自身のブロックチェーンを即座に作ることもできます。 Substrateはブロックチェーンの開発を行う新しい方法の一つです。そしてこれが新たなアイデアを試す場になりそこに息が吹き込まれ、これが加速することで、Web3 Foundationのビジョンの実現も加速させることができるだろうと信じています。 Web3の思想と日本に期待すること -- 現状だとweb3の思想というのは世の中にはまだ浸透していません。今後、世界はWeb3.oが浸透していくことで、どのように変わっていくと思いますか?そして、何がキッカケで浸透していくと思いますか? Jack:個人的に、Polkadotが次のロジカルなステップになるだろうと考えています。よくブロックチェーンやWeb3.0というものがこれまで以上にセキュアでスケーラブルなチェーンといった話になりますが、Polkadotはこれらを既にクリアしてその先にいます。 今年の末にプロダクトを届けることで、Polkadotはインフラ向けのインフラとなることができると思います。PolkadotにはParachainが存在しますが、ここにはステーブルコインや分散型取引所(DEX)、スマートコントラクトプラットフォーム、オラクルなどすべてが含まれます。これはすべて相互にコミュニケーションが可能で、これにより開発者はこれまでにない高いレベルのアプリケーションを開発することができるようになります。もちろん、セキュアでスケーラブル、Gasを気にせずアプリを使いたいだけのユーザーも対象にできます。 そしてアプリケーション固有のブロックチェーンをPolkadot上で開発することで、ユーザーエクスペリエンス、ガバナンスなどをさらに広くコントロールすることもできます。 Polkadotはそういった意味で、ブロックチェーン固有の問題ではなく別のことにフォーカスできるようになります。これまで過去に開発されたブロックチェーンの制約によりアプリケーションの機能が制約されていたなどの問題も、Polkadotなら彼ら自身がそれを決定するようになります。 -- 日本においても最近ではsubstrateを利用したプロダクトや開発が進んできています。Web3 Foundationが日本に期待することを教えてください。 Jack:日本は素晴らしいコミュニティを持っていると思っています。私たちを歓迎してくれますし、とても熱意があり知識も豊富です。 今回、日本に来たのは私にとって初めてでしたが、Polkadotに対する興味や日本のプロジェクトを見ていて、日本に対しての時間ももっと多く、割いていこうと思いました。 ブロックチェーンという分野においては、エンタープライズで利用されるケースが増えていくのではないかと考えています。これは、日本の多くの企業がとてもテックヘビーでありブロックチェーンのような新しい技術を採用していく企業を今後よく目にするようになるのではないかと期待しています。 Permissionedなネットワークを使いながらもパーミッションレスなパブリックネットワークにはアクセスしたいという企業には、Polkadotは最適解です。もし彼らがブロックチェーンを開発したいというのであれば、Substrateが今度は最適解になります。 日本初のZerochainのようなプロジェクトにも大きく期待していますが、日本という国で見たとき、エンタープライズから広がっていくのではないかと感じています。 記事書き起こし : Shota インタビュー、記事編集 : 新井 (アラタ)
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2019/05/13ブロックチェーンのスケーラビリティーの問題を解決する技術「Plasma」とは?–Cryptoeconomics Lab 片岡拓
1992年生まれ・現在26歳のCryptoeconomics Lab CEO 片岡拓。Cryptoeconomics Labは、ブロックチェーン技術とCryptoeconomics(行動暗号経済学)の普及に向け、プロトコル開発エンジニアの育成やコミュニティの醸成に取り組む研究チーム。 現在は「Plasma」という技術に注力する。この技術のメリットとは?現在の研究状況、ブロックチェーンを通した未来の社会像などについて聞いた。 ※ 今回のインタビュー記事は、CRYPTO TIMES の新井が協力の下、GRASSHOPPER編集部とインタビューを実施し、株式会社電通様が運営するWEBメディアGRASSHOPPERに掲載されたインタビューの転載となります。 転載元記事 : ブロックチェーンのスケーラビリティーの問題を解決する技術「Plasma」とは?–Cryptoeconomics Lab 片岡拓 - GRASSHOPPER 不動産ビジネス、インドネシアでの飲食業を経てブロックチェーンへ —まず、片岡さんがブロックチェーン・ビジネスを始めるまでの経緯を教えてください。 片岡:慶應義塾大学2年生の時に、農業系ベンチャーでインターンをしていました。その会社の社長に学生が参加できるビジネスコンテストの存在を教えていただき、水耕栽培ビジネスを考えて決勝まで残ったことが今の自分の原点です。その後、大学4年生の頃に不動産ビジネスを起こし、リブセンスに吸収してもらったあたりから、次のビジネスを探し始めるため、アジア諸国を旅する生活にシフトしました。 当初手がけた不動産ビジネスは、既存の不動産業へ少しはインパクトを起こせたとしても業界全体へのインパクトには至らず、「成長しているマーケットで勝負する」必要性を感じていました。それを考えたときに、そもそも日本という市場が伸びているかという疑問が出てきて、リブセンスを退社しインドネシアのジャカルタに移りました。 最初はジャカルタでのITビジネス起業も考えたのですが、リサーチを重ねた結果、IT領域でエンジニアの採用も資金調達も、現地の人に勝つのが難しいと考え、日本食しか勝てるものがないなと思い、WAKI Japanese BBQ Diningという焼肉屋を開きました。 その時に学んだことは、アジアでは日本人が得意な領域なら勝てるということです。そのまま飲食を続けても楽しい仕事だったとは思いますが、まだ挑戦できる歳…ならば、よりやりがいのあることに挑戦していけたらなと。そう考えていたところ、2017年当時Bitcoinについて日本でもみんな語っていて、凄いことになっているなと注目し始めました。 そんな折、インドネシアのVIP PLAZAという大手ファッションECサイトのCTOを務める落合渉悟さんに出会い、ブロックチェーンについて色々と教えてもらい、毎日のように議論をして現在のCryptoeconomics Labの創業に至りました。 初期に一番惹かれたプロトコルは、暗号通貨の流動性を上げられるような(Liquidity系)プロトコルであるBancor(バンコール:分散型取引所の一種)です。また、当時色々なチェーンが出てきて、そのチェーン間で暗号通貨を交換できる必要性があると考えインターオペラビリティ(相互運用性)にも注目しました。 ただインターオペラビリティーは、やればやるほど深く時間もかかり、僕らの見立てではしっかり利用できるまで5年ほどかかると考えています。もう少し、近い将来に起こせるビジネスはどこかと考えていた2017年8月頃、Vitalik ButerinとJoseph Poonが出した「Plasma」というホワイトペーパーを読んだ落合が「これだ」と言い、自分も賛同したのです。 ブロックチェーン技術「Plasma」とは —Plasmaとはどういう技術なのでしょうか? 片岡:ブロックチェーンには“トリレンマ”があります。これは、decentralization(分散性)、security(安全性)、scalability(拡張性)の3つの要素を全部満たすことができないというものです。例えばコンソーシアムチェーン(複数の企業で形成)ならdecentralizationを抑えてscalabilityを上げているわけです。逆にBitcoinではdecentralizationが高すぎるので、どうしてもscalabilityが下がってしまいます。 しかし、decentralizationとsecurityを犠牲にすると、そもそもBitcoinやEthereumを使う理由がなくなってしまいます。なので、この2つを保ったまま、どうにかscalabilityを上げることができないかというのが、Plasmaを含むスケーラビリティソリューションの目指すところです。 今の実態としてEthereumがさばけるトランザクションは、1秒あたり15件です。対して決済ネットワークのVISAなどは諸説ありますが1秒あたり約10,000Txと考えていいでしょう。Ethereumの上にコードを置いて、いわゆるWebのようなことをしようとしたら、何十億トランザクションを毎秒さばけなきゃならないわけです。 これの解決法としてShardingやCasperという、いわゆるSerenity(Ethereum2.0)と言われているものがあります。ただ、これはあくまでEthereum Foundationが研究開発を先導し、Ethereumブロックチェーンそのものに内包されているため、企業として取り組むことが厳しいんです。 もう一つの解決方法は、BitcoinやEthereumなどのメインチェーンに独自のサイドチェーンを接続することです。サイドチェーンの中でも特にsecurityが守られているものがPlasmaです。サイドチェーンなので、自分たちが自由に扱え、サーバーも自分たちが管理できます。ですが、ちゃんとsecurityは守られている。企業の利用には向いています。 —Plasmaのどの点が面白いと思ったのでしょうか。 片岡:前提として、インターオペラビリティーとはいいながらインフラストラクチャーは分断されてはいけないというBlockstream創設者のアダム・バックの言葉があります。 これは例えていうとGoogle Play StoreやiTunes Storeのようなものが100個もある世界と、淘汰·収束されて選択肢が2、3個しかない世界の比較です。後者の方が使い勝手が良いですよね。歴史を見てもかつては様々なOSがありましたが結果Mac、Windows、Linuxのように限られたプラットフォームに収束しています。ブロックチェーンも同様で、今収束していきそうなプラットフォームは、決済としてのBitcoinと、Ethereum、あと第三の何か、という予測があります。それを踏まえBitcoinと、Ethereum以外のチェーンのことを考えるのは一旦やめました。 Bitcoinはとても魅力なのですが、ハードフォークやソフトフォークなどでアップデートできない問題があった為、Ethereumに目を付けました。ただ、decentralizationが高いため、どうしてもscalabilityが落ちてしまう。 このscalabilityをdecentralizationやsecurityを保ったまま上げる方法はあるのだろうかと研究した結果、Plasmaに行き着いたのです。 —Plasmaの開発は落合さんと二人で行っているのですか?それともコミュニティを巻き込んでやっているのでしょうか? 片岡:本当はコミュニティを巻き込んでやりたかったのですが、コミュニティは面白い提案をしないと動いてくれません。まずはキャッチアップしなければいけないんです。 なので、Ethereum Foundationや、OmiseGOのような企業、まず彼らの実装開発 をキャッチアップすることにしました。ありがたいことにオープンソースもあり勉強し放題なわけです。今では彼らがやっているPlasma Groupと、実装レベルで同じ段階まで来ており、かつ提案として彼らより進んでいる部分もいくつかあるところまで来たので、ようやく今コミュニティとしっかり会話ができているという感じになっています。構想から1年半ぐらいはかかってしまいました。 キャッチアップが終わってようやく、4月上旬にシドニーでEDCON 2019というEthereumのデベロッパー向けカンファレンスがあり、日本から弊社とLayerXさんの2社だけ出展し、そこでプレゼンさせていただいたところ、良い評判をいただきました。このおかげもありコミュニティを少しずつ巻き込むことができたというところです。 ブロックチェーンがインストールされた後の世界とは? —片岡さんから見て、Plasma及びブロックチェーンが社会にインストールされると、どうなると思いますか? 片岡:もちろん未来を予想はできませんが、作る方向性は決まってます。iPhoneが生まれた時、みんな「これはなんだ?」となりましたが、そこに内蔵されたGPSやセンサーがあることでUberなどの多くのビジネスが生まれました。ブロックチェーンではトラストレス(信用の不要性)を軸としたものが色々と生まれると思います。 カードの発行会社がいてカードブランドがあって、と色々な人たちを挟んでいる今のカード決済がP2Pで出来るようになったり、P2Pで電力取引が出来るようになったりということが考えられます。今は中央の電力供給から買ったり売ったりしていますが、個人宅の太陽光発電で得た電力を個人に売れる世界が実現された場合、例えば電気を送ってもお金を払ってもらえないということも起こりえます。この場合スマートコントラクトを用いれば、電力を送ったら必ずお金が支払われるというようになります。 それを僕らはプログラマブルマネーと言っているのですが、ブロックチェーンによって、お金がついにデータと同じ領域に入ってきたと考えています。今までもお金をデータとして扱うことは出来ましたが、実際は現実で動いているものを仮想化してやっているだけでした。 データと同じ領域にお金が生まれたことで、スマートコントラクトなどによって即時的で一貫性ある執行が出来るようになったというのが僕らは非常に面白いと思っています。実際に現実のお金の動きとデータの動きが同じになったのが革命的だなと。 —Cryptoeconomics Labでは、電力取引のP2P実証実験なども行っていますね。 片岡:大手電力会社やベルリンのコンソーシアムと組んで共同で実験を行っています。ある地域で電力メーターを置いてやっていますが、まだ彼らも手探りなので、ブロックチェーンを本当に実装したほうがいいのかはわかりません。今は中央集権システムなので、ブロックチェーンじゃない選択肢も普通にありえると思います。 ただ、例えばアフリカのある地域で今から電力インフラを作る際に、電力会社はコストが掛かりすぎる、でも太陽光発電はできるーーとなった場合に、スマートコントラクトをつけて電力を取引するビジネスなどは可能性があります。経産省が構築した月末清算システムが存在しない地域で安全にインフラを作るなら、Plasmaを使えばリープ・フロッグが起こせるのではないかという読みはあります。 —最後に、片岡さんが見る世界は今後どういったものになっていくのでしょうか。 片岡:会社としては、果たしてうちは何屋なのかというのを最近ずっと考えています。今までは、例えるなら高速道路の設計図を描くような仕事をしていたのですが、オープンソース化してしまったほうがOSS開発チームが集まるEthereumコミュニティにフィットしますよね。反対にライセンス化するとコミュニティのパワーを使えない分、負けやすくなってしまいます。 いわば高速道路を大量に作れるソフトウェアハウスのような会社になるのか、それとも高速道路のETCのような、SDKをつくったりAPIを作ったりする会社になるのか、それとも高速道路のユーザーをつかむ車の会社になるのかなど、様々な可能性があると思います。参入障壁をどこで築いて、どこでコラボレーションするかというバランスを見極めつつ、進んでいきたいと考えています。 高速道路としてのPlasmaは、これまで税で賄うしかなかった各国の公共財を安価にしたり、運営主体を不要にする能力があります。パブリックブロックチェーンにしかできないマス・アダプションは、大規模で公共的な部分にこそあると考えます。そういう未来を見ています。 Interview & Text:西村真里子 協力:CRYPTO TIMES 新井進悟 転載元記事 : ブロックチェーンのスケーラビリティーの問題を解決する技術「Plasma」とは?–Cryptoeconomics Lab 片岡拓 - GRASSHOPPER
インタビュー
2019/05/07【Tokyo DOT DAY】Polkadotはシンプルかつ直感的にブロックチェーンを作ることができるプラットフォーム -ChainSafe, Commonwealth Labs インタビュー-
2019年4月10日にDMM株式会社にて、Polkadotを中心としたミートアップ『Tokyo DOT DAY』が開催されました。 本ミートアップでは、Polkadotを主導する、Ethereum 共同創業者CTOであるGavin Wood氏をはじめ、Web3 Foundationのメンバー、Parityのコア開発者、Edgeware、Chainsafeなどと言ったプロジェクトが六本木に集結しました。 今回、CRYPTO TIMESでは、Polkadotを利用した研究開発を行うChainSafeのAidan氏、Commonwealth LabsのDillon氏の2名にインタビューを実施しました。 インタビューに対応してくれたプロジェクト Commonwealth Labs Commonwealth Labsはカリフォルニア・サンフランシスコに拠点を置き、Edgewareと呼ばれるSubstrateのスマートコントラクトプラットフォームを開発する企業です。 EdgewareはPolkadot最初のスマートコントラクトチェーンであり、RUSTやWebAssembly(WASM)が利用されています。 ガバナンスにフォーカスを置き、その汎用性や様々なオンチェーンガバナンスのメカニズムを提唱しているEdgewareは、世界中から大きな注目を集めています。 [caption id="attachment_35947" align="aligncenter" width="333"] Commonwealth Labs共同創設者 Dillon Chen氏[/caption] 今回、Edgewareを提供するCommonwealth LabsのDillon氏は共同創設者でありながら、分散型のプロトコルなどの研究開発を行う企業に対して投資を行うTuring Capitalでも活躍しています。 Commonwealth Labsでは、様々なガバナンスのシステムのチェーンが共存しワークする仕組みを目指してEdgewareの開発を行っています。 ChainSafe ChainSafeはカナダ・トロントに拠点を置き、EthereumやPolkadotなどのブロックチェーンの研究開発を行う企業です。 Go言語を利用してPolkadotの開発を行うことのできるランタイムや、EthereumのBeacon Chainの開発などを行っています。 12月には、EthereumのVitalikからTwitter上で直接1000ETHのGrant、2月には、Web3FoundationからのGrantを受けており、業界の最前線にいる人物・企業から大きな注目を集めていることがわかります。 https://twitter.com/ChainSafeth/status/1075198871649873923 [caption id="attachment_35948" align="aligncenter" width="300"] ChainSafe 共同創設者兼CEO Aidan Hyman氏[/caption] Aidan氏はChainSafeの共同創設者兼CEOを務めています。 EthereumのBeacon Chainの開発を行う傍らで、Polkadotを含む様々なオープンソースプロジェクトの開発に貢献しています。 Aidan氏、Dillon氏にインタビュー 今注目を集めるPolkadotで何が起きているのか!? -- 今回、インタビューに応じていただきありがとうございます。自己紹介をお願いします。 Aidan:私はAidanといいます。ChainSafeの共同創設者兼CEOです。 ChainSafeでは、Web3.0のインフラを創り上げることをミッションとし、ブロックチェーンの研究開発を行っています。 Dillon:Commonwealth Labsという会社の共同創設者の一人であるDillonです。よろしくお願いします。 私たちは、主に分散型のスペースにおけるガバナンスに焦点を当てています。 Commonwealth Labsで開発を手伝っている最初のプロダクトは『Edgeware』というもので、これはParity Substrate上の汎用スマートコントラクトプラットフォームになります。EdgewareはPolkadotにおける最初のParachainの一つとしてローンチされる予定です。 -- ありがとうございます。今回、日本に来るのは初めてだと思いますが、どういった目的で来日したのでしょうか Dillon:一つは、我々の認知度を上げるためです。日本のコミュニティでも、既にSubstrateを利用した開発が行われており、LayerXが開発している『Zerochain』は本当に素晴らしいものだと思います。彼らと直接話がしたかったというのも理由の一つです。 とはいえ、主な理由はやはりEdgewareの認知度向上にあります。 EdgewareはLockdropと呼ばれるETHのロックアップによるエアドロップを行っており、3 / 6/ 12か月間のETHのロックアップを行うことで、終了後ETHとEdgewareのトークンを獲得することができる仕組みを採用しています。 6月1日からの開始を予定しており、これにより開発者は新しいチェーンで開発を始めることができるようになります。 Aidan:私たちも、日本のブロックチェーンのコミュニティについて知るいい機会だと思い日本に来ました。 特に、Polkadotについて日本でこのように話す機会を手にすることができてとてもワクワクしています。 この2年半の間、私たちは多くの開発を行ってきており、Ethereumだけでなく様々なブロックチェーンに繋ぐことのできるサイドチェーンの実装を行ってきました。 なので、私たちにとってPolkadotについてコミュニティの皆とお話ができるということは、一つの大きな問題の解決につながると信じています。 なぜPolkadotを利用するのか -- 最近、ブロックチェーン界隈にいると、Polkadotの話題を非常に多く耳にするようになりました。今回、お二方の会社でPolkadotを利用した開発を行っていくと決めた大きなキッカケは何だったのでしょうか Dillon:私たちは、2年半の間Ethereumのコミュニティで活動をしており、6か月ほど前からEthereumのBeacon Chainの実装に向けての開発を行っています。 Beacon Chainの実装に向けた開発では、私たちが思い描くものをしっかりと作り上げることを目的としています。 一方でそのためには、オープンソースの技術に対しても貢献し、エコシステムにそれを加えていく必要もあると感じており、これを通じて様々なものを生み出していけるのではないかと考えています。 私たちにとってのPolkadotは、インターオペラビリティという面だけでなく、現状世界に存在する中でも、最もシンプルかつ直感的にブロックチェーンを作ることができる素晴らしいプラットフォームです。 これは、エキサイティングなだけでなく、Mass-Adoptionを考えた場合の最高のプラットフォームで、また開発者が生み出したプロダクトを利用するユーザーによってこれらが実現されていくだろうと思っています。 Aidan:Dillonの言う通りで、ユーザー側に立って考えるとき、Polkadotは非常に興味深いプラットフォームの一つだと感じます。 Jack(Web3.0 Foundation / Poladot開発者) とも話していたのですが、Polkadotには様々な技術の実装に着手する120以上のcore contributors(貢献者)、様々なparachainやエコシステムに関連するプロジェクトの開発を行う500以上の人々を抱えています。 そんなPolkadotのエコシステムの一部として開発に参加していくことはとてもワクワクすることでした。 Commonwealth Labsとしてのフォーカスはガバナンスにあり、このガバナンスの背景には必ず人々がいます。 成長を続け、人々が集まるエコシステムに参加をする方向性に向かっていきたいときに、Polkadotという素晴らしいプロジェクトがそこにあり、それがPolkadotで開発を行っていくことを決めた大きな理由です。 Polkadotがブロックチェーンに及ぼす変革と今後 -- ガバナンス、セキュリティ、インターオペラビリティなど様々な問題を解決するPolkadotですが、開発が進んでいくことで将来的にどのような変化が見られるのでしょう Dillon:PolkadotのサイドチェーンとしてのEdgewareについて話すのであれば、Parachainとしてこれが実装されていくことでセキュリティは十分に担保される形となります。 全体的な変化というより、Edgewareに関してになりますが、今後は匿名Votingなどの機能の実装を進めていく予定です。 例えば、この機能により開発者やユーザーは自身のアドレスを紐づける(公開する)必要なしに様々なことができるようになります。 その他では、Identityの部分でもPolkadotに実装していくことを目指しており、EdgewareがPolkadotに大きな変化をもたらすことを望んでいます。 Aidan:私たちは、主にサイドチェーンの開発を行っていますが、インターオペラビリティを実現していくためにはセキュリティだけでなく、それぞれのチェーンが相互に繋がるためには様々な問題を解決していく必要があります。 私たちにとってPolkadotは、セキュリティやインターオペラビリティなどの根本的な問題を解決するだけでなく、これまで多くの努力が必要とされてきた部分を3ステップ、10ステップ以上も容易に実装することを可能とします。 また、チェーンの変更などもフォークを伴わないため、ガバナンスの問題も解決することができます。 Ethereumのサイドチェーンなどはセキュリティやガバナンスなど多くの問題がありますが、Polkadotのランタイム環境やSubstrateがあれば、GoやRUSTなどブロックチェーンの領域の外にいるエンジニアなどもこれを簡単に実装することができるようになります。 -- Polkadotが実現しようとするインターオペラビリティは単なるクロスチェーンで価値の交換だけを実現するといったわけではなさそうですね Aidan:そうですね。Polkadotでは、開発者はハッキングやネットワーキング、その他多くの問題を考える必要がなくなります。 世界中の多くの人々がブロックチェーンの開発の難しさという障壁を気にせずに、自分が得意な部分で開発を行うことができるようになるので、彼らが見つけた問題をすぐに解決していくことが可能となり、より多くのユーザーを引き込むことも容易になるでしょう。 -- 現状、世界的にもブロックチェーンの技術的な部分に注目が集まってきています。そんな注目が集まっている中で、今後何をすべきかと考えていたり、逆に技術的以外の分野ではどういったことに力を入れていくべきだと考えていますか? Dillon:私の観点では、個人が問題を見つけたとき、その解決策を彼ら自身で導ける仕組み、問題を解決できる仕組みをどのように実現していくかという点が重要だと思います。 ブロックチェーンを利用する多くのプロジェクトはとても野心的ですが、フレームワークとして容易にそれを実現できるものがありません。 そんな中、Edgewareはいい例だと思っていて、容易に自身が特化している領域で開発を行うことのできる環境を提供します。 これにより、世界中の開発者それぞれが問題を見つけたとき、実現に時間のかかるであろう大きな野心を掲げることなく、簡単に問題を解決することができるようになり、これがやがてMass-Adoptionの部分にも繋げっていくだろうと考えています。 Aidan:私も同意見で、決断を下す部分にテックが介入していく、介入しやすい環境を作っていくことが必要とされていると思っています。 これが、最終的にはエンドユーザーまで浸透していき、Mass-Adoptionにも繋がっていくため、ブロックチェーン領域外の開発者を巻き込んでより多くの問題を解決していく必要があると感じています。 記事書き起こし : Shota インタビュー、記事編集 : 新井 (アラタ)
インタビュー
2019/04/19ブロックチェーンは「生活者をエンパワーメントする」技術 HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 後編
積極的にブロックチェーン技術を取り入れたサービスの発表を行う博報堂のHAKUHODO Blockchain Initiativeの伊藤佑介さんへのインタビュー。後編である今回のインタビューは、伊藤さんがブロックチェーンを取り入れたサービスに対する思いと、試験放送を実際に成功させたTokenCastMediaについてお話をいただいた。 前編 : ブロックチェーンを活用する上で大切なことは「ゲーム性とインセンティブの2つ」HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 前編 - CRYPTO TIMES ブロックチェーン技術を取り入れたサービスにかけた思い CollectableADのように、広告にフォーカスしたブロックチェーンプロジェクトは世界にも複数ある。それらとの違いに関して、我々は伊藤さんに対して聞いた。 「海外の広告系のブロックチェーンプロジェクトは、マイナスを0に持っていくことを目標に取り組む課題解決型のものが多いように感じています。それに対して、CollectableADは、0を+にする価値創造型のサービスにしたいと思って作りました。そして、これからもブロックチェーンを活用しなければできない、ブロックチェーンファーストの発想でサービスを開発していきたいと考えています。」 新たな価値を創り上げるプロジェクトである一方で、ブロックチェーンベンチャーではなく、広告業界の中にいるからこそできることにもこだわったようだ。 「今のブロックチェーンの課題は、色々なところで話されていますが、私はさまざまな業界の中における社会実装にあると思っています。ですので、CollectableADで広告業界におけるブロックチェーンの社会実装を進める一助を担いたいです。さまざまな広告業界の関係者の皆さんが一度でもブロックチェーンのサービスに触れる機会があれば、よりブロックチェーンが広告業界に浸透するでしょう。」 ブロックチェーンの社会実装を目指していると伊藤さん。その思いはCollectableADにも込められている。 「そして、広告業界にブロックチェーンの社会実装をスムーズに受け入れてもらうためには、既存のデジタル広告の仕組みや仕事のやり方については一切変えることなく使えるサービスであることが必要だと考えています。そこで、なるべく広告業界の関係者の皆さんに使って頂き易いようにできるように配慮して、CollectableADの仕組みを設計しました。実際にCollectableADを導入する際、既存のデジタル広告の入稿ルールは一切変える必要はありません。この部分に関しては特にこだわりました。既存の仕事のやり方を変えるとなると、関係者の皆さんの作業が増えたり、配信するまでの業務フローが複雑になったりして、負担が大きくなります。そうならないよう、広告業界の既存のレギュレーションを変えることなくそのまま利用できるようにすることで、CollectableADを利用するにあたっての関係者の皆さんのエントリーバリアを下げることを意識しました。」 既存の広告業界の関係者のエントリーをスムーズにするだけでなく、利用する生活者や広告主にも簡単に利用できることが大事だとも語る伊藤さん。生活者の利用に際してのこだわりはこうだ。 「もしCollectableADのトレカを集めるために、これまでにやったことのない特別な操作が必要になったりすると、生活者の皆さんにとって使いづらいと思うんです。なので、これまでどおり広告をタップするだけでCollectableADのアプリに飛んで、トレカを集められるようにしました。」 一方で、広告主が利用しやすいサービスにするためにもこだわっている。 「また、もしCollecableADをキャンペーンで利用するために、広告出稿予算を別に用意することが必要になると、広告主さんにとっても導入しづらくなると考えました。そこで、既存のキャンペーンで出稿しているバナーの一部の領域だけで間借りして、そこにトレカのアイコンを追加するだけで出稿できるようにしました。既存バナーのトレカのアイコンの部分をクリックしたユーザーだけがCollectableADのアプリへ、それ以外の部分をクリックしたユーザーは、今までどおりのキャンペーンのランディングページへ遷移するようにして、もともとの予算で出稿している広告の中で、バナー領域を一部利用するのみで、利用できるようにしました。」 細部にも徹底的に考えられている本サービス。実現は思いもよらぬことから動き始めたという。 「昨年中ごろにYuanbenさんと出会って私のCollectableADに関する構想を話しました。するとすごい熱量でこのアイディアを歓迎してくれて、主にブロックチェーン基盤の構築で協力して、一緒にサービス開発をしていただくことになりました。また、アプリの開発では、博報堂ブロックチェーン・イニシアティブと昨年9月に「ブロックチェーン・イノベーション・ラボ」を発足し、かつUXの領域で知見と実績のあるユナイテッドさんの協力もいただけることになりました。こうして3社でサービスを共同で開発して、今年1月に発表することができたんです。今後はまずは、一部の広告主さんにご利用いただきながら、徐々に展開を拡大していきたいと思っています。」 TokenCastMediaについて [caption id="attachment_34234" align="aligncenter" width="585"] TokenCastMedia第一弾「TokenCastRadio」の仕組み[/caption] 次に、2019年2月6日に発表したばかりのブロックチェーン技術を活用して、トークンとして実装されたデジタルアセットを、リアルタイムで番組を視聴している生活者に対して一斉配布できるサービス「TokenCastMedia」についても話を伺った。 TokenCastMediaに関しても、発案はCollectableADと同じく二年前に遡るという。 「TokenCastMediaも二年前から構想がありました。当時は周りにブロックチェーンに取り組んでいる人があまりいませんでした。そんな中で、たまたま前の会社の同期がブロックチェーン関連の本を出していて、連絡を取って、会ってみることになりました。せっかく会うのだから、広告業界ならではの案を持っていってディスカッションしようと考えたのがこのTokenCastMediaでした。オフラインのマスメディアがAudioWatermark技術を使って、視聴者のアプリに対してブロックチェーンで実装されたトークンをインセンティブとして配ることで、オンライン上の接点を視聴者と持つことができ、どんな生活者がTVやラジオの番組を視聴しているかが分かるサービスとして設計しました。特に、ブロックチェーンの特徴の一つであるマイクロペイメントを活かせば、番組を見ている視聴者全員にインセンティブとして低い手数料でトークンを送ることできる点に着目しました。」 [caption id="attachment_36015" align="aligncenter" width="400"] TokenCastMediaで配布されたCipherCascadeのアセット[/caption] TokenCastMediaの第1弾となったTokenCastRadioは、構想から二年後のある出会いをきっかけでとうとう実現することになったという。 「構想から二年後に、ブロックチェーンに興味があるマスメディアの方と知り合って、当時の構想を話してみると、非常に盛り上がり、是非実施しよう!ということに話が進みました。そこから、ラジオ局を持つ毎日放送さん、ブロックチェーンゲームの開発を行っているFramgia(現:株式会社Sun Asterisk)さん、そしてAudioWatermark技術を持つエヴィクサーさんとブラウザウォレットアプリのtokenPocketさんにも協力をいただき実現しました。一度話が進むと、その後は非常に早かったです(笑)。」 サービスの展望、そして博報堂ブロックチェーン・イニシアティブとしてのこれから CollectableAD、TokenCastMediaというサービスについての思いを非常に熱く語ってくれた伊藤さん。サービスの今後・展望についてのビジョンを聞かせていただいた。 「TokenCastMediaで実現したいのは、今まで多くの生活者に情報を一斉に届けていたマスメディアが、トークンとして多くの生活者にリアルな価値も一斉に届けられるようになることです。いつかは広告主さんの商品やサービスといった価値もトークンとして実装されてブロックチェーン上で流通すると考えているので、そのときにTokenCastMediaがマーケティングを支援する一つのサービスとして広く活用されればうれしいです。 また、人が生活する時間の中心が情報の交換が活性化されているインターネットの世界に移り始めていますが、それでも、日々の生活の中でのコミュニケーションの中心は、まだ価値の交換が行われるリアルな世界にあると私は思っています。しかし、価値交換ができるリアルな世界で過ごす時間が減っている中で、私たちが過ごす時間が長くなっていくインターネットの世界の中でも価値交換を行えるように将来的にしてくれるのがブロックチェーンであると考えていて、それを体現する社会実装の一つとしてCollectableADを構想しました。現在の情報を届けるインターネットを、価値を届けるインターネットに変えること、これを実現したいと思っています。」 そして、伊藤さんは博報堂ブロックチェーン・イニシアティブとしてのブロックチェーンの捉え方について最後にこう語った。 「博報堂は生活者発想をフィロソフィーとしています。そして、その生活者が社会を主導する生活者主導社会がくると考えていますが、博報堂ブロックチェーン・イニシアティブはブロックチェーンを「生活者をエンパワーメントする」ものだと捉えていて、生活者主導社会を実現する手段としてブロックチェーンを使っていきたいと思っています。我々だからこそできることもあると思っています。」 前編 : ブロックチェーンを活用する上で大切なことは「ゲーム性とインセンティブの2つ」HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 前編 - CRYPTO TIMES インタビュー & 編集 : CRYPTO TIMES 新井進悟 テキスト:フジオカ
インタビュー
2019/04/18ブロックチェーンを活用する上で大切なことは「ゲーム性とインセンティブの2つ」HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 前編
1月31日に「CollectableAD(コレクタブル・アド)」、2月6日には「TokenCastMedia(トークン・キャスト・メディア)」を発表した博報堂のHAKUHODO Blockchain Initiative。 本インタビューでは積極的にブロックチェーン技術を取り入れたサービスの発表を行っているHAKUHODO Blockchain Initiativeの伊藤佑介さんにお話を伺った。 今回お届けするインタビューは、前編後編になっており、前編ではCollectableADについて着想の原点やサービス設計の工夫に関してをお届けしたいと思う。 後編 : ブロックチェーンは「生活者をエンパワーメントする」技術 HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 後編 - CRYPTO TIMES HAKUHODO Blockchain Initiativeについて HAKUHODO Blockchain Initiative(以下HBI)とは、2018年9月19日に発足した博報堂のタスクフォースであり、ブロックチェーン技術の活用やトークンコミュニティ形成に関連したビジネスやサービス、ソリューションの開発を支援と推進をしている。 2019年1月31日には、インターネット上の広告を集めることで企業から特典を受け取ることができるサービス「CollectableAD(コレクタブル・アド)」をユナイテッド社、Yuanben社との共同開発を経て発表。 続く2019年2月6日には、リアルタイムで番組を視聴している人にデジタルアセットを送信できるサービス「TokenCastMedia(トークン・キャスト・メディア)」を発表すると同時に、ラジオ放送を用いた試験放送を実際に3月18日に実施した。 Collectable ADのアイディアはどこから生まれたのか [caption id="attachment_34233" align="aligncenter" width="608"] Collectable Adの仕組み[/caption] 2019年1月31日にHBIが発表した、ブロックチェーン技術を活用し生活者がデジタル広告を集めると企業から特典を受けられる、生活者参加型の新プロモーションサービス「CollectableAD」。HBIの伊藤さんが着想の原点を語ってくれた。 「CollectableADの着想について話すと、実は二年前に遡ります。当時、個人的にブロックチェーンが好きで色々調べていました。その中でブロックチェーンを使って暗号広告というもの作ってみるとしたらどのようなものになるだろうと、一人で思考実験していたことがきっかけとなって、CollectableADの着想に至りました。」 二年前に着想を得たサービスをついに実現した伊藤さん。サービスの検討にあたっては、広告業界のすべてのステークホルダーが恩恵を受けられることを意識したという。 「広告業界には生活者の皆さん、広告主さん、媒体社さんといったステークホルダーがいます。ブロックチェーンを利用した広告を作るなら、その全員にとって価値を感じてもらえるように、生活者の皆さんには広告そのものをデジタルアセットとして所有できる楽しみ、広告主さんには自分たちの広告がどんな生活者に届いたかを特定できるデータ、媒体社さんには広告をしっかり届けられたことを示すエビデンスを、それぞれ提供できるサービスを作ろうと意識しました。」 この考えは、まさにCollectableADで実現されている。従来のデジタル広告で生活者ができることは、配信される広告のメッセージやクリックした先の広告主のサイトの情報を見られることである。 それだけでなく、ブロックチェーンを活用した広告では、生活者が興味を惹かれたら能動的に広告に対してそれを取得するというアクションを行って集めることができる。そして、ブロックチェーン技術によって実装された暗号広告を文字通り「所有」して楽しむことができるようになる。 [caption id="attachment_35339" align="aligncenter" width="729"] CollectableADを語る伊藤さん[/caption] 「紙ベースの広告であればコピー、映像であればダビングが可能というように、従来の広告はある意味で複製することもできます。しかし、ブロックチェーンを活用して広告をデジタルアセット化することで、生活者は受け取った広告を特典と引き換えられる価値ある資産として所有することができ、それは複製されることはありません。」 広告をデジタルアセットとすることで、広告主が自分たちの広告をどんな生活者が能動的に受け取ったかも特定することができる。これにより従来の広告では難しかった、自社の商品やサービスの広告を楽しんで積極的に受け取るファンのトラッキングも可能だ。 「新聞や雑誌といったオフラインの広告では、広告をどんな生活者が読んだかを個人ベースで特定することは簡単ではありません。オンラインの広告では特定は可能ですが、Cookieの有効期限があったり、その個人が積極的に広告を受け取るファンであるかまでは判断することは難しいです。CollectableADでは、生活者の皆さんに広告を自らの意思で集めるといった能動的な行動をしてもらうことで、どんなファンが自社の広告にアクセスしたかを広告主さんは正確に知ることができます。」 媒体社にとっても、CollectableADを用いることで、自社のメディアが広告主にとって価値あるファンに対し広告を届けられたことを示せる、といったメリットがあるという。 「ファンがCollectableADを通して広告を集めることで、媒体社さんが自社のメディアに掲載した広告が、ファンにしっかりと届いていることを広告主さんにも示せ、より高い媒体価値があることを証明することもできます。これまで述べたように、ブロックチェーンを活用して広告をデジタルアセットとすることで、全てのステークホルダーにとってメリットがある形でさらにデジタル広告を進化させることができると考えています。」 CollectableADは、広告主、媒体社、生活者の全員にとって、デジタル広告をより良いものにアップブレードしうる仕組みとなっていることがわかる。 サービス設計のポイントはゲーム性とインセンティブの2つ 伊藤さんは「トークンを用いることで公平なインセンティブとそれを循環させるゲーム性のある自律分散システムを構築できる技術」としてブロックチェーンを捉え注目しているという。 ブロックチェーン技術を用いたCollectableADでは、ゲーム性をトレカという形で実現するとともに、広告を集めることで特典を得られる企業プレゼントキャンペーンとしてインセンティブが設計されている。 「過去の成功事例を研究した結果、ブロックチェーンを活用する上で大切なポイントはゲーム性とインセンティブの2つにあると考えています。これを実現するためにゲーム性を規定する役割分担、その先にあるインセンティブという報酬を設計する経済的な出口をCollectableADでは用意しています。」 一つ目のポイントであるゲーム性。それを規定する役割分担について伊藤さんはこう説明する。 「今回、ゲーム性を持ち込むという意味ではトレカ(トレーディングカードゲーム)の仕組みを用いて、カードを配るディーラーとしての媒体社さん、それを集めるプレーヤーとしての生活者の皆さん、勝敗を決定するホストとしての広告主さんという役割を設定してみました。ですので、ゲーム性というポイントを実現するための一つの手段としてトレカ形式を使っただけで、トレカ形式にこだわったわけではありません(笑)」 続けて、もう一つのポイントであるインセンティブ報酬を設計する経済的な出口についても説明した。 「次に、経済的な出口については、広告主さんが自社の商品やサービスを特典という形で報酬として、広告を通してトレカを集めた生活者の皆さんに対して渡せるようにしました。こうすることで、生活者の皆さんが広告を集めると、インセンティブが得られようにしました。」 トレカを意識させるゲーム性は確かに魅力的である。日本人はコレクター気質の高いユーザーも非常に多く、興味のある広告をトレカのように自分で集めていくという仕組みは画期的だ。そして、伊藤さんもまた、幼少期にカードのように広告を集めていたことがあるという。 「小学生だったとき、ブームを巻き起こしたゲームが有りました。そのゲームの発売前に、新聞に広告が掲載されるんですが、私はこのゲームの新聞広告を切り取って、ファイリングして眺めることで、発売日を待ち遠しくしていました。インターネットが普及する以前は、こうして好きな広告を所有するということをしていたと思うんですよね。そして、今、当時と同じことをブロックチェーンを使うことでオンライン上でも可能にできるのがCollectableADだと思っています。」 後編 : ブロックチェーンは「生活者をエンパワーメントする」技術 HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 後編 - CRYPTO TIMES インタビュー & 編集 : CRYPTO TIMES 新井進悟 テキスト:フジオカ
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2019/04/18『eToroXの取引所ローンチとこれからの事業戦略とは?』eToroX Dron Rosenblum氏へ突撃 独占インタビュー
ソーシャル投資プラットフォーム・eToroの子会社「eToroX」が新たに取引所をオープンしました。 eToroのCEO・Yoni Assia氏は、フランス・パリにて開催された「パリ・ブロックチェーンウィークサミット」で、同日にローンチされたeToroXの取引所に関するプレゼンテーションを行いました。 [caption id="" align="aligncenter" width="449"] eToro CEO Yoni Assia氏[/caption] eToroXが今回ローンチする取引所は、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH/ABC)、ダッシュ(DASH)、XRP(XRP/リップル)の暗号通貨6種を取り扱っています。 法定通貨に関しては、米ドル(USDX)、英ポンド(GBPX)、ユーロ(EURX)、スイスフラン(CHFX)、ニュージーランドドル(NZDX)、オーストラリアドル(AUDX)、カナダドル(CADX)、日本円(JPYX)のステーブルコインが準備されています。 取引ペアは以下の37組となっています。 eToroは昨年付けで登録ユーザー数1000万人、取引ボリューム1兆ドルを記録しています(暗号資産に限らない)。Assia氏は、今後取り扱い通貨やERC-20トークン、ステーブルコインの数をさらに増やしていくとも述べました。 eToroX Dron Rosenblum氏に突撃インタビュー 新プロダクトをローンチしたばかりのeToroXで常務取締役を務めるDoron Rosenblum氏は、ITやビッグデータ、eコマース系の企業で数々の実績を収めてきたプロフェッショナルです。 今回はそんなRosenblum氏にCRYPTO TIMESからのインタビューに応じていただきました。 [caption id="" align="aligncenter" width="453"] eToroX Doron Rosenblum氏 (常務取締役)[/caption] -- 本日はインタビューに応じていただきありがとうございます。まずは、eToroという企業について教えてください。 Doron Rosenblum (以下DR): eToroは12年前に設立された「ソーシャル投資プラットフォーム」です。企業の運営は当初ガレージから始まり、今では700人ほどの従業員を抱えています。オフィスはロンドン、ニューヨーク、上海、南アフリカ、イスラエル、ジブラルタル、デンマーク、オーストラリアなど世界中にあります。 eToroは暗号資産が登場する前から何千種もの金融商品取引サービスを提供してきた実績があり、安全性と商品数共に優れたプラットフォームです。私たちのサービスは「ソーシャルトレーディング」をコアとしており、上級トレーダーを真似できる「コピートレーダー」など他にはない機能が実装されています。 eToroXはeToroの子会社にあたり、ブロックチェーンおよびクリプト系のサービスを運営する役割を担っています。eToroX自体は昨年に設立され、従業員は現在70名ほどいます。 現在eToroXが提供しているプロダクトは2つあります。1つ目はBTC、LTC、ETH、XRPの4銘柄に対応した暗号資産ウォレットです。2つ目が今日(2019年4月16日)発表された取引所になります。 [caption id="" align="aligncenter" width="454"] eToroXが提供するウォレット[/caption] -- eToroの暗号資産取引所を子会社から開設する形ということですね。eToroXが他の暗号資産取引所と異なるところはどのようなところでしょうか? DR: (新参取引所と比べて)まずもっとも大きな点のひとつは、eToroXはサービス運営国の法規制・コンプライアンスを遵守している点です。 また、eToroが築き上げてきたデータセキュリティ技術もユーザーの信頼を勝ち取る要素になると考えています。加えて、私たちeToroXは高水準のカスタマーサポートも徹底しています。「良い評判は良いビジネスにつながる」のが基本ですからね。 さらに、私たちは「トークナイゼーション(資産のトークン化)」に大きな期待を抱いています。法定通貨からコモデティ・セキュリティ、さらにはアートなどのトークン化には大きなメリットを見出しています。将来的には、「お金」にこだわらず資産と資産を直接交換できるようにしていきたいと考えています。「ビットコインを金(ゴールド)で買う」シチュエーションを想像してみてください。そんな世界はワクワクしますよね -- 最近では「法規制・コンプライアンスの遵守」をむやみに掲げるプロジェクトが多数存在します。その中で、eToro/eToroXでは具体的にどんなところを特に拘っているのでしょうか? DR: ライセンス的な観点では、まあ嘘をついているプロジェクトは関連当局を確認すればすぐにわかりますね (笑) 私たちは、各国が設けた消費者保護に関するガイドラインを徹底的に遵守しています。資金洗浄防止策(AML)や本人確認(KYC)はもちろんのこと、消費者の行動パターンなどもきちんと解析しています。 今回ローンチされたステーブルコイン8種に関しても、細かくいうと別の会社が発行母体となっており、eToro自体はその別会社の通貨を上場する形となっています。これは、取引所自体が発行母体になってしまうと、価格操作を行うインセンティブが出てきてしまい、「利害の対立」があるとみなされてしまうからです。 また、匿名通貨の取り扱いなどにも気をつけていますね。例えば、DASHなどはおそらくデポジットは受け付けない形になるかなと考えています。
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2019/04/16Zcash BD Joshが語る『匿名技術が持つ可能性とは?』 Zcash Business Developer Josh Swihart氏へインタビュー
今回、CRYPTO TIMESではZcash(ジーキャッシュ)が日本を訪れた際にインタビューを実施しました。Zcashは「ゼロ知識証明」と呼ばれる技術を用いることで、トランザクションを秘匿することができる通貨です。 しかし、匿名通貨であるという観点から、マネロン・テロ資金へ使われるのではという懸念点もあり、日本では昨年、coincheckより上場が廃止されました。 今回、実施したインタビューではZcashのBusiness DeveloperであるJosh氏にZcashに関して、そして匿名技術がなぜ重要であるかという点に関してを聞きました。 Zcash Business Developer Josh Swihart氏へインタビュー Zcashと匿名通貨の必要性とは? [caption id="attachment_35843" align="aligncenter" width="667"] Neutrinoでインタビューを実施[/caption] -- 本日はインタビューに応じていただきありがとうございます。自己紹介をお願いします。 Josh:私はJoshと申します。Zcashの開発やサポートを行っているデジタル通貨の会社であるElectric Coin Companyにて、マーケティングとビジネス開発のVP(Vice President)として活動しています。本日はよろしくお願いします。 -- こちらこそ、よろしくお願いいたします。最近だと、匿名技術を用いた動きが世界的にも注目されていると思います。特にエンタープライズ向けにやっていくためには匿名というのは非常に重要だと思うのですが、やはりそういうところを意図しているのでしょうか? Josh:我々は、特にエンタープライズ向けにフォーカスをしてやっているというわけではありません。これは、Zcashがプライバシーと匿名性をどのように扱うか、ビジネスがどのように技術を利用していくかという部分の話になります。Zcashはプライバシーを保護することのできる"通貨"であり、これは価値交換の媒体である通貨として機能させることを意図して開発されています。 エンタープライズにフォーカスをしていないと言いましたが、我々は今後より多くの、特に商業におけるエンタープライズにおいて決済手段、或いは価値交換の媒体としてより広く使われるようになるだろうと予測しています。 しかし、このときにトランザクションにはある種の匿名性、プライバシーの保護という点が非常に重要になってきます。 例えばヨーロッパのカフェなどでは、送信者と受信者の両者の情報、送金額、その他のデータが公開されてしまうという点から単純に仮想通貨決済を受け入れることができない状況にあります。こういった状況の下で、顧客のデータ・プライバシーを保護するという観点から、トランザクションにはプライバシーが必要になってくると考えています。 -- 「匿名で通貨として機能させることを意図している」とお話がでましたが、ここではどのような潜在的ユースケースを想定していますか?匿名でなければならない理由などはありますか? Josh:匿名でなければならないユースケースの一つとして、チャリティー(慈善事業)が挙げられます。現在、世界中では多くのチャリティー団体でZcashを用いた方法が採用されています。 最近ではTORブラウザにおける寄付方式の一つとしてもZcashが採用されました。寄付によって集められたお金は、政治的に不安定なエリア(Political Sensitivities)や危険な場所へと届けられることも多く、仮想通貨による寄付もこのようなケースが多くあります。 例えば、ベネズエラなどの地域にBTCで寄付を行う場合、トランザクションが全てサードパーティにも公開されてしまうため、政府がその人物のところに出向き、寄付されたBTCを奪い取ることも十分に可能です。 このとき、Zcashのシールドトランザクションがあれば、トランザクションの詳細を知ることができないので、関係者を身の危険に晒す必要なしに安全に送金を完了させることができます。 マネロンへの対策方法 -- 匿名通貨であるが故の利点ですね。現在、世界ではAMLの強化が進んでいると思います。Zcashだけでなく、その他の匿名通貨において、世界的にマネーロンダリングやダークウェブにおける利用が懸念されており、これらの可能性という点についてはどうお考えですか? Josh:現在、私たちはNYCの金融サービス局など、レギュレーターと密に連携を取れるよう努力しています。また、シンガポールの金融管理局との面会も今後、控えています。 そして、マネーロンダリングなどに関しての技術的な点ですが、Zcashでは匿名トランザクションだけでなく、透明なトランザクションを行うことのできるオプションも用意しています。 公開トランザクションはもちろん、匿名のトランザクションを行った場合でも、第三者のレギュレーターや監査人などの特定の人物に『Viewing Key』と呼ばれるキーを渡すことで、限られた人々のみに対してトランザクションの内容を公開することが可能です。 また、取引所側でz-addressに対応している場合、取引所がViewing Keyを政府などに提供することで、トランザクションの内容を必要に応じて限定的に公開することもできます。因みに我々の調査では、過去にZcashを用いて、北朝鮮などの国へ資金が流れたと言うような事実は現状ありません。 -- 以前、日本国内の取引所から匿名通貨の上場が廃止されたのは、マネーロンダリングなどを気にしてという流れでした。今回、日本に来日されたのは、匿名性の高い技術に関して見直してもらうという旨の交渉なども含まれていたりしますか Josh:今回、我々が日本に来た理由は主に3つです。最初に、私たちはアジアのマーケットは非常に重要だと考えています。日本もそのうちの一つであるということです。 今回、日本とシンガポール、香港を訪問しますが、アジアにはどのようなコミュニティがあるのか、誰が先導して開発をしているのか、などについて実際に足を運んで理解できればという点があります。 次に、法律面で何が起こっているのかというのを把握するためです。coincheck事件の後、日本では匿名通貨が禁止されてしまいました。これがJVCEAによるものなのか、JFSAによるものなのか、或いは何か特定のルールに起因しているものなのか、今後の日本での再上場を交渉する以前にしっかりと知っておく必要があると考えています。信頼を築くことは非常に難しいことですが、メールなどで連絡を取るよりも同じテーブルで、彼らの意見に耳を向け理解しようと努力することが大事だと思っています。 最後に、Zcashに関してのより広いEducationです。Zcashとはどのような通貨なのか、どのような仕組みなのか、ロードマップはどうなっているのか、などに関して世界中のコミュニティと密にエンゲージしていくことも目的の1つとなっています。 Zcashが考える匿名技術の普及に必要なことは -- 現在、匿名の技術は世界的にもかなり注目されていると思っています。今だとMimble Wimbleのような技術を用いた通貨が出てきたりもしていますが、Zcashの匿名技術などを、どのように普及させていくことを考えていますか。また、より一般的に匿名技術が利用されていくためには何が必要だと考えますか。 Josh:弊社としてのフォーカスはZcashにあり、これには研究開発がもちろん含まれています。この研究には、レイヤー1のスケーラビリティをどのようにクリアしていくのかという課題があります。今後、Zk-SNARKsの技術がより使われるものとしていく、という意味では既に我々の暗号学者の一人が『Sonic』と呼ばれるものに取り掛かっているところです。 その他にも、ZK-Proof技術を利用することで、ブロックチェーン全体のParse(解析)を必要としないSuccinct(簡潔な)ブロックチェーンであったり、スマートコントラクトにおいてプライバシーを実現する『zexe』などの開発も進めています。 Zcash自体がもともと、MITなどの有名な大学の暗号学者7人によって創設されたので、これらの技術もすべて暗号学的なものにはなりますが、一般的に利用されていくために様々な開発や研究を日々行っています。 -- 先日見かけた内容の中で、ZcashがProof of WorkからProof of Stake或いはハイブリッド型のアルゴリズムに移行していくことを検討しているとありました。この内容は現在どの様に進んでおり、これらを検討している背景にはどういった理由があるのでしょうか? Josh:Zcashには非常に優秀なエンジニアがたくさんいて、毎日のようにこれらの議論が行われています。エンジニアのなかには、Proof of Workが長期的に見てネットワークをセキュアに保つには不十分であると考える人もいます。主にマイニングの集権化やエネルギー消費などの問題に関してです。 現段階では、まだ移行は決まっていませんが、Proof of WorkとProof of Stakeのハイブリッド型のアルゴリズムを採用する提案などは確かにありました。Proof of Stakeでは通貨の用途に、単純な取引だけでなくステークも加わることでホルダーに保有するインセンティブを付与するため、ガバナンスモデルとしては非常に面白いものとなります。 さらに、ロックアップを行うことでネットワークの強度としてはよりセキュアなものになります。しかし、現在も議論が行われている最中なのでまだなんとも言えませんね。将来的には移行するかもしれない程度に考えてください。 -- ありがとうございます。最後になりますが、2018年はCrypto Winterと世間からも言われていました。しかし、世界的にブロックチェーン技術に関しては再認識されてきていると思っています。Zcashとして、日本だけでなく世界的にも、今後どのような部分に力を入れたり、どういった目的をもって取り組んでいきたいというコメントをいただけますか Josh:現在、私たちがチームとして最も力を入れているのがレイヤー1のスケーラビリティ、そしてウォレットのユーザビリティの改善です。 どのプロジェクトもAdoptionの部分に力を入れていると思いますが、例えば通貨を購入するときから既にKYCのプロセスや口座情報の登録、BTCやETHを購入してウォレットに送金~~といった具合にいたるところにFriction Point(フリクションポイント)が存在します。 Adoptionを加速させるということは、これらの摩擦を極力減らすことだと我々は考えています。私たちではウォレットで簡単にシールドトランザクションを可能にすることなどが、このステップの一つだと考えています。 その他では、Bolt labsと呼ばれるレイヤー2のプライバシーを主に開発しているところへの投資だったり、サイドチェーンを利用したWrapped ZEC (WZEC)のようなもので、ZECをDEXなど様々な場所で広く利用することができるようなものも考えています。これからも我々は今までどおり、我々のできることをやるだけです。 最後に Zcash Business DeveloperであるJosh氏へのインタビューとなりました。現在、世界的に見ても匿名技術というのは非常に注目が集まる技術となっております。 日本においても、エンタープライズ向けにブロックチェーンを導入を行おうとする際に問われることが多いのが匿名化という部分だったりします。 今後、ZcashやZk-Snarkなどの分野でブロックチェーンがどのように変わっていくか、そして日本でも匿名化技術がどう広まっていくかなどにも再度注目していきたいと思います。 (インタビュー/ 編集 : アラタ )
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2019/04/08ブロックチェーンを通し「資本主義や民主主義の新しい実験の場」をどう作るか–Staked 渡辺創太 後編
ブロックチェーン・スタートアップ Stakedの渡辺創太にインタビュー。サンフランシスコのChronicled(クロニクルド)でインターンをし、日本のブロックチェーンコミュニティで活躍する現役大学生 渡辺の視点・価値観に迫る。後編では、現在手がけているStakedの特徴や、今後の展開について聞いた。 ※ 今回のインタビュー記事は、CRYPTO TIMES の新井が協力の下、GRASSHOPPER編集部とインタビューを実施し、株式会社電通様が運営するWEBメディアGRASSHOPPERに掲載されたインタビューの転載となります。 前編 : ブロックチェーンの本質は「国家の最小単位が再定義され互いに経済圏が繋がること」–Staked 渡辺創太 前編 ブロックチェーン・スタートアップ Stakedについて –Stakedの事業内容を教えてください。 渡辺:元々、StakedではDEX(Decentralized EXchange)を作っていました。いわゆる分散型取引所です。DEXを作っている途中、 0x(ゼロエックス)というDEXを作っているプロトコルの世界で3番以内に入るようなチームの 助成金を獲得することができました。(参考) 最初は3カ月で数百万円が出る条件だったのですが、私たちのビジョン・ミッションの問題でそれを断り、Substrate(サブストレート)を用いたブロックチェーン開発にシフトしました。現在はPlasmaというスケーリングソリューションを最初から組み込んだブロックチェーンを、Substrateを用いて作っています。(参考) –Substrateを使った開発は現在、構築途中でしょうか?それとも哲学を固めているフェーズでしょうか。 渡辺:両方です。現在2名体制で作っているのですが、私が思想を固め、もう一人が技術的な検証を進めています。 –Stakedの思想面、哲学を開示できる範囲で教えてください。 渡辺:現在フォーカスしているのは「民主主義と資本主義の先」、どのように既存の世界からアップデートしていくのかという部分です。参考にしているのは「Radical Markets」(著者: Eric A. Posner 、E. Glen Weyl)や「エンデの遺言」という本などです。 「Radical Markets」で一番面白いなと思ったのは、すべての所有物をオークションで決めようという考え方です。例えば商業施設を建てたほうが絶対に儲かる土地に私が一軒家を建てたとします。これは効率的資源配分という文脈では経済損失だと思いますが、現在の仕組みだと評価のしようがないですよね。であれば、土地に限らずすべてのものをオークションで値段をつけて取引をしようという考え方を提唱しているのです。「エンデの遺言」で面白いのは、シルビオ・ゲゼルの減価する通貨というアイデアです。自然のあらゆるものが時間の経過とともに減価するのに対して、お金だけが金利という概念を通して価値が増大していきます。これは極めて非自然的です。 斬新なアイデアであればあるほど、実社会に適用する際のハードルはあがります。でも、ブロックチェーンで形成される新たな経済圏ならば、それを実験できるのではないかと考えています。 技術用語解説「Substrate」とは –先程から話題に出ている、Substrate(サブストレート)について簡単に解説をお願いします。 渡辺:Substrateはブロックチェーン開発のフレームワークです。例えば、Wordpressがあるからホームページが簡単に作れるように、Substrateがあればブロックチェーンを作れます。 Substrateは、Substrate Core(サブストレート・コア)とSubstrate Runtime Module Library(SRML)の2つに分かれ、Substrate Coreはベーシックなシステムを提供していて、そこからSRMLでカスタマイズすることができます。このカスタマイズ性がSubstrateの強みで、自分の思想を組み込んだブロックチェーンが可能になります。 私が過去にDEXを作っていたときは、Ethereum(イーサリアム)の上にDEXを作っていました。このとき、Ethereumのプロトコル自体を変えることはできません。仮に変えようと思ったらみんなのコンセンサスを取ってアップデートしなければいけません。そして、アップデートするにはハードフォーク(システムの分岐・分裂)が起こるので、to Bの企業からしたら使いにくいんです。私は、最終的にto Government (to G)まで目指しているのですが「じゃあ明日、ハードフォークします!」みたいなことやられたら、to Gだと対応できないですよね。 ところが、これがSubstrateだったら、国でも企業でも自分の思想を埋め込める上にハードフォークなしでアップデートでき、パブリックブロックチェーンもコンソーシアムブロックチェーンも、プライベートブロックチェーンも全部選んで使えます。 かつPolkadot(ポルカドット)というプロジェクトを使えば流動性とセキュリティのシェアが可能になり、ブロックチェーンを繋げることができます。パブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンを繋げたりもできるんです。 私が今やりたいのは、この仕組みを使ってブロックチェーンを作り、繋げ、自分の価値観とか資本主義や民主主義の新しい実験の場とすることです。 –理念・方針を生かしたオリジナルのブロックチェーンを作ることができるとなると、どのようなインパクトがあるのでしょうか? 渡辺:誰でもブロックチェーンを作れるようになるという点で、ブロックチェーンがより民主化されると思います。また、今までの開発はブロックチェーンありきのものでした。つまり、Ethereumだったらトランザクションが捌けないのでEOSやTRONという他のプラットフォームやオフチェーン処理を行うといったように、ブロックチェーンにアイデアを合わせなければいけませんでした。これが、将来的にはユースケースに合わせてブロックチェーンをカスタマイズできるようになると思います。 これは一種のパラダイムシフトだと考えています。既存のブロックチェーンプラットフォームだとなかなかニーズを満たすことができなかった企業や政府がもっとブロックチェーンを使いやすくなります。 –Substrateがto G(政府)に導入されると国民の生活はどのように良くなると考えますか? 渡辺:一般消費者が気づかないように提供できれば理想ですね。今は一種のバズワードとして、ブロックチェーンが使われている事自体に注目が集まっていますが、本来はインフラのテクノロジー。意識されず自然と使っているくらいがちょうどいいと思うんです。私たちは日頃の生活でインターネットのHTTPとかTCP/IPを毎回意識しないですよね。それと一緒だと思います。 導入されると、システムとしてかなり効率化されます。前職のサンフランシスコのChronicledではサプライチェーンの最適化を行っていたのですが、医療の部品を生産して末端に届くまでにステークホルダーA,B,C,D,E…が存在し、それぞれデータベースは全部別なんですよね。だから最後のEが不良品に気付いたとき、EはDに、DはCに聞かなければなりません。 もしデータベースが統合されていたらどうでしょう。Eの人はどこからこの部品が来たかわかるので確認がすぐ取れるなど、トレーサビリティーの部分で変化が生じます。この裏側の変化に一般消費者が気付くことはないかもしれませんが。 –日本は実証実験だけでその先に進めていないと言われていますが、日本がブロックチェーンを採用していく際にどういう心構えが必要だと思いますか? 渡辺:まず長期的な視点が大切です。例えば1、2年でリターンを回収しようと考えるのは無理で、5年など長期的なスパンを見てやるのがいいと思います。そして、これは自分に対してのプレッシャーにもしているのですが、プロトコルのレイヤーで戦うスタートアップをもっと増やすべきです。アプリケーションレイヤーはまだ早いと思っています。1年トライして収益を生めないから撤退するということが多く、それでは早すぎます。 これはまだ絵空事ですが、一度、私たちがプロトコルで勝負して成功し、世界で戦えるということを日本に示したいと考えています。例えばアメリカとかだと、1回Coinbaseの人たちが成功しました。そして今その初期メンバーが2回目のスタートアップをやろうとしています。いわゆるCoinbase Mafiaですよね。でも、そのエコシステムが日本に今存在しないと思っているので、それを体現しようと考えています。 –今後の展開を教えてください。 渡辺:今から約1年間は技術の部分を掘り進めます。人員も増やしていきたいですね。そして、私は理念をしっかり固めていきたいと考えています。資本主義と民主主義の先に何があるのか、まだぼんやりとしか見えていません。 今、慶應義塾大学の経済学部にいるので、ブロックチェーン×経済学者として有名な坂井豊貴教授ともお話しさせていただきながら、経済学的に効率的な社会を目指したいと思っています。そして、政治学者や経済学者にも、もっと会っていきたい。正直、学者の方からしたら私たちの話していることってとても浅いと思うんです。だからこそ、知見をお借りして自分の理解も深め、哲学面を固めていきたいです。 あと、もちろんブロックチェーン・テクノロジーが一番大事なのは今後も変わらないのですが、テクノロジーの時代はそろそろ去りつつあるなと感じています。これからはもっと経済や政治、法律の話だと思うんです。学者の方たちを巻き込んでいかないと、業界が発展しないなと感じています。今までが、とてもテクノロジー・ドリブンだったので、そういうコラボレーションができたら私も嬉しいですし、業界にも必要だと思います。 「世の中を変えたいのであれば、既存のモデルを時代遅れにする新しいモデルを打ち立てよ」–これは宇宙船地球号という概念を作り上げたバックミンスター・フラーの言葉です。いろいろな人とコラボレーションしながら、新しいモデルが作れたらいいと思います。 前編:ブロックチェーンの本質は「国家の最小単位が再定義され互いに経済圏が繋がること」 Interview & Text:西村真里子 協力:CRYPTO TIMES 新井進悟 転載元記事 :ブロックチェーンを通し「資本主義や民主主義の新しい実験の場」をどう作るか–Staked 渡辺創太 後編 - GRASSHOPPER