【Tokyo DOT DAY】PolkadotはWeb3.0が社会浸透するためのロジカルステップだ – Web3 Foundation Jack Platt氏インタビュー –
Shota
Web3.0の未来を実現させようとしているWeb3 Foundationが2019年4月に日本を訪れ、TOKYO DOT DAYと称したイベントを開催しました。
Web3 FoundationではPolkadotなど分散型のウェブにフォーカスした開発や、その他のプロジェクトへの出資を行っています。また、Polkadotは最近、日本の界隈でも注目を集めるプロジェクトの一つで、ブロックチェーン同士のインターオペラビリティを実現します。
今回の記事では、Web3 FoundationのコミュニケーションディレクターであるJack氏にインタビューを実施した内容になります。
本インタビューでは、Web3 FoundationとPolkadotに関して、そしてPolkadot開発のフレームワークであるSubstrate、今後、PolkadotやWeb3 Foundationが目指していくものに関して、彼らがどういうアプローチを取っていくかなどがわかるインタビューとなっています。
目次
Web3 FoundationとPolkadotに関して
Web3 Foundation
Web3 FoundationはEthereum Foundationの共同創設者であるGavin Wood氏によって創設され、Web3.0の実現を目指しています。
最近はWeb3.0という言葉を聞く機会が増えてきたのではないでしょうか?日本ではALISなどのプロジェクトがWeb3.0の実現に向けて動いています。
Web3 Foundationのビジョンには、サーバーのないインターネット、分散型ウェブの実現が掲げられており、ブロックチェーンの開発や周辺のプロジェクトへの出資を行っています。
PolkadotはそんなWeb3 Foundationにより開発が進められるプロジェクトの一つです。
Polkadot
PolkadotはWeb3 Foundationによって設立され、Substrateと呼ばれるオープンソースのフレームワークで開発された最初のプロジェクトです。
ブロックチェーン間のコミュニケーションに特化しており、これまで問題とされてきたインターオペラビリティを解決していきます。
メインネットのローンチも年内に控えており、Polkadotが持つ大きな可能性からコミュニティの注目を集めています。Polkadotに関しては近日中に記事をCRYPTO TIMESでも公開いたします。
Jack Platts氏 – Web3 Foundation Communication Director
今回のインタビューに応じてくれたのはWeb3 FoundationのコミュニケーションディレクターであるJack Platts氏です。
Jack氏はPolkadotプロトコルの立ち上げを行い、Web3 Techスタック内のすべてのプロトコルの調整を行っています。
Web3 Foundation Jack氏にインタビュー
Polkadotの特徴とその魅力
— 自己紹介とWeb 3 Foundationの紹介をお願いいたします。
Jack:私の名前はJack Plattsです。 Web3 FoundationのDirector of Communicationです。よろしくお願いします。
Web3 Foundationはユーザー全員が私たちのアイデンティティやお金をコントロールするというビジョンを持っており、それを届けるために設立されました。これを取り戻してこのビジョンを実現させるために私たちは 多くのステップを踏み、また多くの技術を開発していかなければなりません。そして、その中でも最も注目しているのがPolkadotになります。
Polkadotは非常にワクワクしますし、一方でとても重要な技術の一つです。これはすべての分散型のシステムを繋ぐネットワーキングプロトコルで、ブロックチェーンはもちろんその他の分散型のシステムをすべて繋ぐことを可能にしますが、セキュリティは一つのグローバルステートをシェアする形を取ります。
一つのグローバルステートでは、例えば誰が何を望むか、誰が誰であるか、このデータは誰のものかといったことに私たち全員が同意することができ、これはすべて数学的に検証可能な状態にあります。Polkadotは2017年10月に、クラウドセールを実施しましたが、全体の約20%のトークンはハッカソンやもしかしたらエアドロップ、別のパブリックセールなどの形で再び配布する予定になっています。
これはプロダクトがまだ出ていない状態で行われることになりますが、メインネットは今年の下旬、おそらく年末までにローンチされていきます。もちろんローンチにも大きく期待していますが、それ以上に私たちはWeb3 Foundationで多くの素晴らしい開発者やパートナーを抱えていることは非常に光栄だと思います。
これまで、Parity TechnologiesやChainSafe他2つのチームにGrantプログラムなどを通した出資を行っています。基本的にはPolkadotの開発に対して出資を行っていますが、その他にもEthereumの開発やメッセージングプロトコル、ネットワーキングプロトコルにも別の形で出資していたりします。
今年の8月にはWeb3 Summitを主催しますが、ここではTezosやDifinity, Ethereum, Zcash, Polkadot, Filecoinなどの多くのブロックチェーンが集まり、これが相互に繋がります。なぜかと言うと、PolkadotではEthereumよりEdgewareなどといったように他のブロックチェーンよりこのブロックチェーンを、といったことは一切気にする必要がないからです。
— インターオペラビリティを実現するプロジェクトは直近でも多く出てきていますね。Cosmosもその一つだと思います。そんな中で、Polkadotの特徴はどういったところにあると思いますか?どちらが優れているかという文脈ではなく、Polkadotでは何を実現することができますか?
Jack:最近のツイートでも少し話したのですが、Polkadotと競合といわれるCosmosの比較を行いました。その中でもやはりPolkadotは今最も魅力的な技術であると思っています。まず、他のプロジェクトが2021年や2022年に実現しようとしていることを今年の末までにプロダクトとしてローンチするという点は非常に大きいです。
その他にも、全員がセキュリティを共有する『Shared Global State(グローバルステート)』のコンセプト、そしてプロジェクトの背後にいつチームも非常に素晴らしいと考えています。Ethereum Virtual Machine (EVM)を開発し、Ethereum Foundationの最初のプロトコルエンジニア兼CTOであるGavin Wood氏や、その他の人々もこれまで予定通りにプロダクトをリリースしてきたという実績も評価することができます。
Parity technologiesやChainSafeは、Polkadotの開発を行う一方でETH 2.0 / Beacon Chainの開発も行っています。彼らはこの分散技術界隈でも多くの経験と実績を持ち、Polkadotが予定通りにリリースされることも十分に期待ができるでしょう。そして、これはコミュニティが急速に成長している理由の一つでもあると考えています。
— Polkadotは一つのグローバルステート、セキュリティを共有するというコンセプトだと思いますが、異なる様々なタイプのブロックチェーンはどのようにつながっていくのでしょうか?DOTはどのように使われていくのでしょうか?
Jack:基本的にはブリッジを通じて行っていきます。ブロックチェーンはそれぞれ異なるセキュリティを持っていますが、これらはParachain Bridgeを利用することで、すべて相互に接続することができます。例えばEthereum BridgeやBitcoin Bridgeなどはファイナリティというものがないため、いくつかのコンファメーションを待つ必要がありますね。100ブロックかもしれないですし50ブロックかもしれないですが、これもブリッジのAuthorityによって決定されます。
Bridge AuthorityというのはDOTトークンとBTCを両方保有している両チェーンの仲介人のような役割を果たし、そのあたりのルールも彼らによって決定されていきます。
Polkadotは当初Relay Chainとして、複数のParachainと共にローンチされますが、これは50、200と徐々にスケールしていきます。Parachainになるためには一定量DOTをステークしておく必要があります。これはリースのようなもので、ステークを行うことで例えば2年間、Parachainのスロットを利用することができるようになります。そして2年後にはステークが返却されるため、これはパーミッションレスなマーケットベースのシステムであると言えるでしょう。
Ethereumであれば例えば、スマートコントラクトはデプロイにお金がかかりますが、その後はずっと無料です。しかしこれが、Ethereumでフルノードを立てるのを必要以上に高価にしている理由の一つになっています。ブロックチェーンにおいて高価なのはデプロイではなく維持費用です。
すべてのサーバーが過去のすべてのデータを持つ構造、例えば国の例を挙げるのであれば、それぞれのParachainは一つの国の会社なようなものです。Ethereumでは会社を立てるのにお金がかかっていましたが、税金はかかりません。Polkadotでは、DOTのステーキングは必要ですが、共有インフラの利用料を税金のような形で徴収します。道路や水、飛行場を使うその代わりに税金を支払うのです。
急速に拡大するPolkadotのエコシステム
— 去年くらいからPolkadotの名前は日本でもだいぶ知られてきている用に感じています。今も話にでてきたように、最近多くの開発者がPolkadotに携わっていて、エコシステムが大きく拡大してきていると感じています。他の様々なプロジェクトの提携などで今後も拡大を続けていくと思いますが、今後どのような姿を予見していますか?
Jack:その通りです。コミュニティは急速に拡大しており、Polkadot上に開発を行うプロジェクトの数も増え続けています。私は、まさにここで見ているコミュニティの動きそのものがPolkadotの重要性や開発が行われるプロジェクトの野心を顕著に表していると思っています。
プロジェクトも他のプラットフォームではなく、フォークが可能でスケーラブル・セキュアなアプリケーションを作り、相互にコミュニケーションを行うことができます。例えばウェブサイトを作る際、下位のレベルのネットワーキングなどの細かいことを設定するのは、開発者としてもユーザーとしても非常に面倒です。
Polkadotというプラットフォームを利用することで、これらの細かい部分を考えて開発を行う必要がなくなるため、プロジェクトは一つのユニークな部分に集中することができるようになります。個人的に、こういった特徴により多くのプロジェクトがPolkadotに移ってくるのではないかと思っています。
ブロックチェーン以外の分野における一般的なビジネスにおいても同じことで、80~90%の仕組みはすべて同じだと言えるでしょう。例えば法的な契約、銀行口座など、ビジネスにおける骨格はすべて同じです。
ブロックチェーンにおいても、ネットワーキングや合意形成、ユーザーインターフェースなどは通常同じ仕組みが採用されていることが多いですが、現状この仕組みはありません。Polkadotはこれを可能するという点で、大きく拡大していくと考えています。
PolkadotとSubstrate
–PolkadotとSubstrateはどのように相互機能していくのか、Substrateの存在で何がどのように変わっていきますか?
Jack:私たちは、今後より重要なブロックチェーンというものが増えていくだろう、将来的にこれまで以上に増えていくだろうと考えています。イノベーションというものは私たちの後ろではなく先にあります。ブロックチェーンの開発フレームワークであるSubstrateを開発したのはそれが理由で、Substrateがあれば分散型のシステムでブロックチェーンを開発することがこれまで以上に非常に容易なものとなります。
これまでブロックチェーンを開発するとなると数週間から一か月はかかっていたと思いますが、Gavin WoodはWeb3 Summitでブロックチェーンを30分でコードしました。これはモジュールがあることで可能となるのですが、モジュールでは好きな合意形成モデルやガバナンス、トークンの有無などをドラッグアンドドロップするように開発することができます。先ほども話した通り、ブロックチェーンのコードは大部分が同じ構造になっているので、Substrateは簡単にカスタマイズしていくことを可能にします。
Parity TechnologiesがSubstrateを開発したのですが、彼らはブロックチェーンに関しての豊富な知識や経験を持っています。例えばEthereumやBitcoin、Zcash、Filecoin、Polkadotのノードなどの開発は彼らがやってきました。
そこで多くのコードが余分であることに彼らは気付きました。そのときに、SDKやツールキットを準備して、ブロックチェーンを簡単に開発できるフレームワークを作ろうという話になりました。
PolkadotはSubstrateのフレームワークを利用して開発された最初のブロックチェーンで、Polkadotの開発で利用されたモジュールなどは誰もが利用することができる状態になっています。また、これはオープンソースのライブラリなので、誰もがモジュールを追加することができる上、自身のブロックチェーンを即座に作ることもできます。
Substrateはブロックチェーンの開発を行う新しい方法の一つです。そしてこれが新たなアイデアを試す場になりそこに息が吹き込まれ、これが加速することで、Web3 Foundationのビジョンの実現も加速させることができるだろうと信じています。
Web3の思想と日本に期待すること
— 現状だとweb3の思想というのは世の中にはまだ浸透していません。今後、世界はWeb3.oが浸透していくことで、どのように変わっていくと思いますか?そして、何がキッカケで浸透していくと思いますか?
Jack:個人的に、Polkadotが次のロジカルなステップになるだろうと考えています。よくブロックチェーンやWeb3.0というものがこれまで以上にセキュアでスケーラブルなチェーンといった話になりますが、Polkadotはこれらを既にクリアしてその先にいます。
今年の末にプロダクトを届けることで、Polkadotはインフラ向けのインフラとなることができると思います。PolkadotにはParachainが存在しますが、ここにはステーブルコインや分散型取引所(DEX)、スマートコントラクトプラットフォーム、オラクルなどすべてが含まれます。これはすべて相互にコミュニケーションが可能で、これにより開発者はこれまでにない高いレベルのアプリケーションを開発することができるようになります。もちろん、セキュアでスケーラブル、Gasを気にせずアプリを使いたいだけのユーザーも対象にできます。
そしてアプリケーション固有のブロックチェーンをPolkadot上で開発することで、ユーザーエクスペリエンス、ガバナンスなどをさらに広くコントロールすることもできます。
Polkadotはそういった意味で、ブロックチェーン固有の問題ではなく別のことにフォーカスできるようになります。これまで過去に開発されたブロックチェーンの制約によりアプリケーションの機能が制約されていたなどの問題も、Polkadotなら彼ら自身がそれを決定するようになります。
— 日本においても最近ではsubstrateを利用したプロダクトや開発が進んできています。Web3 Foundationが日本に期待することを教えてください。
Jack:日本は素晴らしいコミュニティを持っていると思っています。私たちを歓迎してくれますし、とても熱意があり知識も豊富です。
今回、日本に来たのは私にとって初めてでしたが、Polkadotに対する興味や日本のプロジェクトを見ていて、日本に対しての時間ももっと多く、割いていこうと思いました。
ブロックチェーンという分野においては、エンタープライズで利用されるケースが増えていくのではないかと考えています。これは、日本の多くの企業がとてもテックヘビーでありブロックチェーンのような新しい技術を採用していく企業を今後よく目にするようになるのではないかと期待しています。
Permissionedなネットワークを使いながらもパーミッションレスなパブリックネットワークにはアクセスしたいという企業には、Polkadotは最適解です。もし彼らがブロックチェーンを開発したいというのであれば、Substrateが今度は最適解になります。
日本初のZerochainのようなプロジェクトにも大きく期待していますが、日本という国で見たとき、エンタープライズから広がっていくのではないかと感じています。
記事書き起こし : Shota
インタビュー、記事編集 : 新井 (アラタ)