【Crypto 2020イベントレポート】Crypto for the People – Encrypted Systems Lab

【Crypto 2020イベントレポート】Crypto for the People – Encrypted Systems Lab

8月に開催されたCrypto 2020にて、Encrypted Systems Labのコンピューターサイエンティストによる招待公演がありました。

登壇者

Seny Kamara

Brown Universityでコンピューターサイエンスを教える准教授で、同大学のEncrypted System Labに所属しています。前職ではMicrosoft Reserchのリサーチャーとしても活動しており、現在はAroki Systemのチーフサイエンティストを努めています。現実世界のプライバシーや安全性などの課題に基づいた暗号学の研究を行っています。

Crypto for the People

以下、講演の内容になります。

Kamara氏は今年話題になった警官による黒人差別問題を紹介し、暗号学を黒人、移民、暗号学者、部外者の4観点から考察しました。

現在、アカデミアの研究は企業にとって有用な技術を生み出すことを目的としていますが、Kamara氏は社会のために研究を行うべきであると主張します。

サイファーパンクと呼ばれる、暗号学を用いて社会を改革し個人の自由を確率しようとする動きがありますが、それは女性や黒人、子供や移民は運動の対象になっていません。そこで、そういったMarginalized People(保護から取り残された人)のために暗号研究を行うことが重要です。

人々のための暗号学の例としてアフリカのケースが紹介されました。ブラックナショナリズムの団体である(アフリカ民族会議)African National Congressが1960年に禁止されて移行、活動がアフリカ国外に広がりました。

禁止に伴って安全なコミュニケーションが必須になり、80年代にコミュニケーションシステムとして開発されたのがVulaです。Vulaは開発された背景からユーザー同士が同時にオンラインでなくても利用でき、使用が隠蔽され、長距離でも使えるパブリックなコミュニケーションという特徴がありました。

コンピューターの使用が怪しまれ、モバイルネットワークもなかった当時、Vulaではユーザーがコンピューターにメッセージを入力し、暗号化したデータを音に変える機械を使い、テープレコーダーに録音します。公衆電話を用いて受信者当ての録音サービスに音として伝えた後、逆の手順でメッセージを復元することができます。

Kamara氏はVulaの例を電話機やテープレコーダーを用いて現実世界に応用された暗号技術であるとして高く評価しています。

「人々のための暗号学は既存の研究や製品を促進するために保護から取り残された人を利用するのでなく、保護から取り残された人が経験した問題を解決するために専門家と相談し新たな研究や技術を生み出すことである」と自身の考えを示しています。

最後に

Crypto 2020はInternational Association for Cryptologic Research (IACR)により運営される暗号資産とブロックチェーンに関するカンファレンスです。

今回の公演では社会的に不遇な人々のために暗号技術が使われた例と、社会のための暗号学というKamara氏の考えを知ることができました。技術と研究のあり方という哲学的でもある話題でとても興味深い内容でした。

Crypto 2020の招待公演「Our Models and Us」のレポートもこちらからご覧になれます。

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