FTXが申請した”連邦破産法/チャプター11″とは?過去事例からFTXの今後も考察

2022/11/15・

Henry

FTXが申請した”連邦破産法/チャプター11″とは?過去事例からFTXの今後も考察

2022年11月11日にFTXグループ会社が米国連邦破産法第11条 (以下、チャプター11) の手続きを開始したことを正式発表しました。

本記事では、米国の連邦破産法の概要、チャプター11及びそれに関連する用語などをFTXの事例を交えて解説していきます。

*当該記事は、該当の法律の全体像を専門家以外の方にもわかりやすく知っていただくため、一部の詳細を省略しています。より一層、理解を深めたい場合は、参考LINKを参照ください。

記事に出てくる専門用語

  • 「債権者」- 今回の場合、FTXに対して金銭の支払い要求が出来る人を指します。例. 出金できなくなったユーザー、FTXに投資していた投資家など
  • 「債務者」- 今回のケースではFTXです。
  • 「連邦破産法 – 米国には、合衆国憲法、連邦法、州憲法、州法があります。連邦破産法は、合衆国憲法により権限を与えれれた法律の中の一つです。
  • 「破産」- “清算”と捉え間違えられる事が多い言葉ですが、広義の意味での債務整理の”手段”です。
  • 「倒産」- 資金繰りが出来なくなり、会社を経営することが存続出来なることを意味します。
  • 「清算」- 一般的に”破産”と聞いて、イメージする内容が”清算”です。全てを綺麗サッパリ精算して会社を終わらせる手続きを意味し、”破産”手続きの一つです。
  • 「自己破産 / 強制破産」- この申立がされた場合、債権者の債権回収行為が出来なくなります。
  • 「救済命令」- 破産手続きを開始するという裁判所からの合図です。
  • 「破産管財人 」- 弁護士、会計士などが選ばれることが多く、資産の調査、売却、各種書類の審査など、様々なことを行う権限を有します。
  • 「破産財団」- 債務者の資産の集合体です。例 ) 現金、保有暗号資産、保有建築物など。
  • 「免除財産」- 破産財団に含まれない債務者の財産です。例えば、日常生活に必要な住宅などは、一定額の持ち分を免除されることが認めれれています。
  • 「破産裁判所」- 破産手続きを専門に管轄する裁判所で、この連邦破産裁判所米国の各地方にあります。

そもそも破産手続きとは?

そもそも”破産手続き”とは一体どのような内容を指すのでしょうか。

破産続きを簡略化して説明していきます。

登場人物

・取引所 – A社 “債務者”
・弁護士 – T氏 “破産管財人”
・投資家 – X氏 “債権者”
・取引所利用者 – Z氏 “債権者”

ある、取引所A社が50億円の負債を抱えて破産を破産裁判所に申し立てたとします。

その時の資本部分は、20億円ありました。

貸借対照表の”貸し方”側は合計70億円です。

資産の”借り方”側は、申立の段階では財務諸表上70億円ありました。

*一部、専門用語を使用しているため、難しいと感じた方は簡単に「取引所A社が借金50億円、蓄積されてきた利益などを20億円もっており、その70億円で様々な資産を保有している」と認識ください。

破産申立後、救済命令が出されて、手続きが開始。

債権者集会で、破産管財人がT氏になりました。

T氏が、専門家たちを雇い改めて資産を評価した結果、70億円と計上されていた資産は実のところ30億円でした。

この30億円は、破産法に規定に則り、債権者X氏とZ氏に分配されます。

そして、残った40億円の債務 (借金)は、その返済義務を免れます。

これが、破産手続きの大枠の流れです。

*実際は、登場人物も多く、一層複雑になっています。

米国の連邦破産法とは?

アメリカでの破産手続きは、連邦破産法(Bankruptcy code)に基づいて行われます。

この法律の主な目的は、

  1. 強引な取り立てからの債務者の保護
  2. 一部の債権者が他の債権者よりも優位な立場を得ることの防止 = 優先的な債権の回収など
  3. 既存の事業関係の維持

などがあり、その包括的な目的は、債務者が”再出発”できるようにするためです。

連邦破産法は、9つのチャプターから構成され、その内チャプター1,3,5は全ての手続きに適用されます。

今回、FTXが申請したチャプター11には”事業の更生 (reorganization )”を目的とすることが規定されています。

上記を見ると、”消費者保護”ではなく、今回の主要登場人物であるサム・バンクマンフリード氏を優位的に守る法律かと思う方も多いかもしれませんが、2005年に”債務者に対して優しすぎる”という批判が当該法律に対して出たため、破産の濫用防止、そして消費者保護の観点から1978年以来27年ぶりにその申請条件や審査が大幅に改正されました。

そのため、連邦破産法は一方的に今回の債務者であるFTX側を守るための法律ではないということを認識ください。

チャプター11とは?=事業の再建/存続を目的に規定された法律

FTXが今回申請した連邦破産法のチャプター11とは、資本構成を新しくすることで債務者 (FTX) を更正し、その事業を再建させ存続させることを目的に規定された法律です。

一般的な事業会社では、チャプター11を最初に申請することが多く、チャプター7への切り替えも当事者たちにとって最大限の利益を考慮した上で可能です。

*日本の「民事再生法」に相当する法律で、事業再建の国内事例だと日本航空株式会社 ( JAL ) が挙げられます。

*チャプター7 とは、「破産型」の手続きであり、そのゴールは「事業再建」ではなく「清算」です。チャプター11を申請していても、その手続に失敗した場合は、チャプター7へと切り替わります。

*日本と異なり、米国ではチャプター7や11が申請されると、債権者からの取り立て行為が自動的に禁止されます。金融関連の漫画で有名な「ナニワ金融道」では、債権者が債務者の自宅に取り立てに行くシーンが頻繁に見られますが、それらの取り立て行為をして一部の債権者だけが債権の回収に行くことは出来ません

チャプター11の特徴の一つは債務者 (FTX) が”占有継続債務者”となることです。そうすることで、債務者 (FTX) は破産続き開始後も、自己の財産を引き続き占有することができ、事業自体の継続が可能となります。また、”破産管財人”が必ず専任するされるわけではないのが特徴の一つです。

チャプター11の流れ

1、更正するための計画の提出
2、破産裁判所による計画の確認
3、計画の実行

チャプター11の主な流れを説明していきます。

1. 更正するための計画の提出

  • 債務者 (FTX)は”救済命令”が与えられてから120以内に、裁判所に更正計画を提出する独占権を有します。改正破産法では、この期間を最大で18ヶ月まで延長可能と規定されています。
  • 先の救済命令が与えられ後、債務者 (FTX) は当該計画について180日以内に債務者の承認を得る権利を獲得します。

*もし、当該更正計画が提出されなかった場合、利害関係者により救済命令が与えられてから20ヶ月までの間は当該計画の提案が可能です。

*当該計画書の中には、債務者 (FTX) の新たな財務構造が説明され、債権者と株主 (FTXの投資家、社員、出金できなくなったユーザー)が計画を判断するための十分な情報の開示の提供が求められます。

2. 破産裁判所による計画の確認

  • 債権者がチャプター 7の清算破産に基づいて受け取る金額と同等な金額であり、当該計画が債権者にとって最大の利益になっていること。
  • 現実的に実行可能な内容であること。
  • 債権者が計画を認めること。

上記が裁判所が承認する際の条件です。

3. 計画の実行

  • 当該計画が承認されれば、債務者はその計画に従って債務を弁済していきます。更生計画によっては、債務額が減少されたり、分割での支払いが認められるケースが多いです。

過去にチャプター11の申請手続きを行った大企業

過去にチャプター11の申請手続きを行った大企業はFTXだけではありません。

私達、日本人が耳にしたことある会社だと”ユナイテッド航空”と”リーマン・ブラザーズ”の2社ではないでしょうか。

ユナイテッド航空以外でも、デルタ航空などアメリカの名門航空会社は過去に何社もチャプター11を申請してきました。ユナイテッド航空の場合、2002年12月に申請。その後、再上場を果たしています。

一方で、後者のリーマン・ブラザーズはと言うと、2008年に申請後、2016年まで裁判が続き、現在も復活は果たせておりません。

「事業再建による存続」をゴールとした法律ではありますが、その目的達成までの道程は年単位と長く、また事業の再建が保証されているものでは無いということが過去の事例からも分かります。

FTXのこれから

FTXは、これからどのような道をたどっていくのでしょうか。

過去の事例などを見ていくと、事業再建の重要な要素として”社会的貢献価値”があるのかという部分が一つ。そして金融事業は、その他事業会社と異なり顧客との”信頼” や “評判 = reputation risk “が、事業再建の鍵となると筆者は考えています。

航空会社の再建は、日本でもJALが該当します。JALや米国のユナイテッド航空などは、人の移動を支える”インフラ”としての側面による社会貢献価値が大きく、それが多くの人を巻き込み事業再建に繋がった可能性が非常に高いです。

一方で、リーマン・ブラザーズなどは、本来であれば住宅ローンの審査が通らない人々にローンを組ませ、その信用性の低い証券を格付け機関が強引に優良認定させるなどして、ごく一部の人間への利益のために世界的な金融危機を引き起こし多くの損害を生みました。

前者の航空会社と異なり、その一連の行為は世界中の多くの人々の信頼を裏切る行為へと繋がり、社会貢献価値の低い会社となり信頼が落ちました。その結果、リーマン・ブラザーズに対して救いの手は差し伸べられませんでした。

では、FTXの場合は、どうでしょうか。

これについては、これからの債権者や支援者たちが決めるところであり、現時点では何も言えません。

本件に関して、Crypto Timesでは業界内の「重要性」の高い事件として引き続き、その動向を追っていきます。

– 参考リンク –

・https://www.uscourts.gov/services-forms/bankruptcy/bankruptcy-basics/chapter-11-bankruptcy-basics
・https://uscode.house.gov/view.xhtml?path=/prelim@title11/chapter11&edition=prelim

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