GoodFiパネルディスカッション「DeFiは2025年までにユーザー1億人を達成できるか?」【前編】
Yuya
GoodFiは、「2025年までにユーザー1億人」を目指してDeFiに関する様々な教育情報やイベントを提供している非営利団体です。
こちらの記事では、GoodFiが主催で業界の第一線で活躍する海外ゲスト5名を招き、DeFi普及への最初の一歩について議論してもらうパネルディスカッションイベントの内容を紹介します。
司会はMaker DAOのJocelyn Chang氏、パネルはRadixのCEO Piers Ridyard氏、Sushiのマーケティング担当Amanda氏、Terraform LabsのSJ Park氏、そしてBancorのMark Richardson氏の計5名となっています。
「DeFiは2025年までにユーザー1億人を達成できるか?」ディスカッション前編
DeFiが持つ強みは「競争力」
―DeFiはどのような分野に変革をもたらしていると思いますか?
Richardson: 今のDeFiを見ていると、90年代にIMG Directがオンライン預金というサービスをリリースしたころを思い出します。
当時の人々は「小切手帳も、キャッシュカードも、支店もない。窓口で現金を手渡してくれる人もいない。これは何なんだ?詐欺なのか?」となっていました。
これはまさに今のDeFiの成長過程での経験そのものだと思います。
今、世界中の金利が以上に低く、なかにはマイナス金利のところもあります。
貯金がある場合、一番良くないのは銀行に預けておくことです。保有する資本の一部を銀行に引き渡すことになるわけですから。
これがDeFiがまず最初に変革をもたらす分野です。
DeFiは「様々な場所に存在する無駄な仲介人を取り除く」というブロックチェーン・ムーブメントの意志そのものに直結します。
金融業界には、多額のマージン・報酬を受け取るブローカーや決算報告書の作成者など、エコノミーに無駄を発生させる仲介役がたくさんあります。
こういったところもDeFiが狙っているところですね。
Ridyard: DeFiでは常に驚異的な競争が起こっています。
競争の激化すれば消費者によりよい結果をもたらすことはよく知られていますが、トラディショナルな金融業界が規制の影響もありどれほど競争力を失っているのかはあまり知られていません。
DeFi界隈は常にシームレスな競争が行われているため、最も良いアイデアが市場の資本を獲得しイノベーションを起こすには最適の環境だと思います。
―トラディショナルな金融機関は実際にDeFiを取り入れる準備ができていると思いますか?
Richardson: 規制に準拠しているプロジェクトもあれば、そうでないものもあるので、その質問に対する答えは「当面はプロジェクトによる」なのではないかと思います。
例えば、私たちBancorははじめからスイス政府と密接な関係にある非営利団体と共同で作られたので、国内はもちろん米国でのコンプライアンスにも準拠できています。
実際、スイスの銀行の顧客口座はユーロ等に並んでBNTにも対応していて、オンラインバンキングを通して購入・取引までできるようになっています。
また、スイスのプライベートバンクは顧客のためにより良い利回りを探そうとする結果、BancorやSushiSwapなどを含むパイププロトコルを利用しDeFiに参加することを強いられています。
とはいえ、DeFiが主流になる準備はまだ整っていないと思います。
この先、影響力の強いDeFiプロトコルが規制準拠にフォーカスした、トラディショナルな機関のためだけに改変された特別なバージョンのプロトコルを出すことになっても、驚くべきことではありません。
また、銀行はただ暗号資産の売買をしたいだけではありません。DeFiが本当に採用されるには、銀行間のオーバーナイト取引など、既存の金融業務を代わってできるようになるまで成長しなくてはならないと思います。
もちろん、大規模な機関の中にはDLTを採り入れることだけに興味を持っている部署もあれば、プライベートウェルスマネジメントや機関投資家向けのマネジメントサービスなど実際に暗号資産への投資を考えている部門もあることと思います。
DeFiの参入障壁
―DeFiプロトコルは大口のためだけにあるようなものだという話をよく聞きます。みなさんは、もっと少額のプレイヤーにも参加してもらうにはどうしたらよいと思いますか?
Ridyard: これは大きな問題だと思います。何か取引するたびに100ドルもの手数料がかかるのは確かにおかしいです。今、界隈ではこういったコストを下げようと挑戦し続ける人々がたくさんいます。
しかし、この手数料問題の解決はDeFi普及の最初の一歩に過ぎません。この手数料の高さをないものとして考えても、一般的なユーザーはまだまだDeFiの利用には恐怖感を覚えるでしょう。
Metamaskや秘密鍵の所有・管理に加えて、様々な台帳やセキュリティ対策について理解し、詐欺やハッキングのリスクについても考えなければなりません。
現状、ツイッターのクリプトコミュニティを監視していなければこういった脅威から自分の身を守るのは難しいと思います。
こういった点も改善されなければならないのです。
GoodFiが重要である理由のひとつは、新規参加者が安全にはじめられるスペースを提供するという教育的な目的を持っているからです。GoodFiだけでなく、業界全体でもっと努力する必要があります。
「ボタンをクリックすると、自分のお金がどこか安全なところに送られて、リターンが得られる。」
いまほんの一部の人しか知らない最先端のテクノロジーを、私たちのように様々な資料に目を通す時間の無い一般的な人々が、このようにわかりやすく簡単に使えるようにしなければいけないのです。
Richardson: 最終的には、ユーザーがどのブロックチェーンを使っているかすらわからないくらいのものになれば、DeFiは本当に普及するでしょう。
Avalancheのローンチを喜んでいる人もいれば、Polygonのローンチを喜ぶ人もいます。どちらもイーサリアムの混雑状況を改善したのですから、当然です。
しかし一般ユーザーには、そんなイーサリアムの使用コストなんてことすべてを学ぶ時間はないのです。
私たち業界のプロでさえ、新しいブロックチェーンが出てくるたびに時間をかけて色々調べなくてはならないのですから。
自分がはじめてxDaiを使おうとしたとき、何をすればよいのか理解するのに丸一日かかったことをまだ覚えています。
そういった意味で、現状では資金量以外の面でも大事な障壁が存在することも意識しなければいけません。
セキュリティと競争のつり合い
―DeFiのセキュリティについてはどうお考えですか?先日のPolyネットワークのハッキングのようなことが二度と起こらないようにするにはどうしたらよいと思いますか?
Park: 成長過程の副産物だとは思いますが、この問題を解決するにはDeFiコミュニティ全体の力が必要になると思います。
セキュリティを深刻なものと捉え、入念にテストを繰り返し、効果のあるバグバウンティプログラムを実施し、コード監査も行う。こういったあらゆる努力をしていかなければいけないと思います。
まだDeFiというもの自体がとても未熟な段階にあるため、プロジェクトはこの激しい競争の中一刻も早くプロダクトをローンチしなければならないというプレッシャーを感じています。
Amanda: Sushiでは3ヶ月ごとに新機能を発表していますが、従来のビジネスでは例えば指値注文などの機能を実装するのに、社内許可や監査を含め2年くらいはかかるそうです。
ですから短期間で開発されるこういったDeFiの最新の技術は、どんなに優秀な監査員でも思いつかないようなシナリオに出くわすことになるのです。
Ridyard: 私たちはまだ非常に未熟な言語と仮想マシンの上にプロダクトを構築しています。
Solidityは開発当初からあまり変わっていません。不可逆性のある台帳を起動した時点で、その仕組み上、もとの言語を変更するといったことは非常に難しいからです。
Radixはそういった点から新しい言語も開発していて、コードの間違いを減らせて、監査もしやすいよう攻撃対象となるような側面をできるだけなくしたデザインを心がけています。
これで安全なものが作れるようになれば、新規の参入障壁も下がると思いますし、開発者側の負担も減らせるようになると思います。
Richardson: Amandaさんの言ったことは間違いありません。
私たちは常に何かを生み出さなければならないというプレッシャーに圧倒されています。
DeFiでは、他の産業と違い、メールやツイートなどで24時間連絡してくれるコミュニティと毎日向き合っています。
これは素晴らしいことですが、プロダクトをもっと早くリリースしなければならないというプレッシャーにもなります。
私たちは「v3はいつリリースされるのか」などといった質問に対し「聞くのはやめてくれ。準備ができたら発表するから。」と応えています。
何十億ドルものお金が動くプロダクトですから、焦って余計なリスクは取りたくないのです。
監査機関だって同じです。いま業界では監査の専門性も人手も不足していると思います。
最も忙しい監査機関が担当したプロジェクトが次々とハッキングされているのは、すでにこの影響が出ているからだと思います。
Bancorのバージョン2.1はかなり慎重にリリースしました。TVLをできる限り小さくキープして、実世界でもシミュレーション通りの動きをしているか確かめました。
だいたいのプロジェクトはここまでしていないと思います。机上のアイデアを、それが実際どう機能するのかよく理解しないまま実世界に送り出しています。
良い例がアルゴリズム型ステーブルコインでしょう。こういったセキュリティリスクは取り返しのつかないもので、多くの人々を動揺させることになります。
まとめ
以上が「DeFiは2025年までにユーザー1億人を達成できるか?」ディスカッション前編のダイジェストになります。
DeFiの強みは「競争力」であるというところから始まり、金融機関や少額ユーザーそれぞれが抱える参入障壁、そしてそれを解決するためのプロジェクトの様々な努力が語られました。
ディスカッション後編では、同パネルが規制に関して政府・プロジェクト両サイドの現状、そしてGoodFiの「2025年までにユーザー1億人」を達成するためのカギについて熱く語ります。
後編につづく