ブロックチェーンを活用する上で大切なことは「ゲーム性とインセンティブの2つ」HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 前編
Crypto Times 編集部
1月31日に「CollectableAD(コレクタブル・アド)」、2月6日には「TokenCastMedia(トークン・キャスト・メディア)」を発表した博報堂のHAKUHODO Blockchain Initiative。
本インタビューでは積極的にブロックチェーン技術を取り入れたサービスの発表を行っているHAKUHODO Blockchain Initiativeの伊藤佑介さんにお話を伺った。
今回お届けするインタビューは、前編後編になっており、前編ではCollectableADについて着想の原点やサービス設計の工夫に関してをお届けしたいと思う。
後編 : ブロックチェーンは「生活者をエンパワーメントする」技術 HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 後編 – CRYPTO TIMES
目次
HAKUHODO Blockchain Initiativeについて
HAKUHODO Blockchain Initiative(以下HBI)とは、2018年9月19日に発足した博報堂のタスクフォースであり、ブロックチェーン技術の活用やトークンコミュニティ形成に関連したビジネスやサービス、ソリューションの開発を支援と推進をしている。
2019年1月31日には、インターネット上の広告を集めることで企業から特典を受け取ることができるサービス「CollectableAD(コレクタブル・アド)」をユナイテッド社、Yuanben社との共同開発を経て発表。
続く2019年2月6日には、リアルタイムで番組を視聴している人にデジタルアセットを送信できるサービス「TokenCastMedia(トークン・キャスト・メディア)」を発表すると同時に、ラジオ放送を用いた試験放送を実際に3月18日に実施した。
Collectable ADのアイディアはどこから生まれたのか
2019年1月31日にHBIが発表した、ブロックチェーン技術を活用し生活者がデジタル広告を集めると企業から特典を受けられる、生活者参加型の新プロモーションサービス「CollectableAD」。HBIの伊藤さんが着想の原点を語ってくれた。
「CollectableADの着想について話すと、実は二年前に遡ります。当時、個人的にブロックチェーンが好きで色々調べていました。その中でブロックチェーンを使って暗号広告というもの作ってみるとしたらどのようなものになるだろうと、一人で思考実験していたことがきっかけとなって、CollectableADの着想に至りました。」
二年前に着想を得たサービスをついに実現した伊藤さん。サービスの検討にあたっては、広告業界のすべてのステークホルダーが恩恵を受けられることを意識したという。
「広告業界には生活者の皆さん、広告主さん、媒体社さんといったステークホルダーがいます。ブロックチェーンを利用した広告を作るなら、その全員にとって価値を感じてもらえるように、生活者の皆さんには広告そのものをデジタルアセットとして所有できる楽しみ、広告主さんには自分たちの広告がどんな生活者に届いたかを特定できるデータ、媒体社さんには広告をしっかり届けられたことを示すエビデンスを、それぞれ提供できるサービスを作ろうと意識しました。」
この考えは、まさにCollectableADで実現されている。従来のデジタル広告で生活者ができることは、配信される広告のメッセージやクリックした先の広告主のサイトの情報を見られることである。
それだけでなく、ブロックチェーンを活用した広告では、生活者が興味を惹かれたら能動的に広告に対してそれを取得するというアクションを行って集めることができる。そして、ブロックチェーン技術によって実装された暗号広告を文字通り「所有」して楽しむことができるようになる。
「紙ベースの広告であればコピー、映像であればダビングが可能というように、従来の広告はある意味で複製することもできます。しかし、ブロックチェーンを活用して広告をデジタルアセット化することで、生活者は受け取った広告を特典と引き換えられる価値ある資産として所有することができ、それは複製されることはありません。」
広告をデジタルアセットとすることで、広告主が自分たちの広告をどんな生活者が能動的に受け取ったかも特定することができる。これにより従来の広告では難しかった、自社の商品やサービスの広告を楽しんで積極的に受け取るファンのトラッキングも可能だ。
「新聞や雑誌といったオフラインの広告では、広告をどんな生活者が読んだかを個人ベースで特定することは簡単ではありません。オンラインの広告では特定は可能ですが、Cookieの有効期限があったり、その個人が積極的に広告を受け取るファンであるかまでは判断することは難しいです。CollectableADでは、生活者の皆さんに広告を自らの意思で集めるといった能動的な行動をしてもらうことで、どんなファンが自社の広告にアクセスしたかを広告主さんは正確に知ることができます。」
媒体社にとっても、CollectableADを用いることで、自社のメディアが広告主にとって価値あるファンに対し広告を届けられたことを示せる、といったメリットがあるという。
「ファンがCollectableADを通して広告を集めることで、媒体社さんが自社のメディアに掲載した広告が、ファンにしっかりと届いていることを広告主さんにも示せ、より高い媒体価値があることを証明することもできます。これまで述べたように、ブロックチェーンを活用して広告をデジタルアセットとすることで、全てのステークホルダーにとってメリットがある形でさらにデジタル広告を進化させることができると考えています。」
CollectableADは、広告主、媒体社、生活者の全員にとって、デジタル広告をより良いものにアップブレードしうる仕組みとなっていることがわかる。
サービス設計のポイントはゲーム性とインセンティブの2つ
伊藤さんは「トークンを用いることで公平なインセンティブとそれを循環させるゲーム性のある自律分散システムを構築できる技術」としてブロックチェーンを捉え注目しているという。
ブロックチェーン技術を用いたCollectableADでは、ゲーム性をトレカという形で実現するとともに、広告を集めることで特典を得られる企業プレゼントキャンペーンとしてインセンティブが設計されている。
「過去の成功事例を研究した結果、ブロックチェーンを活用する上で大切なポイントはゲーム性とインセンティブの2つにあると考えています。これを実現するためにゲーム性を規定する役割分担、その先にあるインセンティブという報酬を設計する経済的な出口をCollectableADでは用意しています。」
一つ目のポイントであるゲーム性。それを規定する役割分担について伊藤さんはこう説明する。
「今回、ゲーム性を持ち込むという意味ではトレカ(トレーディングカードゲーム)の仕組みを用いて、カードを配るディーラーとしての媒体社さん、それを集めるプレーヤーとしての生活者の皆さん、勝敗を決定するホストとしての広告主さんという役割を設定してみました。ですので、ゲーム性というポイントを実現するための一つの手段としてトレカ形式を使っただけで、トレカ形式にこだわったわけではありません(笑)」
続けて、もう一つのポイントであるインセンティブ報酬を設計する経済的な出口についても説明した。
「次に、経済的な出口については、広告主さんが自社の商品やサービスを特典という形で報酬として、広告を通してトレカを集めた生活者の皆さんに対して渡せるようにしました。こうすることで、生活者の皆さんが広告を集めると、インセンティブが得られようにしました。」
トレカを意識させるゲーム性は確かに魅力的である。日本人はコレクター気質の高いユーザーも非常に多く、興味のある広告をトレカのように自分で集めていくという仕組みは画期的だ。そして、伊藤さんもまた、幼少期にカードのように広告を集めていたことがあるという。
「小学生だったとき、ブームを巻き起こしたゲームが有りました。そのゲームの発売前に、新聞に広告が掲載されるんですが、私はこのゲームの新聞広告を切り取って、ファイリングして眺めることで、発売日を待ち遠しくしていました。インターネットが普及する以前は、こうして好きな広告を所有するということをしていたと思うんですよね。そして、今、当時と同じことをブロックチェーンを使うことでオンライン上でも可能にできるのがCollectableADだと思っています。」
後編 : ブロックチェーンは「生活者をエンパワーメントする」技術 HAKUHODO Blockchain Initiative 伊藤佑介 後編 – CRYPTO TIMES
インタビュー & 編集 : CRYPTO TIMES 新井進悟
テキスト:フジオカ