マイニング産業の損益計算はどのように行われているのか?

マイニング産業の損益計算はどのように行われているのか?

ビットコイン投資をしている方なら、一度はマイニングの損益勘定に興味を持ったことがあるのではないでしょうか。

自分でマイニングをしなくても、マイニング業者がどのような損益計算をしていてビットコインの市場価格がどのように影響を受ける可能性があるかを知ることは大切です。

そこで本記事では、マイニングの損益分岐計算を、計算式と一緒に解説していきます。

この記事を読んでいただければ、マイナーが直面する損益分岐価格を、電気代などの変動費用が変化しても計算することが可能となります。

「マイニングの損益分岐」に関して知りたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

マイニングでの損益に影響する要因

 

マイニングでの損益に影響する要因は多岐に渡ります。

まず重要なのが、ハッシュレートです。

全世界でどれほどの計算量でブロック生成が試みられているかは、直接的にマイニングの損益に影響してきます。

単純な話、ハッシュレートが上がれば、1ブロックを生成する確率が下がるので、得られるビットコイン報酬量が減少することになります。

次に重要な要因が、ビットコインの市場価格とビットコイン報酬量でしょう。

ビットコインの市場価格が上がれば、またはビットコインの報酬量が増えれば、その分利益も多くなります。

次に重要な要素が、マイニングの変動費用と固定費用です。

変動費用とは、追加でマイニングをした時に発生する費用のことです。1時間多くマイニング器具を使用した場合、追加で1時間分の電気代や冷却費用、人件費などが発生します。逆にこの費用は、1時間追加でマイニングを行わない場合は発生しない費用です。ですから、1単位生産を増やす時(つまり、より多くマイニング器具を稼働させた)時に追加で発生する費用のことです。

今回の分析では変動費用は、マイニング器具を稼働させるための電気代のみを対象にします。本来は冷却費用や人件費を含める方がより現実的ですが、単純化のために電気代に絞って話を進めたいと思います。

一方、固定費用とは、マイニング器具代やマイニングを置いておく場所代など、1単位生産を増やそうが減らそうが変わらずに負担しなければいけない費用のことです。上の例を使うならば、1時間追加でマイニング器具を稼働させても、させなくてもマイニングの器具代は固定されて負担しなければいけません。マイニング器具を置いておく土地代なども、マイニング器具を1つも動かさなくても負担しなければいけない、いわば固定された費用なのです。

それら費用が高くなれば損益に影響を及ぼすことになります。

計算をする上での設定

今回は、ハッシュレートを所与として、8.44823E+19と設定します(11月30日あたりのハッシュレート)。

この数は、先頭の8の次に19個の数字が羅列される膨大な数です。

マイニング器具としては、仮想通貨マイニング器具大手Bitmain(ビットメイン)から今年9月に発売されたマイニング器具「Antminer S17+」を全世界のマイナー・マイニングプールが使用していると仮定します。

同一のマイニング器具が全世界で使用されているという仮定は少し無理があるように思われますが、将来のどこかの時点で大多数のマイナーがこの器具にシフトする時期をむかえます。

また、過半数以上のハッシュレートを占めているいくつかのマイニングプールが最先端の器具を使用しているとするならば、この仮定は筋が通ると考えられます。

Antminer S17+のスペックは、73TH/s(1秒間に73×10の12乗のハッシュを計算できます。)で、消費電力は2092Wです。

Antminer S17+を1台購入するのに、$2019(22万円ほど)かかります。

次に大切な数字の電気代は、GlobalPetrolPrices.comが提示する、0.095ドル(0.66元)/kWを採用します。

この数字は、中国の各地域の電気代から計算される中国全土の電気代平均値とおおよそ合致する値です。

利益計算のための計算式

では早速本記事の本題である、計算式をみていきましょう。

大枠で見ると計算式は以下のようになります。

 

これだけでは少し難しいと思うので、具体的に1つ1つの項目を見ていきましょう。

まずは、期間内で1ブロックを生成する確率を詳しくみてみます。

期間内で1ブロックを生成する確率と全体のハッシュレートの間には、以下のような関係式が成り立ちます。

全体のハッシュレート(ここでは、8.44823E+19)、この膨大なハッシュレートをフルで使って、10分に1回やっと1ブロックが生成されます。

全体のハッシュレートの項を右辺に持ってくるため両辺を全体のハッシュレートで割れば、期間内で1ブロックを生成する確率を求めることができます。

確率は、0.00000000000000000000001973ほど小さいのです。

注意しなければいけないのが、この確率は1秒間に1ブロックを生成する確率ではなく、1ハッシュで1ブロックを生成する確率です。

ですから、1秒間に73THハッシュをかますAntminer S17+で計算すれば、

以下の式からAntminer S17+を使って1秒間で1ブロック生成する確率が求まります。

この確率は、おおよそ0.0000000014401ほどです。まだまだこれでも0と変わりませんね。

さらに、1日稼働させるとどれくらいの確率で1ブロックを生成できるかが求まります。

これでも0.0001244284291(0.012%)と、ほとんどブロック生成できる兆しが見えません。

しかし、これで、自由に期間を設定することができるようになりました。

1ヶ月を期間とするならば30をかければいいですし、1年で計算したいならば365をかければよい訳です。

初めの式の期間内で1ブロックを生成する確率がこれで自由に求まることになります。

この確率(0.012%)に、1ブロック生成した時に得られるビットコイン量(2020年までは12.5BTC)とビットコインの市場価格をかければ期間内で得られるビットコインの期待値を求めることが可能になります。

例えば、1日で得られるビットコインの期待値は、0.0001244284291×12.5BTCで、0.001555355364BTCほどです。

1BTC=$8,000とすれば$12.44ほど、1BTC=$5,000とすれば$7.77677ほどを得ることができます。

次に変動費用ですが、以下の式で求まります。

今回の変動費は電気代だけですので、その他諸経費は0と仮定しています。

1点注意事項として、この期間Tは確率計算をした時に設定した期間と同一にしてください。

今回の例では1日なので24時間と設定しています。

固定費は、Antminer S17+の価格、$2019です。

 

改めて計算結果を表にまとめましたのでみてください。

横にあるアルファベットと同じアルファベットが記載されている計算式から算出された値が参照できます。

 

これで具体的な数値が出揃いました。

この数値が的を外していないか確認してみます。

この計算結果を、CryptoCompareの計算と比較してみましょう。

CryptoCompareのサイトに行き、マイニング器具のハッシュパワー、消費電力、電気代などを入力すればおおよその利益概算が出されます。

図をみていただくと、上の計算式の値とCryptoCompareが算出した値がほとんど一致していることがわかります。

電気代の計算が一致していることは当然として、表のDの項目、0.001555BTCでこれからpool 手数料の1%の差し引けば0.0014と同じ数字になります。

これによって、少なくとも電気代のみを変動費用として考えたとき、提示した計算式が正しいことを意味しています。

しかし、もちろん実際的な利益計算することはそれほど簡単ではありません。

上の式に含まれていたその他諸経費には、冷却費用(電気代)や、1つの器具を運搬したり設置したりする、いわば機械を動かすまでにかかる取得原価がかかります。

加えて、マイニング器具のパワーユニット(PSU)など付属品を購入する必要があるため、電気代のみを変動費用とするのは単純化の行き過ぎかもしれません。

しかし、可変費用に様々な仮定をおいてしまうとどこまでも仮定をおかなければいけなくなってしまいます。

また、本記事の目標は、損益計算をするための妥当な計算式の紹介にあるので、今回は電気代のみを可変費用とします。

より詳細な損益計算をしたい方はぜひ上の式の可変費用に、様々な要素を加えて計算してみてください。その時気をつけることは同一の期間を設定することです。

損益計算ではビットコインの価格がもっとも重要

先の数字がまとめられている表のデータから、1ヶ月ごとの売り上げと総費用を計算してみました。

BTC rewardの部分は、1ヶ月間隔でAntminer S17+を動かした時のビットコイン報酬額の期待値です。

つまり1ヶ月マイニング器具を動かせば初めの1ヶ月で、0.046BTCを得られる計算になります。

売り上げのところでは、1BTC=$8,000として計算をしました。

1ヶ月でだいたい$370($8,000×0.046BTC)を得られる計算になりますね。

また、総費用は、固定費 + 1ヶ月間Antminer S17+を動かした時の変動費用を表しています。

この売り上げ・総費用表のデータをプロットして見ると、以下の図になります。

1BTC=$8,000の場合、だいたい12ヶ月ほどで売り上げが総費用を超え、それ以降利益を得られるということがわかります。

売り上げと総費用が交わる点が損益分岐点です。

では、1BTC=$4,000だとしたら一体損益分岐するのにどれほどの時間がかかるでしょうか。

図からもわかりますが、1BTC=$4,000の場合、売り上げが総費用を永遠に追い越せないことがわかります。

これは、追加で1ヶ月マイニング器具を稼働させるコスト(限界費用)が、追加で1ヶ月マイニング器具を稼働させたときに得られるビットコイン価値(限界収入)よりも高いからです。

ですからいくら経っても追加分のコストが重くのしかかり、損失を抱え続けてしまうことになります。

実際、同時期に価格が初めて$4,000を下回った2018年11月頃に、大きくハッシュレートが下落しました。

また、実際には、上でも言ったように変動費用は電気代だけではないため、ビットコイン価格がより高くならなければ利益を保つことは難しいと言えるでしょう。

しかし現実ではビットコインが大きく下落したら、ハッシュレートが下がりその分難易度調整が適切に行われます。

そうすれば期間で得られるビットコインの期待値が上がるため価格が下がったとしてもそれほど悲劇的なことにはならないと思われます。(その辺の議論はかなり深く、難易度調整が2週間に1回と遅れをみせるため多くの問題が発生してしまいます。これについては様々な研究がされているおり深入りせずに進めます。)

損益分岐価格

今までの仮定では、だいたい1BTC=$4,000となる時に初めて、「いつまで経っても売り上げが総費用を超えない」状況に陥ってしまうことがわかります。

1BTC=$4,000がマイナーにとって意識される臨界点であることは間違いないでしょう。

一方で、それ以外の価格帯はマイナーにとってどのように映るのでしょうか。

例えば、1BTC=$5,000のときと1BTC=$17,000のとき、マイナーの損益勘定は同じでしょうか、またどのように変化するでしょうか。

ビットコイン価格と損益分岐期間

短期的に損益分岐を計算するには、ビットコイン価格と損益分岐までに要する期間の2つの変数を考慮する必要があります。

もし損益分岐するまでの期間を知りたければ、現在のBTC価格がわかっている必要があります。

逆に損益分岐するようなBTC価格を知りたいならば、いつまでに損益分岐を果たす必要なあるのかという期間を設定しなければいけません。

ですから、「損益分岐価格(Break Even Price)は、〇〇ドルです」というとき、どれくらいの期間を設定しているかが重要になります。

また逆に、「損益分岐点を超えるまでどのくらいの期間がかかりますか」と聞かれた場合、ビットコイン価格をいくらに設定した時の話しかどうかが重要になります。

マイニングの損益計算をしている記事の中には、期間とビットコイン価格の2つの変数が意識されていないのではないかと感じる記事もあります。

「1BTCあたり〇〇ドルがマイナーの損益を分ける価格である」と結論付け計算式を載せている記事にも、<1年間で損益分岐する前提>が後ろにあって記事にまとめられている場合があるからです。

紹介されている計算式を使って1週間という期間設定をした場合その価格帯では損益分岐できない結果になることや、2年間という期間を前提とするならば、その価格以下でも余裕で損益分岐を果たすことができる結果になる場合があるのです。

つまり、「マイナーの損益を分ける価格は、1BTCが〇〇ドルのときである」というとき、それは限界収入が限界費用以下になるような価格のことを示しているのか、を明確にしなければいけません。

では、限界費用などの議論は一旦置いておいて、ビットコインの価格を変数としてみたときどれくらい(何ヶ月ほど)で利益に転じるかの分析をしてみましょう。

この分析は、今まで見てきた計算式による計算を逆にすれば求まります。

与えられたビットコインの価格の元で損益分岐するためにどれほどの期間が必要となるかを図にまとめました。

先にも見たように、本記事で仮定している条件での計算では、1BTC=$4,000のとき、「限界収入が限界費用を上回ることがなく永遠に損益分岐することは不可能」な価格となります(難易度調整がない場合)。

では1BTC=$4,500だとどうでしょうか。1BTC=$4,500の時、マイナーは何も気にすることなくマイニングを続けられるでしょか。

この場合、損益分岐するまでに16年ほどかかります。(もちろん器具などが最高のパフォーマンスを16年続けられたらの話)

普通ならばこの時点で、マイニング器具の中古市場を調べて器具の売却を考えるでしょう。

逆に、1BTC=$7,000あたりならば、1年での利益計上は難しいまでも、2年も待たずに損益が反転することがわかります。

そしてどこまで損失を出せるかは、マイナーやマイニングプールの資本規模によるでしょう。

つまり、各マイナー・マイニングプールの損益勘定は、この曲線上のどこかの点にあるということが言えるのではないでしょうか。

大規模なマイニングプールは資本が潤沢にありある程度の赤字に耐えられるとすれば$5,000あたりの価格帯を意識しているかもしれません。反対に、比較的小規模なマイナーにとっては$8,000あたりが目印になる一つの価格帯と言えるかもしれません。

もちろん、今までの説明はビットコインのマイニングを静学的にとらえたもので、過度な単純化の結果です。

本来ならば難易度が調節されるため、より多くのビットコインを掘ることができその分利益を保つことができます。

ただ難易度調整までの2週間の間に価格が大きく下落することも考えられるため、以上までの分析が一概に無駄とは言えないでしょう。

まとめと今後の分析

今回は、動的な静学的にマイニングの損益計算を分析しました。

分析をすることで、だいたいどれくらいの価格帯をマイナーは意識しているのかという概算を出せます。

またご説明した計算式に項目を追加していくことでさらにリアリティーのある分析が可能でしょう。

しかし本記事での分析は1つのベンチマークになるかもしれませんが、少し単純化をしすぎている側面があることも否めません。

ハッシュレート、それに伴う難易度、またマイニング器具代、電気代など変動費用の全てを固定的なものとして分析しました。

そして何より、半減期を来年に控えているためビットコイン報酬量も一律12.5BTCとして計算しました。本来ダイナミックに変動するはずの変数を定数として分析したので複雑化は避けられましたが、その分現実から遠ざかった分析であると言えます。

さらに今回の分析は、一斉にマイナーがマイニングを始めたという仮定が置かれています。つまり、上ではマイナー達が固定費を支払わなければいけない段階にいるという仮定で考察を続けました。

しかし固定費をすでに回収できたマイナーにとって、追加のマイニングは利益となります。

ですから、固定費を回収仕切ったマイナーにとっては1BTC=$8,000のところがいきなり$5,000に下がったとしても、限界収入が限界費用を上回っている限りでマイニングを続けるインセンティブがあるのです。

そのようなマイナーにとっては固定費の回収を無視できるので価格の変動からくる影響がかなり低いと考えられます。

そのあたりに関してもさらなる分析が必要なため、次回はできる限り、マイナーの損益計算をより動的な視点から分析してみたいと思います。

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