歴史は繰り返す?人は常に「新しいお金」を追求する

2018/06/05・

Yuya

歴史は繰り返す?人は常に「新しいお金」を追求する

Crypto Times公式ライターのYuya(@yuyayuyayayu)です。

私たちはなぜ、仮想通貨にここまでの期待を寄せるのでしょうか?投資的な側面もありますが、それなら株式やコモデティも一緒です。

しかし、なぜ仮想通貨だけが「未来の新しいお金」としてここまで取り上げられているのでしょうか?

2013年にノーベル賞を受賞した米行動経済学者ロバート・シラー氏は、この疑問をお金の歴史という観点から考察しています。

シラー氏によると、私たちの新しいお金の追求というのは仮想通貨に始まったものではなく、過去にも同例がたくさんあったというのです。

今回は、シラー氏の記事をもとに「なぜ人は新しいお金を追求するのか」を探り、それに基づき「なぜ仮想通貨が注目されているのか」を考えたいと思います。

お金と社会的理念の関係性

「お金とは何か」は解釈によって答えの変わる究極の質問です。シラー氏は、お金は「信仰」であると定義します。

「私たちはお金で人の価値を測ろうとします。お金ほど物事の価値や重要性をうまくまとめるものは存在しません。しかし、お金とはそれでいて延々と消費され続けるただの紙切れにすぎません。」

「つまり、その紙切れの価値は人々がそれを信用するかしないかにかかってくるわけです。言ってみれば、信仰のようなものです。」

と語るシラー氏は、新しいお金の創造にはその必要性を裏付ける思想があるとします。こういった思想がわかりやすく、理にかなったものであるほど、その新しいお金に信用が集まるわけです。

シラー氏は、この仮説の例をいくつか挙げています。ひとつひとつ見ていきましょう。

ユーロと国際的調和

シラー氏は、最初の具体例として現在もヨーロッパ連合(EU)で使用されているユーロを取り上げます。

インド出身の経済学者 Ashoka Mody氏は、当時ユーロ導入に賛成した人びとは「国境をまたいでひとつの通貨を制定することで外交的な調和が得られる」という思想を持っていたとします。

つまり、ヨーロッパー諸国全体でユーロというひとつの通貨を使うということが、同国間での協力や統率感などをイメージさせるものだった、ということです。

労働紙幣

シラー氏は、新しいお金の概念はユーロの件のようにシンプルでわかりやすいイデオロギーとともに誕生するものだとし、次に労働紙幣の例を挙げます。

1827年、アメリカでCincinnati Time Storeというお店が「労働紙幣」と呼ばれる紙幣を支払い方法として導入しました。

労働紙幣とは個人の労働時間を今の法定通貨のように紙面に表したもので、いわば働いた時間がお金そのものになる、というものです。

このお店は約三年で閉店となりましたが、時間をそのまま価値に換算することによって、労働紙幣は当時の労働階級の重要さをわかりやすく表したものと考えられます。

Cincinnati Time Storeの閉店から2年後、労働紙幣の導入はイギリスでも試みられます。

イギリスで導入された労働紙幣。この紙幣は10時間分の価値を表す。| OISR ORGより

共産主義と売買の廃止

お金の概念を変えようとする動きは共産主義者の中でも多くありました。

文献によると、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスはモノやサービスの売買を廃止することで「私有物」という概念を無くそうとしたとされています。

また、共産主義的政府が発行する紙幣の多くは労働階級の人びとが描かれたものが多かったことなどから、やはり当時の紙幣は労働に対し肯定的な価値観を生み出すツールでもあったことがわかります。

テクノクラシー

世界恐慌の最中である1930年には、テクノクラシー(改良主義)と呼ばれる社会思想の中で、電力をお金として扱うという考えが提案されました。

電力をお金として考えることで、失業率を減らすことができると提唱されましたが、当時最先端のテクノロジーを試用したいだけだと批判され、やがてなくなりました。

シラー氏は、電気や電化製品が家庭に少しずつ普及してきたこの時代で、このお金としてのエネルギーというのは「ハイテク時代の到来」という期待を掻き立てるものであったと主張します。

この理由付けは、ユーロや労働紙幣のような「こうなりたい」という思想よりは、未来への期待、いわばハイプに基づいたものといえます。

仮想通貨

前例が示したように、新しいお金の導入の裏には新たな社会や経済の構造に関する思想が存在します。それでは、仮想通貨が注目されているのにはどのような理由が考えられるのでしょうか。

シラー氏が強調しているのは、ブロックチェーン技術の「未知な感じ」や「ハイテク感」が仮想通貨のハイプを掻き立てているということです。

「過去の例のように、人びとの仮想通貨に対する興味というのは、”お金とは何か“という根本的な謎や、新しいお金の基礎となる最先端の技術に大きく関わっています。」

「(ブロックチェーンの)革新的・排他的な感じが仮想通貨に魅力をつけ、続いてそれを信仰する者が生まれる。これは(過去の例を見ると)特に新しいことではありません。」

テクノクラシーの例では、当時は一部の人間しかわからなかったハイテク技術が人々の興味を集め、やがてそこから電力をお金として扱う動向が生まれました。

同様に、仮想通貨もブロックチェーンという得体の知れない技術への期待によってここまで人気が生まれていると考えられます。

シラー氏も「コンピューターサイエンス以外の人間は実質わかっていない」とするように、ブロックチェーン技術を深く理解している人はあまり多くありません。

つまり、仮想通貨やブロックチェーンがここまで騒がれている理由その中身を深く理解している人が少ないからだということです。

テクノクラシーの例に沿っていけば、ブロックチェーンという技術に対する世間的理解が広まったところで、仮想通貨という新しいお金が本当に必要かが試されることでしょう。

「分散型」ブーム

シラー氏は仮想通貨の裏に存在するイデオロギー等についてはあまり触れていませんが、ブロックチェーンの特性上、仮想通貨には無政府主義的な理念が存在するとも考えられます。

ビットコインやライトコイン、モネロなど価値貯蔵を目的に作られた仮想通貨は、当然全てブロックチェーン技術を利用しています。

ブロックチェーンとは非中央集権性不変性を兼ねつつ、第三者を必要としない記帳技術です。

つまり、この技術を利用するということは、貧富の差や争いの原因となる政府を必要とせずに、透明性と不変性の高いシステムのもとに経済圏を組み立てるといった思想を持つことといえます。

投機に惹かれて市場に参入してきたいわゆる「ウェールインベスター」とは関係はあまりないかもしれませんが、市場には分散型経済圏の発展を強く信じて長期保有をする人もたくさんいます。

まとめ

価値貯蔵としての仮想通貨が今後主流になるかどうかは法定通貨並みの汎用性と信用を獲得できるかにかかってくるでしょう。

歴史を通して提案されてきた新しいお金は、労働通貨のように汎用性がなかったり、テクノクラシー時の電力通貨のように信用を獲得できなかったりしました。

汎用性の観点からすると、仮想通貨には大きなポテンシャルがあると言えるでしょう。匿名性の確保国際間送金の容易化など既存の法定通貨にはできないことが仮想通貨では可能だからです。

一方で、現在の価格不安定性は仮想通貨の汎用性を大きく下げている一因と言えるでしょう。

信用度の観点では、世間のブロックチェーンに対する理解を高める運動や、セキュリティの欠陥を最小限に抑えることなどが今の仮想通貨界隈のもっとも大きな課題と言えるでしょう。

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