Hyperliquidの悪夢か? $Jelly 騒動に見るCEX vs DEXの暗闘と市場リスク

Hyperliquidの悪夢か? $Jelly 騒動に見るCEX vs DEXの暗闘と市場リスク
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急成長を遂げる分散型取引所(DEX)のHyperliquidで、突如として発生した「Jelly(JELLYJELLY)」トークンに関する異常事態。価格の異常な高騰、巨額の損失、そして大手中央集権型取引所(CEX)であるBinanceとOKXによる絶妙なタイミングでの先物上場。この一連の出来事は、単なる市場の混乱なのでしょうか?それとも、水面下で繰り広げられるCEXとDEXの熾烈な覇権争いの一端なのでしょうか?

本記事では、オンチェーン探偵ZachXBTの告発や時系列データを基に、Hyperliquidで起きたJelly騒動の深層を探り、価格操作の疑惑、DEXの構造的な脆弱性、そして市場全体への影響について考察します。


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Hyperliquidを襲ったJellyショック

2024年3月26日の夜(JST)、新進気鋭のDEXであるHyperliquidは、JellyのPerp市場で未曾有の混乱に見舞われました。

日本時間22:00頃、Jellyの価格はわずか1時間のうちに最大で429%という信じがたい高騰を記録。この異常な価格変動は大規模なショートスクイーズを引き起こし、多くのショートポジションが強制的に清算される事態となりました。その結果、Hyperliquid独自の流動性供給メカニズムであるHLP(Hyperliquidity Provider)は、清算された450万ドル相当のショートポジションを引き継ぐことを余儀なくされ、わずか24時間で約1200万ドルという巨額の損失を計上しました。

問題はそれだけに留まらず、自動清算プロセスを通じてHyperliquid Vaultと呼ばれる流動性供給プールの一つも、500万ドル相当のJellyショートポジションを抱え込み、一時1063万ドルもの含み損が発生。

ChainCatcherの報道によれば、Jelly価格がもし0.17ドルまで上昇していた場合、このVault自体が清算され、2億4000万ドル相当の資産が失われるという、プラットフォームの存続をも脅かす壊滅的なリスクに晒されていたのです。この深刻な事態を受け、Hyperliquidは翌27日の深夜00:47、「不審な市場活動の証拠」があるとしてJellyをValidatorの投票によって緊急上場廃止を決定しました。影響を受けたユーザーに対しては、Hyper Foundationを通じて補償を行うという異例の対応を発表しました。

今回のJellyショックで、HyperliquidのプラットフォームからUSDCが1億4000万ドルの資金が抜けたことがParsecデータからもわかっています。

価格操作疑惑とCEXの影

この市場の混乱が発生するわずか30分ほど前、著名なオンチェーン分析家であるZachXBT氏がX(旧Twitter)に投じた一つの投稿が、事態の背後にある不穏な動きを示唆していました。3月26日21:23、同氏はJellyの価格操作に関与した疑いがある複数のウォレットアドレスを名指しで公開し、これらのアドレスが「Binanceを通じてArbitrum上で新たに資金提供を受けた」と指摘したのです。

これは、暗に世界最大のCEXであるBinanceが、価格操作の原資を提供した可能性を示唆するものであり、市場に衝撃を与えました。ZachXBT氏の指摘が事実であれば、これらのウォレットがBinanceから得た資金を利用して現物市場でJellyを大量に買い上げ、価格を人為的に吊り上げることによって、Hyperliquidでのショートスクイーズを意図的に誘発したというシナリオが浮かび上がります。

さらに不可解なのは、ショートスクイーズが発生してから約2時間後の27日00:11から00:19にかけて、BinanceとOKXという二大CEXが、まるで申し合わせたかのように相次いでJellyの永久先物上場を発表しました。この絶妙すぎるタイミングは、二つの憶測を生んでいます。

一つは、CEX(特にBinance)が価格操作を事前に計画し、Hyperliquidに打撃を与えた上で、自社のプラットフォームにJelly先物を上場させることで市場の流動性と注目を奪おうとしたという「連携説」。もう一つは、Hyperliquidでの価格高騰と市場の熱狂を単なるビジネスチャンスと捉え、迅速に先物上場を決定したという「市場機会利用説」です。

どちらのシナリオが真実に近いかは不明ですが、結果的にCEXの上場発表は、HyperliquidがJellyの上場廃止を決断する直前に行われ、DEXの混乱を助長し、自社プラットフォームへのトレーダー誘導につながった可能性は否定できません。

Hyperliquidの構造的脆弱性

今回のJelly騒動は、単なる外部からの攻撃疑惑だけでなく、Hyperliquid自身のシステムが抱える構造的な脆弱性を白日の下に晒すことにもなりました。その核心にあるのが、HLP(Hyperliquidity Provider)と呼ばれる流動性供給メカニズムです。HLPは、トレーダーに流動性を提供し、その見返りとして手数料収入を得る仕組みですが、一方で市場価格が急激に変動した際には、強制清算されたトレーダーのポジションを引き継ぐという大きなリスクを内包しています。

実際、Hyperliquidではこのインシデント以前の3月12日にも、ETH関連の市場変動によってHLPが約400万ドルの損失を被る出来事がありました。

今回のJelly騒動でHLPが記録した1200万ドルという損失、そして一時的に露呈した2億4000万ドルという潜在的な破綻リスクは、このHLPメカニズム固有の危うさを改めて浮き彫りにしたと言えるでしょう。価格操作を行ったとされる主体は、HLPが大きな損失を被りやすいこの仕組みの弱点を熟知し、意図的に悪用した可能性が考えられます。

X上ではSonic Labsの共同創業者など、一部の専門家からHyperliquidのレバレッジ設定や清算メカニズムそのものに改善の余地があるとの指摘も上がっており、今回の損失が単なる不運ではなく、システム設計に起因する問題であった可能性も示唆されています。

CEX vs DEX「戦争」の可能性

近年、暗号資産取引所の世界では、従来のCEXと、急速に台頭するDEXの間で、ユーザーと流動性を巡る競争が激化しています。中でもHyperliquidは、KYC(本人確認)不要でありながらCEXに匹敵する高度な取引機能と流動性を提供することで注目を集め、急成長を遂げていました。2024年1月には、そのオープンインタレスト(未決済建玉)がBinanceの10%、取引量が6%に達したとの報告もあり、既存のCEX、特に最大手のBinanceにとっては無視できない脅威となりつつあったことは想像に難くありません。

こうした背景を踏まえると、今回のJelly騒動は、単なる市場の混乱ではなく、CEXによるDEXへの意図的な「攻撃」ではないか、という見方が生まれるのも自然な流れかもしれません。特に注目されるのは、Binanceが過去に競合取引所FTXの破綻に間接的に関与したとされる経緯との類似性を指摘する声です。当時、BinanceのCEO(当時)であったCZ氏によるFTTトークン売却を示唆するツイートが、市場の不安を煽り、FTXの取り付け騒ぎと最終的な破綻の引き金の一つになったと広く考えられています。CryptoSlateの記事でも触れられているように、今回のBinanceによるJelly先物の上場タイミングと状況は、一部のアナリストやコミュニティメンバーに「BinanceはHyperliquidに対して『FTXにしたこと』を再びやろうとしているのではないか(Is Binance ‘doing an FTX’ to HyperLiquid?)」という強い疑念を抱かせています。

この疑念を補強するかのように、Binanceの共同創設者であるYi He氏が、X上であるユーザーからの「Hyperliquidを潰すためにJellyを上場してほしい」という趣旨の要望に対し、「Ok, received/got it(了解、受け取った)」と返信したとされるやり取りが、一部で「意図的な攻撃」の証拠として拡散されました。

ZachXBT氏が指摘した価格操作疑惑のあるウォレットへのBinance経由での資金提供と併せて考えると、BinanceがHyperliquidの混乱を認識し、それを自社の利益、あるいは競合排除のために利用しようとした可能性は否定できません。ショートスクイーズ発生後の迅速な先物上場も、その文脈で捉えれば、混乱に乗じて市場シェアを奪い、相手にさらなる打撃を与えようとする、極めて戦略的な一手と見なすことも可能です。

しかし一方で、CEXの行動は、単に市場のトレンドを捉えた合理的なビジネス判断であったとも考えられます。Jellyの価格が異常な高騰を見せ、市場の注目が集まっている状況で先物商品を上場させるのは、取引所として自然な動きとも言えます。また、Hyperliquidが被った損失は、CEXによる直接的な攻撃というよりも、DEX自身のシステム的な脆弱性が悪用された結果と見ることもできます。Yi He氏の返信とされるものも、日常的な多数の要望に対する定型的な反応であった可能性も排除できません。

現時点では、BinanceをはじめとするCEXが意図的にHyperliquidを攻撃したと断定できる決定的な証拠はありません。「戦争」という言葉を用いるのは、いささか扇情的すぎるかもしれません。しかし、FTXの事例や今回の状況証拠とされるものが存在する以上、CEXが単なる市場原理に基づくだけでなく、時には競合の弱点を突き、市場での優位性を確立するために、より攻撃的とも取れる戦略を用いる可能性は、十分に考慮する必要があるでしょう。今回の出来事は、CEXとDEXの熾烈な競争が、時に市場全体の安定性を揺るがしかねない側面を持つことを、改めて示唆しています。

市場への影響と今後の展望

Hyperliquidで起きた一連のJelly騒動は、関係するプラットフォームやトークン、そして市場全体に無視できない影響を及ぼしています。まずHyperliquid自身にとっては、HLPが被った巨額損失と、一時的に露呈した壊滅的なVault清算リスクは、プラットフォームの安全性と信頼性に対する深刻な疑念を生じさせました。ユーザーや流動性提供者からの信頼を回復するためには、HLPメカニズムの見直しやリスク管理体制の抜本的な強化が急務となるでしょう。

迅速な上場廃止と補償措置の発表は、被害拡大を防ぐ上で一定の効果があったかもしれませんが、失われた信頼を取り戻すには時間がかかる可能性があります。ネイティブトークンであるHYPEの価格はインシデント後に一時的な上昇を見せましたが、プラットフォームの将来性に対する市場の評価が定まるまで、その長期的な影響は不透明です。

今後の展望として、Hyperliquidは今回の苦い経験を教訓とし、価格操作や急激な市場変動に対するシステムの耐性を強化するための具体的な改善策を講じることが強く求められます。同時に、このインシデントは、CEXとDEXの間の競争が今後さらに激化し、場合によっては今回のような価格操作や市場の混乱を利用した戦略が再び試みられる可能性も示唆しています。また、これだけ大規模な価格操作疑惑が浮上したことで、各国の規制当局が暗号資産市場、特にDEXの運営やCEXの市場活動に対する監視を強める可能性も考えられます。

結論

Hyperliquidで起きたJelly騒動は、単なる一過性の市場混乱ではなく、価格操作の強い疑惑、DEX固有のシステム的脆弱性、そしてCEXとDEX間に存在する緊張関係という、現代の暗号資産市場が抱える複数の問題を同時に浮かび上がらせました。オンチェーン探偵ZachXBTの告発が示唆するように、最大手CEXであるBinanceが価格操作に間接的に関与し、Hyperliquidにおけるショートスクイーズを誘発した可能性は依然として残ります。その後のCEXによる迅速な先物上場は、表向きには市場機会を捉えたビジネス判断と見えますが、結果として競合DEXの苦境を利用する形となったことは否めません。

これを「CEX対DEXの戦争」と呼ぶには現時点では証拠が不足していますが、両者の熾烈な競争が、時に市場全体の安定性を脅かすようなリスクを増幅させる危険性を、今回の出来事は明確に示しました。HyperliquidをはじめとするDEXは、システムの堅牢性とリスク管理体制の強化という重い課題に直面しています。そして、私たち市場参加者は、DEXを利用する際の固有のリスク、そして巧妙化する市場操作の可能性に対して、常に警戒心を持つ必要があることを改めて認識させられました。

この騒動の完全な真相解明、Hyperliquidによる具体的な改善策の実行、そして変化し続けるCEXとDEXの力関係については、今後も注意深く見守っていく必要があるでしょう。


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