BitMEXによるICOと運営チームのトークン保有量に関するレポート翻訳

BitMEXによるICOと運営チームのトークン保有量に関するレポート翻訳

BitMEXはICOと運営チームが保有しているトークンの関連性について分析したレポートを発表しました。今回の記事はそのレポートの翻訳記事となっています。

レポートの概要

これは私たちにとって3つめのICOレポートです。このレポートはTokenAnalystとのコラボレーションにより、Ethereumネットワーク上のICOトークンの残高について焦点を当てています。

今回調査の対象となったICOプロジェクトのトークン総額は発行時点の価値で242億ドル(約2.66兆円)に登ります(しかし、実際はこの金額に換金するには流動性が低すぎました)。15億ドル(約1650億円)相当のトークンが運営チームのアドレスから外部に送金されているのを差し引いて、現時点での価値は50億ドル(約5490億円)程度まで下落しています。

10億米ドル
運営チームに割り当てられたICOトークンの価値21.5
ICO後に行われたチームのための発行2.7
運営チームに割り当てられたトークンの合計24.2
運営チームのアドレスから移動されたトークン-1.5
価格変動による損益-12.0
Noahのバーンによる影響-4.4
EOSによる影響-1.2
現在の運営チームの保有額5.0

ICOのプロジェクトチームが発行した240億ドル相当のトークンはレートの下落によってその価値の54%を失いました

それぞれのトークンの最高値を使って計算したピーク時の総額は800億ドル(約8.78兆円)を超えていました。ピーク時からは700億ドル(約7.68兆円)以上も価値が下落している事からもその下落幅の大きさが伺えます。

しかし、このピーク時の評価額も実現するには流動性があまりに足りなく、700億ドル以上を失ったと表現するには語弊があるかもしれません。

ICO投資家らとは異なり、運営チームはICOを行うに当たって初期投資をする必要がありませんでした。しかし、これらのトークンはありえないほど高い評価額で取引が行われているため、私たちはこのデータをより細かくみていく事に決めたのです。

現在の流動性の低い現物価格で計算しても、運営チームは50億ドル相当のトークンを保有している事になります。見方によっては何もないところから生み出したお金とも言えるでしょう。

同時に、運営チームは15億ドルの利益をトークン売却によって得ている事が運営チームのアドレスから判明しています。こちらの数字も同様に、トークンは様々な理由で外部に送金されているはずなので、過大評価になっている可能性があります。

データ分析における注意点

これらのICOトークンの流動性は低いため、発行直後の時価総額、現在の評価額、損失額などの数字は全て過大評価である可能性があります。また、NoahやVeritaseumなどと言ったプロジェクトでは、現在の取引量に対して、面白いほど大量のトークンが運営チームに割り当てられているため、このトークン全てを取引所の価格で計算するのは不正確だと言えるでしょう。

トークンの割り当てに関するデータセットは不確実で挑戦的なものでした。我々が使用したメソッドは不完全で個々のプロジェクトまでは調査を行なっていません。今回のデータはそれぞれのトークンのスマートコントラクトとトランザクションパターンをマシンラーニングを用いたテクニックによって分析した結果算出されました。

そのため、データは確率的な予想にすぎず、個々のプロジェクトのレベルでは不正確です。しかし、今回のプロジェクトの主な目的はEthereumネットワーク上に存在するICOトークンの運営チームの保有率に関するマクロなデータを提供する事でした。今回のデータは完璧からは程遠いものだとしても、マクロなデータを提供するという意味では目的を達成できたと信じています。

上で述べたように我々の分析ではスマートコントラクトとトランザクションのパターンを参考にトークンの割り当てを計算しています。個々のプロジェクトの書類やポリシーには目を通していないため、エスクローや準備金など別の用途向けに保管されていたトークンを運営チームの残高として含めている可能性も存在します。

また、今回の分析においては、トークンの発行日はCoinmarketcap上に初めて価格が表示された日と同じだとしています。

サマリーデータ

上の画像は運営チームに割り当てられたトークンの評価額をランキング形式でグラフにしたものです。この表によると、Veritaseumが50億ドル相当のトークンを運営チームに割り当てていた事がわかります(先ほども書いた通り、実際は流動性などの問題でこの金額には相当しませんが)。

続いてNoah Coinが僅差で2位につけています。3位のKinからは評価額が一気に下がり10億ドル以下になっている事が伺えます。

続いて紹介するこちらの表は運営チームが保有しているトークンがどれほど損失を生み出したかを示したグラフになっています。先ほどトップになっていたVeritaseumは言わずもがな最も多額の損失を生み出している事がわかります。しかし、2位にはNoah CoinではなくSingularityNETがランクインしています。この事については後ほど説明します。

こちらは運営チームの保有量に対する損失の割合を示したグラフになります。トップ10が選ばれているのですが、どのプロジェクトも軒並み90%以上の損失を計上している事がわかります。

続くこちらは運営チームのウォレットアドレスから外部に送金されたトークンの価値を表したグラフになります。このグラフによるとHuobiが3.5億ドル(約384億円)相当のトークンを外部に送金しているという事になります。

こちらのグラフは現在運営チームのウォレットアドレスに残っているトークンの評価額をまとめたものです。Veritaseumがダントツで1位となっており、BinanceやKinがそれに続く形となっていますが、こちらもあくまで取引所での価格を元に算出された評価額であり、実際の価値とイコールではないという点に注意が必要です。

最後に紹介するこちらは上のグラフの元になったデータをまとめた表です。あまりにも数が多いので上位10プロジェクトを抜粋しています。他のプロジェクトが気になる方はレポートをのぞいてみてください。先ほどNoahが2つめのグラフに含まれていないと指摘しましたが、どうやらNoahはそのほとんどを外部に送金済みなため、運営チームが保有するトークンによる損失はほとんどなかったようです

まとめ

今回の分析はICOマーケットにおける不透明さと基準に満たないずさんな体制が明らかになりました。特に、運営チームのウォレットに割り当てられたトークンに着目するとその問題は明らかです。彼らはアナリストが簡単にトークンを追跡できない状況下で、自身らの意志でトークンを発行し、バーン、売却、購入する事ができます。

私たちは良く取引所のリストの中にこれらのトークンを見かけますが、実際にプロジェクトチームが上場するために料金を支払ったのか、それとも運営チームが現金化するために送金したものなのかはわかりません。

より公平な結果を出すために私たちにできる事はそれぞれのプロジェクトの書類を時間をかけて読む事でしょう。もしくは運営チームに連絡をとってみるのもより強固なデータセットを作るための手段なのかもしれません。

しかし、ICOに関して多くの人が見逃しているのがICOチームはしばしば以下の二種類の手段で利益を出しているという事です。

  1. 新たに発行したばかりのトークンをイーサリアムに換金する
  2. 自分らのトークンを新たに発行し、換金する

2018年10月にBitMEXが公開したレポートでは前者にフォーカスを当てて分析を行なっていましたが、今回のレポートでは後者にフォーカスを当てています。

何度も述べているように我々のデータは不正確な部分が多いです。そんな我々の計算によると、ICOチームはICOのプロセスにより、130億ドル(約1.43兆円)近くの利益を得ている事になります。我々の見解では、このお金はそれ相応の努力無しに、非常に簡単に稼ぎだされた金額です。

これがICOによる資金調達が彼らにとって非常に魅力的な理由の一つでしょう。しかし、投資家にとっては全く魅力的ではないというのが現状です。

ICOの盛り上がりは今でこそ陰りが見えてきたような気がします。2017年および2018年初頭に生み出され、失われていった金額の大きさにより、これらのイベントは簡単には忘れ去られないでしょう。起業家は成功に味をしめ、ICOによる資金調達を続けようとしますが、投資家はICOによる痛みを覚えている事でしょう。おそらく数年後にはこのサイクルが収束しているのではないでしょうか。

記事ソース: BitMEX, Coinmarketcap

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