暗号資産市場の相関性が2019年に入り低下していることが明らかに − HodlBot調べ

2019/05/29・

Yuya

暗号資産市場の相関性が2019年に入り低下していることが明らかに − HodlBot調べ

バイナンスやクラーケンで自動リバランシング機能付きのポートフォリオを組めるアプリを提供している「HodlBot」のチームが、2019年の暗号資産市場の相関性(Correlation)に関する調査を公開しました。

市場の相関性は、パッシブ投資の肝である資産の分散(Diversification)をうまくこなす上で重要なインジケーターです。当リサーチでは「暗号資産市場の相関性は2019年に入り低下している」と言う結果が出ています。

これは一体どういうことを意味するのでしょうか?当記事では、実際の計算手法やデータの信憑性について触れつつ、このHodlBotの研究調査の結果を徹底解説していきます。

はじめに: 相関性(Correlation)とは?

相関性とは、ある2つ(以上)の変数が「どれくらい一緒に上下するか」を表すものです。

例えば、「テストの点数と費やした勉強時間」の関係性を調べるためにクラス全体(20人)のデータを取ったとしましょう。

※解説のために人工的に作成したデータです。

「テストの点数と勉強時間」のグラフを見ると、基本的には勉強すればするほどテストの点数も伸びていることがわかります。そして、相関性は約0.916と出ています(計算方法については後ほど触れます)。

このように、ひとつの変数が上昇するともうひとつの変数も上昇する相関性を「順相関」と呼びます。数学的には、相関性ρが0 < ρ ≦ 1であれば順相関と言うことができ、値が1に近ければ近いほど上昇幅の比率も等しいことを示します。

相関性ρ = 0の場合は変数同士に相関関係がないということになり、-1 ≦ ρ <0の場合はひとつの変数が上昇するともう片方は下降する「逆相関」であるといいます。

例えば、「テストの点数と前日に飲んだビールの本数」はおそらく逆相関の例になるのではないかと予想できます。

調査方法・結果

HodlBotの調査目的は「時価総額トップ200通貨の価格」と「市場全体の時価総額」の相関性を算出することです。まずは、このプロセスをわかりやすく段階分けしてみましょう。

  1. 時価総額N番目(N = 1であればビットコイン)の価格データと、市場時価総額のデータを用意する。
  2. 市場時価総額から、N番目の価格データを引く。こうすることで、市場時価総額からN番目のコインの時価総額を除外し、重複計算を防ぐ
  3. N番目のコインの価格データと、それを除いた市場時価総額の相関性を計算する。これをN = 1からN = 200まで繰り返す。こうすることで、トップ200の通貨と市場時価総額の相関性のリストが出来上がる。

ビットコイン(N = 1)と市場の相関性は、約0.92と出ている。ビットコインが60%近いドミナンスを占めていることを考えると当然の結果と言える。

当調査のデータはCoinMarketCapから引用されており、データの対象期間は全て2019年となっています。

こうして出来上がったリストを、相関度と頻度を軸としてヒストグラムにします。

ヒストグラムをみてわかる通り、2019年現時点の暗号資産の相関性は大幅に低下していることがわかります。この結果は「ウェルチのt検定」という手法によって、偶然による可能性が極めて低いことが確かめられています。

また、時価総額トップ20同士の相関性を見ると、TRONのみが目立って逆相関にあることがわかります(拡大図はコチラ)。

相関性が低下したことは良いこと?

相関性の低下は、ポートフォリオのリスク分散という視点からみて良いことであるといえます。これは「あるアセットの価格の上下に他のアセットがつられて動きにくい」ということを意味するからです。

例えば、時価総額トップ20の暗号通貨それぞれに投資資産の5%ずつを割り当てるポートフォリオを作ったとしましょう(実際には時価総額の大きい通貨により大きな割合を充てる「加重平均法」が一般的です)。

2018年の相関性の場合、仮にビットコインの価格が大幅に降下し市場の時価総額が下がったとすると、他の通貨も一緒に下がることになり、大損してしまうことになります。

しかし、2019年の相関性ではその下がり幅が小さくなり、かつ少なからず逆相関にある通貨の価格は逆に上昇して損失をカバーできるため、ひとつの資産(例えばビットコイン)の価格が下落してもポートフォリオ全体はそこまで下がらないことが予想できます。

つまり、投資資産を相関性の低いアセットに広く分散することでリターンを維持したままリスク(ポートフォリオ全体の下り幅)を小さくすることができるということになります。

調査の短所

当調査の結果は、暗号資産市場が少しずつ成熟し始め、市場全体が投機に大きく左右されにくくなってきた証拠であるといえるかもしれません。

ステーブルコインやセキュリティトークン、ユーティリティトークンなどそれぞれ大きな違いのあるアセットが登場してきたのもこの現れであるといえます。

しかし、どの調査もそうですが、結果を鵜呑みにしてしまうのはよくありません。今回のHodlBot調査も、主にデータの信憑性などは疑ってかかるべきだといえます。

データの信憑性

当調査は、価格・時価総額データをCoinMarketCapから引用しています。

しかし、先日のBitwiseのリサーチなどで明らかになった通り、同サイトのデータはマイナーな取引所のボリュームかさ増しなどによって時価総額データなどの正当性が大きく疑われています

事実、CoinMarketCapの運営チームも各取引所にライブデータの提供などを要請しており、今年5月にはテザー問題などで信用の疑われているBitfinexリストから除外しています。

したがって、市場の相関性のおおよその動向はあっているかもしれませんが、このようにあまり信用できないデータをインプットとして使っていると「ガーベッジイン・ガーベッジアウト(ゴミを入れればゴミが出てくる)」となってしまう恐れがあります。

リニアリティ

当調査で使われている相関係数は「ピアソンの相関係数」といい、相関を調べる2つの変数の「線形関係」を仮定としています。

「線形関係」とは、変数データがおおよそ直線上に分布していることを意味します。例えば、冒頭で解説した「テストの点数と勉強時間」のグラフは、おおよそ線形に分布していることがわかります。

しかし、暗号資産以外の金融商品の価格や、スペキュレーションやアダプションなどに起因する投資家のセンチメントが大きく関わる暗号通貨市場は、線形関係では表せない可能性があります(例えば下記画像の”d”など)。

まとめ: 相関性は常に変わり続けるもの

この記事では、HodlBotによるレポートの調査方法を詳しく解説し、その結果の有用性・信用度にも触れてきました。

市場の相関性は常に変わり続けるもので、いずれは4月以降のデータも含めて再度計算し直さなければなりません。これは、HodlBotが公開している過去4年間の相関性の推移を見ればよくわかります。

2019年全体、そして2020年の市場の相関性はもちろんまだ誰にもわかりません。パッシブ投資(分散型投資)では、自己裁量で一定期間ごとに相関性を見直し、それに基づいて各通貨の保有割合を変えていかなければなりません(リバランシング)。

リバランシングのコツについては「行動経済学から見る仮想通貨」シリーズでも詳しく解説していますので、興味のある方はぜひ目を通してみてください。

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