イェール大学による $BTC / $XRP / $ETHのリターン・リスクに関する研究結果まとめ
Yuya

ブロックチェーン技術の普及が急速に広まるにつれて、暗号通貨(デジタル資産)の金融商品としての性質が様々な研究機関で研究されています。
今回は、米国の名門校・イェール大学の研究者らが今年7月末に発表したビットコイン・リップル・イーサリアムの3通貨におけるリターン・リスクに関する研究を紹介したいと思います。
こちらのページでは、イェール大学のYukun Liu氏とAleh Tsyvinski氏による同研究結果の興味深い点をわかりやすくまとめていきます。研究の元文献はこちらから閲覧できます。
研究内容の概要
イェール大学のYukun Liu氏とAleh Tsyvinski氏による同研究は、大まかに分けて2つのパートで構成されています。
まず一つ目は、暗号通貨のリターン・リスクの変動パターンは「マクロ経済指標や、他のアセット(株式、法定通貨やコモディティなど)と相関性があるのか」という点です。
暗号通貨のリターン・リスクが特定の金融商品に順ずる、あるいは反することがわかれば、投資戦略の構成やポートフォリオの構築にとても役立つものとなります。
二つ目のパートは、暗号通貨(上記3通貨)のモメンタムに関する調査です。同研究では、特定の暗号通貨のボラティリティや注目度の変化がリターンの変動にどのような影響をもたらすかを調べています。
こちらのトピックは、テクニカル指標などを参考にしたアクティブトレードを行う投資家にとってとても貴重な情報となります。
研究の対象となった通貨は、2018年10月時点で時価総額トップ3に位置するビットコイン($BTC)・リップル($XRP)・イーサリアム($ETH)となっています。
パート1: 他のアセットクラスとの相関性
研究結果の要約・ビットコインのリターンが1日で20%以上下落する確率は0.5%、20%以上上昇する確率は1%
・3通貨とも「月曜日が安い」などといった曜日効果はほぼなし
・株式との相関はあまりなし: リップル・イーサのみ割安株と逆相関の可能性あり
・法定通貨との相関は有意なし
・イーサリアムは金と順相関、ビットコインは逆相関
今回の研究で使用されたリターン(平均)とリスク(偏差値)のデータはCoindeskから得たもので、各通貨の対象期間は以下の通りになっています。
- ビットコイン: 2011/01/01 ~ 2018/05/31
- XRP: 2013/04/08 ~ 2018/05/31
- イーサリアム: 2015/07/08 ~ 2018/05/31
研究記事の冒頭では、対象の3通貨のリターンが1日で20%以上下落または上昇する確率が示されています。
20%以上の下落 | 20%以上の上昇 | |
---|---|---|
ビットコイン | 0.5% | 1% |
リップル(XRP) | 0.62% | 2.47% |
イーサリアム | 0.57% | 2.20% |
また、株式市場などでみられる「曜日効果」はほぼ存在しないに等しく、特別にリターンが上下する曜日などはないとされています。
続いてLiu氏とTsyvinski氏は、暗号通貨と普通株式の相関性について調べています。
ここでは、「ファーマ・フレンチモデル」と呼ばれる資本資産価格モデル(CAPM)の応用型モデルが採用されています(CAPMのわかりやすい解説はコチラ)。
暗号通貨と株式の相関に関しては、統計的に有意な結果はほぼ出ていません。しかし、XRPとイーサリアムのみ「割安株と逆相関の可能性」があるとされています。
割安株(バリュー株)とは?現時点での株価が企業の本来的な価値より低い株式のこと。つまり、現時点で「実力より低く見積もられている」企業の株式を示す。
Liu氏らは暗号通貨と法定通貨(オーストラリアドル・カナダドル・ユーロ・シンガポールドル・英ポンド・米ドル)の関係性も調査しましたが、これも統計的に有意な結果は出ていないようです。
コモディティとの比較では、イーサリアムは金と順相関(5.45%)であるのに対し、ビットコインは逆相関(-3.74%)にあるとされています。
金のリターン変動に対して時価総額トップ2の通貨がそれぞれ逆向きに動くというのは、大変面白い結果なのではないでしょうか。
しかし、この結果におけるビットコインとイーサリアムのデータ対象期間は異なるため、とても正確な結果とは言えません。
パート2: モメンタムに関する調査
研究結果の要約・標準偏差が1上がるにつれ以降一定期間内にリターンも上がる傾向にあり
・ポジティブな検索・ツイート数に応じて1~2週間で価格が上昇する傾向にあり
・ポジティブな検索・ツイート数で一番価格が上昇するのはリップル
・ネガティブな検索・ツイート数に応じて1~5週間で価格が下降する傾向にあり
・マイニング系企業株との相関性はあまりなし
研究の後半では、対象3通貨のリターンがボラティリティや投資家の注目度の上昇に応じてどう変化するか(モメンタム)を調査しています。
まずはじめにまとめられているのが、「特定のデイリターンが急上昇した場合、以降のリターンはどのように変化するのか」というものです。
ビットコインのケースでは、今日のリターンが1標準偏差分上昇すると、翌日のリターンが0.33%、3日で0.17%、5日で0.39%、6日で0.50%上昇する、という結果が出ています。
同様に、リップルでは、1日〜5日それぞれのスパンで0.04~0.08%、イーサリアムでは翌日に0.08%、5日で-0.08%という値が算出されています。
またLiu氏らは、通貨の名前のGoogle検索・ツイート回数が特別に増えた際(1標準偏差分上昇)に、以降の週リターンがどのように変化するかも調査しています。
ここで特筆すべきはリップルの結果で、ビットコインが1週間後に約2%、イーサリアムが約4%ほどの上昇を見せるのに対し、XRPは約11%の上昇が見られるといいます。
これはつまり、リップル社に関するニュースなどが元で検索・ツイート数が増えると、そこから大体1週間で週間リターンが11%ほど上昇する可能性が高いということです。
ビットコインでは、「ビットコイン ハッキング」などといったネガティブな検索・ツイートが増えるにつれ、1~5週間それぞれで週間リターンが約2%ほど低下するといった結果も出ています。
最後に付け加えておきたいのが、3通貨のリターンとマイニングチップメーカーのリターンの関係性です。
一見、メジャーな仮想通貨のリターンはGPUやASICチップのリターンに影響されやすいのではと思いがちですが、同研究によれば両者の相関関係はほぼないという結果が出ています。
まとめ ー 研究結果の最も重要なポイント2つ
Liu氏らによる研究結果からは、次の2つの重要な点が読み取れます。
- (少なくともメジャーな)仮想通貨は株式やコモディティなどの従来のアセットとは大きく異なるもので、リターンの相関性はほぼ無いに等しい。
- 仮装通貨のリターンはポジティブ・ネガティブなニュースに大きく左右される。特に、XRPはGoogle検索・ツイート数の急増から1週間をめどにリターンが大きく上昇する傾向にある。
一つ目は、「相関性が無い = 逆相関」ではないため、仮想通貨は従来の金融商品の完璧なヘッジアセットとはならない、という点に注意しなければなりません。
二つ目は、仮想通貨市場でおなじみの「ハイプ効果」は根強く存在するということを証明するものだと言えるでしょう。
同記事では、統計的に有意性のない結果・数値は除外しています。しかし、有意性のない統計でもある程度の傾向を掴む参考にはなるかもしれませんので、気になる方は元文献をチェックすることをオススメします。