【代表インタビュー】バイナンスで約1兆円流出|資産の8割を仮想通貨で持つCrypto Times代表は、どこに置いているのか
10月30日、世界最大の暗号資産取引所Binance(バイナンス)で約63.6億ドル(約1兆円)相当の資産流出が発生したことが明らかとなりました。過去最大規模とされる今回の事件は取引所のセキュリティだけでなく、個人が資産をどのように保有・管理すべきかという問題を改めて浮き彫りにしています。
CRYPTO TIMESを2018年から運営する代表の新井進悟は自身の資産の約8割を仮想通貨で保有しています。一方、今年は不動産を購入するなど、これまで仮想通貨に集中していた資産配分を見直し始めています。
今回の事件をどう受け止めているのか。取引所への依存やセルフカストディのリスク、AIの普及が金融機関に及ぼす影響、そして自身の資産管理方針について聞きました。*取材実施日:2026年10月30日
目次
- 1 「業界として重く受け止めるべき」
- 2 取引所に置く資産と、自分で持つ資産
- 3 AIの時代は「お金そのもの」が狙われる
- 4 資産の8割は仮想通貨、2割は不動産
- 5 現金を増やすのは「逃げ」
- 6 CEXへの不信は、DEXの追い風になる
- 7 これから:逆境をバネに
- 8 おわりに
- 9 記事ソース
「業界として重く受け止めるべき」
― 世界最大の仮想通貨取引所で起きた今回の事件を、業界にとってどのような出来事だと受け止めていますか。
新井 : 何よりまず、金額の大きさに驚きました。1兆円近い規模となるとバイナンスにとっても相当な痛手になるはずです。
2025年2月にBybitで起きた約15億ドルのハッキングもまだ記憶に新しいと思います。今回伝えられている数字が本当であればそれを大きく上回る規模です。
流出した資金のおよそ半分が凍結されているとしても、バイナンスがこれほどのハッキングを受けたことは業界としてかなり重く受け止めなければならないと感じています。
取引所に置く資産と、自分で持つ資産
― 今回の事件を踏まえ、取引所に預ける資産と自分で管理する資産についてどう考えておくべきでしょうか。
新井 : 自分である程度管理できる環境を作っておくべきだと強く感じています。
オンラインに資金を預けること自体がすべて問題だとは思っていません。ただ、取引所に預けている資産と自分のウォレットで管理している資産とでは今回のような出来事が起きたときの影響が違います。
バイナンスに仮想通貨を預けていた人は今回の問題に直面しました。一方で、ビットコインやイーサリアムを自分のウォレットやハードウェアウォレットで管理している人は今回の流出で被害を受けていません。この違いは大きいと思います。
― セルフカストディ(自分で鍵を管理して資産を持つこと)でも、購入経路や秘密鍵の管理には注意が必要です。ハードウェアウォレットを使ううえで何を重視していますか。
新井 : ハードウェアウォレットでもLedger社の端末が販売店を経由する途中で改ざんされ、仮想通貨が不正に流出した事件がありました。ですから、信頼できるところから購入することと秘密鍵をなくさないようにすることが大切です。
― ハードウェアウォレットとソフトウェアウォレットを併用して実際に管理するとなると、どこに難しさがありますか。
新井 : やはり、手間がかかるところです。
ハードウェアウォレットが劣化しない環境で保管したり、複数持っておいたりすることも考えられます。私自身もハードウェアウォレットを持っていてソフトウェアウォレットと分けて管理しています。
こうした管理は大変だと感じているので、自分のオンチェーンでの資産管理の方法を今一度見直したほうがいいと思っています。
AIの時代は「お金そのもの」が狙われる
― 今後さらにAIが普及することを踏まえると、資産管理で警戒すべきリスクはどう変わると考えていますか。
新井 : 先日もGMOの事件について公式YouTubeチャンネルで話したのですが、自分たちの資金をAIによる攻撃からどう守ればいいのか最近はかなり考えるようになっています。
今は個人情報の流出などに焦点が当たることが多いと思います。ただ、それだけでなく、お金そのものが狙われることにも目を向けなければいけません。
AIエージェントなどが私たちの生活を良くしてくれることはもちろんあると思います。一方で、個人情報を流出させたり、資金を流出させたりする攻撃も起きています。今後もそのあたりはかなり注意していかなければならないと感じています。
― その懸念は仮想通貨取引所だけでなく、銀行やオンラインバンキングにも及ぶと思いますか。
新井 : そうですね。これまでは銀行に現金を預けておけば必要なときに銀行へ行って引き出せる。それが当たり前でした。
ただ、オンラインバンキングがAIによるハッキングを受けて資金が流出するようなことは、本当に起こらないのでしょうか。最近はその点をかなり危惧しています。
金融関係の方に聞くと古いシステムがいまだに残っているところも多いそうです。そう考えると本当に銀行ですら信用していいのか、と感じています。
― 資産の預け先への信頼が問い直される動きは、今後数年でどこまで進むと見ていますか。
新井 : 「本当に銀行を信用していいのか」と問われる時代が、AIによってここ2、3年で来るのではないかと思い始めています。
今回のバイナンスの一件だけでなく、将来的にはもっと大きな事例が銀行のような環境で起きる可能性もあると思います。普段使っている銀行やネット銀行をそのまま信頼していていいのか。最近はそういった点を強く感じています。
今回の件で「仮想通貨はやっぱり危ない」と思う方もいると思います。ただ、私が懸念している問題は従来の銀行にも無関係ではありません。
仮想通貨の世界で最大の取引所がハッキングを受けたわけです。私たちは何を前提にポートフォリオを考えればいいのか。そこから見直す必要があると思います。
資産の8割は仮想通貨、2割は不動産
― 資産の保管先だけでなく、現金や不動産を含む配分も見直しているそうですね。考え方が変わった理由を聞かせてください。
新井 : ビットコインはAI時代に非常に向いている資産だと考えてきました。それでも、ある程度の現金を持っておくことは最悪の事態へのリスクヘッジになると感じています。
たとえば極端なケースですが、国内外の仮想通貨取引所がすべてハッキングを受け、閉鎖されてしまったらどうなるでしょうか。
ビットコインやイーサリアムを持っていても、換金したいときに法定通貨に換える手段がなければ困ります。そう考えると「現金も最低限は持っておくべきだ」というのが最近の私の考えです。
今後、AIが脅かす対象は資金だけでなくインフラにまで広がるかもしれません。そうなったときには、実物を持っておくことに意味が出てくる可能性もあります。ただ、その実物も必要なときに換金できるのかは考える必要があります。
私自身、これまではほぼ100%仮想通貨で生活してきました。今はその考えを見直しているところです。
― ご自身は今、資産をどう分けていますか。今回の件を受けて、何か動かしましたか。
新井 : 今は8割ほどを仮想通貨で持っています。残りの2割は不動産で今年購入しました。ほぼ仮想通貨と不動産で現金はほとんど持っていません。
今回の件を受けて実際に動かしたものは、まだありません。ただ、少額でもいいので毎月現金を残していこうと考えています。あわせて、仮想通貨のカードのように仮想通貨を日常の支払いに回せる手段も持っておくべきだと感じています。
― 銀行や取引所への不安を持っているなかで、まだ何も動かしていないのはなぜですか。
新井 : 事件が起きたばかりでまだ動かせていないというのが正直なところです。それに、慌てて動くのが本当にいいのか、という思いもあります。まずは自分が今何をすべきか棚卸しをしなければいけないと考えています。
最近は個人情報の流出も多く、自社のサイトも含めて見直す対応がかなり増えています。腰が重いところもありますが、セキュリティを高めながら少しずつ手をつけています。
その意味では事件の前ではありますが、100%仮想通貨だったポートフォリオの一部を不動産に移したことが自分の中ではひとつの行動だったと思っています。
― 仮想通貨のうち、取引所に置いている分と自分のウォレットで持っている分はどれくらいの比率ですか。
新井 : 事情があって仮想通貨のうち1割ほど、資産全体で言えば8%ほどを一時的に取引所に置いています。ただ、これも引き上げる予定です。それ以外は自分で鍵を管理するウォレットとハードウェアウォレットで持っています。
取引所に置いておくこと自体がリスクだと最近は考えています。この方針はこれからも変わりません。ハードウェアウォレットや自分で鍵を管理するウォレットをきちんと使うほうがいいと思います。
― 仮想通貨中心だった中で今年、不動産を買ったのはなぜですか。
新井 : 実は深く考えて買ったわけではありません。仕事でも付き合いのある不動産会社の方とよく話をしていて、その方から良さそうな物件があると勧められたので購入しました。都内一等地のタワーマンションや自分が悠々自適に住むような物件を想像されるかもしれませんが、まったく違います。都心から離れた、築50年ほどの物件です。そこは誤解しないでほしいですね。
もちろん、不動産は流動性が低いので必要なときにすぐ換金できるものではありません。それでも、仮想通貨の市場がこの先どうなるか分からない以上、リスク分散として持っておいてもいいとようやく思えるようになりました。
去年から今年にかけてはテック株やゴールドも大きく上がりました。今でも仮想通貨にベットはしますが、100%仮想通貨にこだわらず、いろいろな考え方を持つようになっています。世界の実物を持っておくことにはひとつの強さがあると個人的には思っています。
現金を増やすのは「逃げ」
― とはいえ、現金は円安やインフレで目減りします。現金を増やすのは、逃げではないですか。
新井 : 正直、逃げだと思っています。日本の経済は停滞が続いていて、円安はこの先も進むと私は見ています。なので日本円を増やすつもりはなく、持つのはあくまで最低限です。
円を増やすより考えたいのは、ドルで稼ぐことです。最近は海外のクラウドソーシングサイトもあるので海外の案件を受けてドルで報酬をもらい、必要な分だけ円に換える。そういう形を考えられるといいと思っています。
― 仮想通貨のカードを持っておくとのことですが、取引所が止まったら使えなくなりませんか。
新井 : 取引所を経由するカードもあります。ただ、TriaやEther.fiのようなカードは取引所とは別のルートで、Rainというプロバイダーを使ってカードを発行しています。こうしたカードを最低1枚持っておくのはいいと思います。
― 仮想通貨をまだ少ししか持っていない読者は、今回の件を受けて何から手をつければいいですか。
新井 : 正直、これをやれば正解というものは分かりません。ただ、昔から言っている通り、日本円だけに依存するのも仮想通貨だけに依存するのもよくないと思っています。ずっと仮想通貨に偏っていた私自身もそう考えるようになりました。
日本円を持っていてもいいし、仮想通貨だけを持っていてもいい。ただ、その生殺与奪を他人に握らせるのは怖いことです。だからこそ、自分で管理できる環境を整えておくのがいちばんいいと思います。
とはいえ、日本円を全部手元で管理するのは現実的ではありませんし、どう管理すればいいのかは私にも難しい問題です。なので、株式でも何でもいいのでしっかりした資産を多少持っておく。そのうえで日本円も少額持ちながら、仮想通貨に投資していく。それが今の私にとって、いちばんいい形だと思っています。
CEXへの不信は、DEXの追い風になる
― CEX(中央集権型取引所)への信頼の揺らぎは、HyperliquidなどのDEX(分散型取引所)やトークン市場にどのような影響を与えると見ていますか。
新井 : 以前から、CEXへの信頼が薄れてきているという話はありました。Hyperliquidなどが伸びている背景にもそうした意識の変化があると思います。
そう考えると、株式のトークンや今後も出てくるであろうRWA(実物資産)系のトークン、HyperliquidのようなDEXにはかなりの追い風になっていくはずです。
今は一時的に逆境のように見えても「自分のお金は自分で管理する」という考えに立ち返る時代はどこかで必ず来ると思っています。今回のバイナンスの件を見て、その思いが強くなりました。
これから:逆境をバネに
― 今回の事件を経て、仮想通貨市場とバイナンスの今後に何を期待しますか。
新井 : 仮想通貨市場は一時的に逆境に見えても、必ずいい方向に進んでいくと私は考えています。
昔から「ハッキングのときはチャンスだ」という言葉もあります。この逆境をバネにV字回復してくれればいいなと思っています。
バイナンスはかつては多くの日本人が取引していた取引所でこの業界にとってなくてはならないプレイヤーです。このまま無事に、これからも事業を続けていってほしいと思っています。
おわりに
今回のインタビューから浮かび上がったのは、特定の金融機関や資産に依存することへの警戒感です。新井は資産の約8割を仮想通貨で保有し、その大半を自身で管理する一方、今年は不動産を購入するなど資産の分散にも取り組んでいます。
AIの進化によって金融システムを取り巻くリスクが変化するなか、資産をどこに預け、どのように管理するのか。今回の事件は仮想通貨投資家にとどまらず、金融サービスを利用するすべての人にとって資産管理のあり方を見直す契機となりそうです。
記事ソース
- TRM Labs「North Korea Steals USD 6.36 Billion From Binance in the Largest Hack in History」(2026年10月)
- CNBC「Binance's $6.3 billion hack: What we know and what comes next」(2026年10月30日)
- eSecurity Planet「Ledger、8600万ドル規模の暗号資産窃盗報道を受けハードウェアウォレットの改ざんを確認」(2026年10月14日)
- 共同通信「GMOに顧客情報公開予告 27日正午、追加攻撃も」(2026年10月27日)
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