中国YMTCは次のキオクシアとなるか?評価7兆円規模のIPOへ

2026/08/13・

よきょい

中国YMTCは次のキオクシアとなるか?評価7兆円規模のIPOへ

引用元: Koshiro K / Shutterstock.com

ct analysis

中国の長江存儲科技(YMTC)が2026年4〜6月期のNAND型フラッシュメモリ出荷量で世界3位に浮上し、キオクシアを僅差で上回りました。ただし今回の順位変動は、四半期単位の需給によって生じた偶発的な結果というより、資金調達と設備投資、そして株主構造の変化という中期的な地殻変動が表層に現れた現象と捉えるべきものと見られます。

同じ8月上旬には、キオクシアホールディングスの筆頭株主が東芝から米ベインキャピタル系の特別目的会社(SPC)に交代しました。NAND市場の主導権を握る要素が、技術や生産能力だけでなく、誰がどの企業の議決権と資金を握るかという次元へ移りつつあります。



国有資本が支えるSTAR市場IPO 想定評価は3000億元規模

YMTCは2026年5月19日、中信証券を主幹事として湖北証券監督管理局に上場輔導の届出を提出し、上海証券取引所の科創板(STAR市場)への新規株式公開(IPO)手続きに入りました。市場では、IPO時の企業価値として3000億元(約7兆円)規模の評価が観測されています。

同社に支配株主は存在せず、株主構成は国有系主体が中心です。武漢東湖新技術開発区の管理委員会が全額出資する湖北長晟発展が26.54%を保有する筆頭株主で、国家集成電路産業投資基金(大基金)の第1期・第2期に加え、地方の国有資本や産業ファンドが名を連ねています。中国唯一の3D NAND一貫製造企業という位置付けが、この資本構成に反映されていると言えます。

キオクシアが2024年12月の上場から約1年半で時価総額を約30倍に伸ばした事実を踏まえれば、メモリ市況の上昇局面における新規上場が持つ資金調達力の大きさは明らかです。YMTCの上場が実現すれば、増産投資に必要な原資を国内資本市場から直接調達できる体制が整うことになります。

武漢第3工場と国産装置比率50%超 2028年に月産50万枚構想

YMTCは武漢に2つの12インチ工場を持ち、合計の月産能力は約20万枚です。第3工場はすでに建屋が完成して装置の搬入段階に入っており、2026年後半に稼働、2027年には月産5万枚まで引き上げる計画とされています。フル稼働時の設計能力は月産10万枚です。

拠点・段階稼働時期生産能力備考
既存2工場(武漢第1・第2)稼働中月産約20万枚エンティティリスト指定前に欧米製装置で構築
第3工場(武漢)2026年後半稼働予定2027年に月産5万枚国産装置比率が50%超、設計能力は月産10万枚
第4・第5工場(計画)時期未公表各月産10万枚想定資金調達完了後に着工とされる
2028年時点の構想全工場フル稼働時月産50万枚世界シェア15%を目標に掲げる

※報道各社が伝えた関係者情報や調査会社の推計に基づく計画値であり、YMTCが公表した確定値ではありません

注目すべきは装置の調達構造です。第3工場では搬入装置の50%超を中国国内サプライヤーから調達しており、3D NANDの垂直積層に用いるエッチング装置なども含まれます。中国の工場における国産装置比率は一般に15〜30%程度とされるなか、大規模メモリ工場でこの水準を超えたのは初めてとされています。

YMTCは2022年12月に米商務省のエンティティリストに指定され、EUVや先端DUV露光装置などへのアクセスを制限されており、その制約への対応として国内調達を進めてきた経緯があります。



キオクシアは筆頭株主が交代 SKハイニックスの転換社債という変数

一方の日本側では資本構造の変化が進んでいます。キオクシアホールディングスは8月10日、東芝の保有株一部売却により、ベインキャピタルが設立したSPCであるBCPE Pangea Cayman 2が議決権比率で東芝を上回り、筆頭株主になったと発表しました。SPC2の保有比率は14.19%、東芝は14.12%です。

このSPC2には、NAND市場で直接競合するSKハイニックスが1290億円の転換社債(CB)の形で出資しています。同社はCBを株式に転換すれば議決権の大半を確保できる権利を持つとされますが、転換には各国競争当局の承認が必要で、2028年までは議決権を15%未満に抑える制限も課されています。

上場企業において競合他社が筆頭株主の議決権をこうした形で握る構造は異例であり、キオクシア自身も利益相反リスクとして開示しています。

今後の展望

YMTCが「次のキオクシア」となり得るかを判断する軸は、少なくとも3つあります。第1に、コンシューマー中心の製品構成をサーバー向けeSSDへ転換できるかどうかです。現時点で同社は出荷量3位・金額5位にとどまっており、この乖離が縮まらない限り、規模の拡大は収益の拡大に結び付きません。

第2に、国産装置での歩留まりと積層技術の追随です。現行のXtacking 4.0は約270層で、SKハイニックスの321層やサムスンの286層に対して技術的な遅れがあるとされます。第3に、地政学的な制約です。米議会では同盟国のサプライチェーンからも中国製メモリを排除する案が議論されており、輸出規制の動向は同社の海外展開の上限を規定します。

供給不足が2027年後半にかけて緩和へ向かうとの予測が広がるなか、増産投資の回収局面と市況の反転局面が重なる可能性があります。数量拡大を急ぐYMTCと単価と製品構成で稼ぐキオクシアという対照的な戦略のどちらが優位に立つかは、次のダウンサイクルで判明することになりそうです。

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