分散のつもりが「二重の円安ベット」?FXと仮想通貨の落とし穴
よきょい

7月30日から8月1日にかけて実施された日米協調介入から、およそ1週間が過ぎました。日本政府・日銀のドル売り・円買いに加え米国側もニューヨーク連銀が米財務省に代わってユーロを売り、円を買ったとみられています。日米当局が同時に実弾を投じるのは1998年のアジア通貨危機時、2011年の東日本大震災後と並ぶ異例の対応で、1ドル=163円台まで沈んでいた円は、わずか数日で155円台まで押し戻されました。
この数日でFXトレーダーの明暗は大きく分かれました。160円超えの水準で買い持ちを続けていた層は含み益を一気に吐き出し、逆に介入警戒でショートを構えていた層は数日で年間分の利益を得たという声もあります。そして見落とされがちなのが、この為替の激変が仮想通貨とりわけビットコイン(BTC)の円建て価格を直撃したという事実です。ドル建てのBTCがほとんど動いていないにもかかわらず、円建てのBTCは節目の1000万円を割り込む場面がありました。
本記事では、介入からの1週間をデータで整理したうえで、FXと仮想通貨がなぜ「同じ相場」として動いたのかを解説します。
① 日米協調介入の1週間──163円から155円へ、そして157円台へ
まずはドル円の動きを時系列で整理します。ポイントは、下落が一直線ではなく「介入 → 急落 → ショートカバーによる戻し → 再度の上値の重さ」という典型的なパターンを辿っている点です。
| 日付 | ドル円の水準 | 市場で起きたこと |
|---|---|---|
| 7月30日 | 163円台→急落 | 日本政府・日銀のドル売り・円買い介入が入り、米国側もユーロ売り・円買いで歩調を合わせたとみられます |
| 7月31日 | 158.225円(終値) | 波状的な介入観測が続き、2日間で5円超の円高となり、1998年以来の日米共同歩調が意識されました |
| 8月3日 | 155円前半 | アジア時間に一時155円台前半まで下落し、追加介入への警戒が最も強まった局面です |
| 8月4日 | 157.98円前後 | 介入観測が途切れ、急落の反動からショートカバーが先行し、終値ベースで約0.3%上昇しました |
| 8月5日 | 157.30〜157.81円 | 日銀議事要旨で引き締め思惑が広がり午前は円買い、夕方にかけて157円80銭付近まで戻しています |
注目すべきは介入の「設計」です。米国側の取引がドル円ではなくユーロ売り・円買いだったと報じられている点は、当局が特定の通貨ペアではなく円相場全体の下落を止めにいったことを示しています。市場では日本の国債下落が米国債のさらなる下落を招くリスクを日米当局が共有し、「円安・日本国債安」のパターンを断ち切ろうとしているとの見方も出ています。
もっとも効果の持続性には懐疑的な声も強いのが実情です。TDセキュリティーズは、介入の勢いでドル円が153円まで下落する可能性はあるものの効果は一時的にとどまるとし、年末予想は159円を維持しています。円高を定着させるには日銀のさらなる行動か、米財務省の全面的なコミットメントが必要になるとの見方を示しています。
② なぜ介入で「円建てビットコイン」が下がったのか
ここが本記事の核心です。ビットコインの価格は、世界の主要取引所ではドル建てで形成されています。日本の取引所に表示される円建て価格は、原則として「BTC/ドル × ドル円」で決まります。つまり、BTC自体が何も動かなくても、円高が進めば円建て価格は自動的に下がるということです。
7月27日〜8月2日の週を分解すると、この構造がはっきり見えてきます。
| 項目 | 週初(7/27頃) | 週末(8/2) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| BTC/円 | 約1,069万円 | 1,000万5,352円 | -6.4% |
| ドル円 | 約163円 | 約158円 | 約-3.0% |
| BTC/ドル(逆算) | 約6.56万ドル | 約6.33万ドル | 約-3.5% |
実際、値動きの順序も為替主導だったことを裏付けています。BTC相場は週央まで1050万円周辺で方向感を探る展開が続いていましたが、30日の米国時間に日米協調介入でドル円が急落すると、円建てBTCは1025万円近辺まで急落しました。加えてホルムズ海峡でのタンカー引き返しを受けた原油高、それに伴う米国債利回りの上昇が追い打ちとなり、米国時間には大台の1000万円を割り込みました。
一方、ドル建てで見たBTCは驚くほど静かです。過去8週間にわたり5.8万ドル〜6.7万ドルのレンジで膠着しており、上には20日EMAの63,890ドル、下には62,500ドルの水平サポートが控えています。RSIは48.66と中立圏で、チャートに表れた優柔不断さをそのまま反映しています。3日夕方に62,241ドルまで下げた後、4日朝には一時64,008ドルまで切り返す場面もありましたが節目は維持できていません。
③ 今週の焦点と3つのシナリオ
介入の余韻が残るなか、当面のドル円は「上は介入警戒、下は日米金利差」という板挟みの構図が続きそうです。想定されるシナリオを整理します。
| シナリオ | ドル円 | 円建てBTCへの影響 | 確認ポイント |
|---|---|---|---|
| 円高再加速 | 153〜155円 | 円高分がそのまま下押しとなり、980万円割れを試す展開もありえます | 追加介入の有無、日銀高官の発言、日本国債利回りの動向 |
| レンジ継続 (メイン) | 156〜159円 | 1000万円を挟んだ往来となり、ドル建てのレンジ膠着が続く前提です | 週後半の米雇用関連指標、現物ETFへの資金流出入 |
| 円安再燃 | 160円超 | 円建ては見かけ上上昇しますが、ドル建ての実力は横ばいのままです | 米インフレ指標、FRBの9月利上げ観測、ホルムズ海峡の合意進展 |
目先の変数は中東情勢です。ベッセント米財務長官は、ホルムズ海峡を開放し「この紛争においてより正常な立場へと移行するための合意が今日か明日にも成立する可能性がある」と発言しました。これを受けて原油は急落し、米長期金利も低下してリスクオンが広がっています。8月5日のアジア時間は、この和解期待によるドル売りと、リスクオンによる円売りが交錯し、157円台後半で拮抗する展開となりました。
金融政策面では、日銀議事要旨で物価の上振れリスクと「数カ月に1度のペースで利上げを検討することが望ましい」との議論が示され、円買い材料として意識されました。一方の米国は、FRBが政策金利を3.50〜3.75%に据え置いたばかりで、市場が織り込む9月利上げ確率は57%まで低下しています。日米ともに金融政策の方向感が読みにくく、これがドル円のボラティリティを高めている構図です。もっとも、ドル円1週間の通貨オプション・ボラティリティは10.6%付近まで低下しており、スポット市場が一旦落ち着いたことを示しています。
まとめ:為替を見ずに仮想通貨は語れない
今回の1週間が突きつけたのは、日本の投資家にとってFXと仮想通貨はもはや別の市場ではないという事実です。円建てBTCの下落幅6.4%のうち約半分が為替要因だったという分解結果は、チャートの形だけを追っていては見えてきません。
ドル円ロングで損を出した方は、円建てBTCでも同じ方向の損失を抱えている可能性が高いといえます。逆に、介入を読んでショートで利益を上げた方が円建てBTCの下落に驚いているとすれば、それはご自身のポジション全体が為替に紐づいていることに気づいていないだけかもしれません。分散しているつもりで実質的に同じ「円安ベット」を二重に持っていないか、この機会に確認しておきたいところです。当面はドル円156〜159円のレンジと、BTCの5.8万〜6.7万ドルのレンジ、その両方を同時に監視する姿勢が求められます。
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