AI株では乗り遅れる?資産運用大手が説く「次は仮想通貨」の論理

AI株では乗り遅れる?資産運用大手が説く「次は仮想通貨」の論理

米資産運用大手フランクリン・テンプルトンでデジタル資産・イノベーション部門を率いるサンディ・カウル氏がエージェントAIを「ブロックチェーンと仮想通貨のキラーユースケース」と位置づける論考を発表しました。この成長機会を捉えるにはAI株だけでなく仮想通貨への投資が必要になると説いています。

同氏は絶えず人間の監督を受けることなく自律的に複数ステップのタスクを遂行する「エージェントAI」の普及によって機械同士の少額決済が増加し、ブロックチェーンがその基盤的な決済レイヤーになる可能性が高いと指摘。この成長を捉えたい投資家はAI株に加えて仮想通貨へのエクスポージャー拡大を検討すべきだと説いています。



S&P500の4割がAI関連株

前提となるのはAIへの投資マネーの集中ぶりです。論考によれば、現在のS&P500は1990年代後半のITバブル期以来の集中状態にあり、時価総額上位10銘柄はすべてAI関連で指数全体の約40%を占めます。ドットコム期の25%、1980年の15%と比べても突出した水準です。

7月上旬には米IBMが「企業のIT支出がAIインフラへ移り、従来型ソフトウェアやITプロジェクトへの支出が先送り・削減されている」との警告を発し、同社の株価は25.2%急落しました。AIが資本の流れを規定する構図はAI企業の巨額調達がビットコインの資金を吸い上げてきたとする仮想通貨市場の「資本の奪い合い」論とも重なります。

機関投資家はAIを構造的なメガトレンドとみなし、半導体株やデータセンターへ資本を投じてきました。しかしカウル氏はこの「AI株を買う」という定石が次の段階では不十分となる可能性があると指摘します。

買い物も支払いもAIが済ませる「エージェント経済」

生成AIが「調べて書く」ことを得意としてきたのに対し、エージェントAIは取引の開始から履行、結果の管理までを自律的にこなすようになるとみられています。2028年には38%の組織がAIエージェントを人間と並ぶ「チームの一員」として迎えると報告されており、エージェント経由の商取引は2030年までに最大3〜5兆ドル、AIエージェントは同年までに米EC売上の15〜25%を占めるとの予測もあります。

すでにChatGPTは1日25億件のプロンプトを処理しており、AIプラットフォームには5,300万件の買い物関連クエリが流れているとされます。OpenAIはTargetやDoorDashなどサードパーティ製ChatGPTアプリ内でのチェックアウト体験も進めています。

こうした動きはOpenAIに限りません。仮想通貨業界でも、AIエージェントに送金やスワップを実行させるBaseの「Base MCP」や、AIボットに閲覧料をUSDCで課金するCloudflareのゲートウェイなど、機械同士の決済を支えるインフラ整備がすでに始まっています。



クレカでは運べない「1回0.1円」の決済

問題はこの機械同士の決済に既存インフラが不向きなことです。クレジットカードの手数料は取引額の2〜3%に加え1件あたり約0.30ドル。一方、AIエージェントが行う決済はコンピュート1秒分やデータ照会1件の購入で平均0.001ドルという極小額です。カウル氏はこうした手数料構造ゆえに従来のカード網や銀行網はエージェントの少額決済に適さないと指摘します。

そこで登場しているのが新たな決済規格です。StripeとVisaは機械間決済プロトコル「MPP(Machine Payments Protocol)」を展開。オープンソース側では1990年代初頭にWebの設計者たちが「支払いが必要(Payment Required)」として予約していたレスポンスコード「402」を、コインベースがエージェント決済プロトコル「x402」として実装しました。

同社はその知的財産をLinux Foundationに移管してオープンな業界標準とし、主要クレジットカードネットワーク各社、Stripe・Shopify・Google・AWSといったWeb2大手、そして拡大しつつあるWeb3勢が賛同。「ソフトウェアがソフトウェアに支払う」ことを人間の関与なしに可能にするのが狙いです。

処理能力の面でもAptosの最大12,933TPS、Solanaの最大6,284TPSといった高速チェーンはVisaネットワーク(通常運用で1,700〜10,000TPS)に比肩する速度を記録しています。しかもVisaの数字は取引の「記録」のみで決済完了には1〜3営業日を要するのに対し、ブロックチェーンは同じ時間内に記録と決済の両方を行う点でこの比較自体がミスリーディングだとカウル氏は指摘します。



「企業の株」ではなく「ネットワークのトークン」を買う

ここから導かれるのが投資への含意です。AIエージェントがブロックチェーンに取引を記録するには、そのチェーンのネイティブ通貨(Solanaを使うならSOL)で支払う必要があります。エージェント決済が拡大すれば、それを支えるチェーンの通貨需要は急増する可能性があり、チェーンの財団に流入した資金が開発助成やバグ報奨金を通じてエコシステムの成長と安全性向上を促す。こうした循環がWeb3アプリがWeb2アプリからシェアを奪う流れにつながり得るというのがカウル氏の見立てです。

同氏は「分散型ネットワークやビジネスの価値を捉えるには投資家はそれらの主体が発行する仮想通貨(アルトコイン含む)を買う必要がある。それが今後数年でますます明確になっていくと考えている」と述べ、こうした投資は特にエージェントAIの機会を捉えたい投資家にとってポートフォリオの主要な保有資産になっていく可能性が高いと結論づけます。

Webサーバーと静的サイトの時代(Web1)からクラウドと対話型アプリの時代(Web2)へ移る過程で主役が入れ替わったように、次の移行ではブロックチェーンと分散型アプリが成長の担い手になるという読みです。

もっとも、フランクリン・テンプルトン自身がファンドのトークン化などデジタル資産事業を展開する「推進側」である点は割り引いて読む必要があります。それでも、AI株への一極集中が続くなかで伝統的な資産運用大手が「次の受け皿」として仮想通貨を名指しし始めたこと自体は覚えておきたい変化といえそうです。

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