メタプラネットの新戦略に影?手本とする米優先株が額面割れ
Crypto Times 編集部

ビットコインの保有を推し進めるメタプラネット社が財務戦略の「手本」としてきた世界最大のビットコイン財務米企業「ストラテジー(旧マイクロストラテジー)社」。そのストラテジーが資金調達の柱に据える優先株「STRC」が現地時間6月18日までに2営業日続けて1株90ドルを割り込み、終値88.59ドルをつけました。
メタプラネットが月次配当付きの「日本初の永久型優先株式」の上場に向けた姿勢を示しつつある中、そのベンチマークとする本家のモデルが軋み始めた格好です。
額面割れの優先株、出来高は通常の3倍に
6月18日のSTRCは日中に82.50ドルまで沈み、終値は88.59ドル。2025年7月の上場時に売り出された90ドルを初めて本格的に下回り続ける局面に入りました。
Nikkei225 Futures price by TradingView
値動き以上に注目されるのが出来高で、同日の取引は約1,070万株と通常の1日平均である340万〜350万株のおよそ3倍に増加。配当を受け取るための株が一時的に活発に売買される「動く銘柄」へと姿を変えたことになります。
そもそも「STRC」とは何か
STRCは「ビットコインを直接持たずに、毎月の配当で同社の積み増し戦略に乗るための株式」です。
ストラテジーが2025年7月に発行した優先株で配当は固定ではなく毎月見直される変動型。満期がなく、普通株に転換することもできず、もし配当が支払われなければ未払い分が利息付きで積み上がる累積型として設計されています。
性格を決めているのは資本構成上の立ち位置です。STRCは普通株と社債のちょうど間に置かれ、配当や会社清算時の取り分では普通株主に先んじる一方、社債の保有者には順番を譲ります。値動きを追うだけで配当のないビットコインETFと、ビットコイン本体より荒く振れる普通株(MSTR)。その両極のあいだで「そこそこの利回りと、小さな値動き」を狙う中間的な選択肢、と捉えると分かりやすいでしょう。
需要は当初から旺盛でした。上場時の調達枠は5億ドルで始まりましたが、申し込みが集まり最終的に約20億ドルへ拡大。セイラー会長はこの商品を自社の「iPhoneの瞬間」と表現しました。集めた資金はほぼそのままビットコインの購入に回されています。
100ドルを保つ「調整弁」と、止まった資金循環
STRCが一般的の株と一線を画すのは、価格を額面100ドル付近に固定しようとする設計にあります。ストラテジーは三つのレバーを握っています。毎月の配当率を短期金利SOFRに連動させながら裁量で上下させること、市場に出す株数を加減すること、そして必要なら1株101ドルで買い戻すこと。この三つで値動きを抑え、「利回りの付いた現金の置き場所」という顔を保ってきました。
そしてこの優先株はストラテジーの買い増しを回す動力源でもあります。株価が額面を上回っているうちは新株を出してビットコインを買い、その積み増しがさらなる調達を呼ぶ――上り坂では加速する仕組みです。問題は、坂を下り始めたときに同じ仕組みが逆へ働く点にあります。額面を割れば新株発行は採算に合わなくなり、実際に同社は今回、STRCの追加発行(ATMプログラム)を止めました。発行枠が残っていても、額面割れのあいだは買い増しの歯車が空転します。
配当率の推移もその緊張を映しています。上場当初9%だった配当率は2026年3月に11.5%まで引き上げられ、以降は株価が額面を割っても4カ月続けて11.5%のまま。にもかかわらず、株価が88ドル台へ沈んだことで、買い手から見た実際の利回りは約12.9%へと膨らみました。配当そのものが手厚くなったわけではなく、価格が下がった分だけ利回りが見かけ上ふくらんでいるのです。ここで率をさらに上げれば現金の負担が増すだけに、据え置きという判断には価格を支えたい思惑と配当コストを抑えたい思惑のせめぎ合いがにじみます。
「ビットコイン担保」ではない。見落とされがちなリスク
強気の見方も健在です。米TDコーウェンは6月18日のリポートでストラテジー株に「買い」と目標株価400ドルを維持し、優先株群にも強気姿勢を崩していません(MSTRの同日終値は112.53ドル、前日比4%安)。最高財務責任者のアンドリュー・カン氏は「市況が良くない局面では即時のビットコイン購入より現金準備の積み直しや優先株の下支えを優先しうる」と説明しています。調査会社ベンチマークも配当用の現金準備を使い切るまで売却は急がないとして、強制売却の連鎖を指す「死のスパイラル」論に。
ただし、リスクの所在は冷静に押さえる必要があります。STRCはしばしば「ビットコイン担保」と紹介されますが、ストラテジー自身の開示資料によれば、優先証券は同社のビットコイン保有によって担保されておらず保有者は特定のBTCへの直接的な請求権を持ちません。配当率は同社の裁量でいつでも引き下げられ、本業のソフトウェア収益だけでは優先配当を賄えない構造もあります。穴埋めに使う現金準備の多くを転換社債の買い戻しに充てた結果、現状では数カ月分の支払い能力しか残らないとも指摘されます。
セイラー会長によるSTRCの宣伝手法についても、「リスクが説明されていない」との。84万BTC超を握る最大の企業保有者だからこそ、ビットコインが長期の弱気相場に入った場合の配当継続力が問われます。
「2026年にビットコインは50,000ドルを下回るか? – Polymarket」
メタプラネットの「日本初」に突きつけられた現実
この一件は同じ道を歩み始めたメタプラネットにとって他人事ではありません。
同社のサイモン・ゲロビッチCEOは月次配当を視野に入れた日本市場初の永久型優先株式の上場を準備し、ビットコイン・インカム事業の継続的なキャッシュフローを配当の裏付けに据えています。日本では優先株の配当が安定的な事業収益を原資とするよう求められるため、相場が荒れても配当を払い続けられるかが上場審査の焦点になります。
本家STRCが示したのは優先株モデルの真価が「相場が良いとき」ではなく「額面を割ったとき」に試されるという点です。価格が額面を割れば新規調達は止まり、利回りだけが上がっていく。その重力は、為替も金利も異なる日本市場でメタプラネットが挑む「日本初」にも等しくかかります。
手本がつまずきつつ今、問われているのは、メタプラネットの設計図が軟調局面でも配当と額面を保てるのかどうかです。
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