ステーブルコイン送金額の罠|32兆ドルは商業決済ではない
よきょい

Coin Metricsの8月時点の集計で、2026年の調整後USDC送金額が32兆ドルに達しました。供給1ドルあたり年換算741回転という数字も併せて示されています。世界のGDPに迫る規模で見出しとしては強力です。ただし、この数字が何を数えたものなのかを確認すると、印象はかなり変わります。
内訳がその理由を示しています。Base上のUSDC送金では69%が分散型取引所への流動性供給、23%がフラッシュローンでした。イーサリアム上ではフラッシュローンが65%を占めます。フラッシュローンは借入と返済が同一の取引の中で完結する仕組みで、同じ資金が繰り返し送金として計上されます。流動性の入れ替えも同様です。実際に移動した正味の資金より、記録される送金額のほうがはるかに大きくなります。
「調整後」と「未分類」を確かめる
Coin Metrics自身も、分類した割合を下限の推計として扱っています。Base上の約8%、イーサリアム上の約33%はどのカテゴリーにも入らず、決済やブリッジ、企業の資金移動が含まれる可能性はありますが、それをそのまま商業決済と読み替えることはできません。指標に「調整後」と付いているとき、何を調整したのかを確認する価値はここにあります。
発行元の数字とも一致しません。サークルは第2四半期のオンチェーン取引量を14兆8000億ドル、前年同期比151%増としていますが、その定義はSolanaを除く対応チェーン上のネイティブおよびブリッジされたUSDCです。Coin Metricsの調整後送金額とは別の物差しであり、両者を並べて比較することはできません。同じ「取引量」という言葉が、二つの異なるものを指しています。
円建てでも同じ罠が待っている
この読み方は、日本の話にもそのまま当てはまります。JPYCの累計発行額は2026年4月15日時点で21億円を超えたと公表されていますが、累計発行額は「これまでに発行された総額」であって、現在の残高でも、決済に使われた金額でもありません。3メガバンクが掲げる2028年までに年間最大1兆円という目標も、取引額であって収益ではありません。円建て市場が立ち上がる過程では、こうした数字が並ぶ場面が増えていきます。
確認したいのは3点です。何を数えたのか。いつからいつまでの数字か。誰の定義によるものか。32兆ドルという数字は、USDCが市場の仕組みの中にどれだけ深く組み込まれているかを示す指標としては有効ですが、収益の大きさは示しません。実際、サークルの収益の95.2%は準備資産の運用益でした。数字が大きく見えるときほど、この3点を確かめる価値が上がりそうです。
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